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第三章 秘伝の弟子
086 任されました?
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2018. 12. 26
**********
高耶と俊哉は、それほど多くはない授業の荷物を抱えて雛柏教授の部屋へやって来た。
教授達の部屋がある場所は静かだ。普段から生徒は通らないし、何よりそれぞれの教授達が研究に没頭できるよう、部屋は防音構造になっている。
「さぁさぁ、入って~」
「し、失礼します……」
高耶は何度も来ているが、俊哉は緊張しているらしい。
「あはは。職員室に入るのを怖がる男子中学生じゃないんだから。もっと気楽にね」
「いや、さすがにそれは……」
俊哉が大人しくなったのは良いことだと高耶は内心、満足げに頷く。
「ここ置きますよ」
「うん。和泉君もそこ置いて」
「はい」
教授の部屋は、側面の壁が全て本棚になっている。綺麗好きらしく、帰る時か出勤してすぐにはきっちり机の上を片付ける人だった。
なので、部屋の中央には横になれる大きさのソファーが二つとテーブルがあり、食事やお茶も問題なくできるようになっている。
いつでもお茶やコーヒーが飲めるようにポットもあるし、紙コップだけじゃなく、ちゃんとしたティーセットも専用の棚があってそこから用意できる。
「座って~。お茶でいいかな?」
「はい。お茶菓子は和菓子と洋菓子どっちにします?」
「う~ん。因みに和菓子は何があるの?」
「おはぎです。きな粉とあんこの両方がありますね」
この会話に、一人ソファーに腰掛けた俊哉が呆然としている。
「それ、こし餡?」
「こし餡です」
「ならそれで!」
「はい。俊哉もいいか?」
「え、あ、うん……」
高耶は高い場所にある戸棚に手をかける前に集中する。そして、開けるとそこに、ラップにかかった小皿が五つと大皿が一つ現れた。小皿には、きな粉とあんこのおはぎが一つずつ置かれている。
それを三つ取り出して机に並べると戸棚を閉めた。
「え? それ、教授のおやつじゃねぇの? 何? なんで高耶が?」
混乱しているようだ。高耶が何が欲しいかと聞いたのに、出した場所は教授の部屋の棚の中。意味が分からなかったのだろう。
「あはははっ、和泉君はリアクションがいいねぇ。あのね、こうすれば分かるかな?」
そうして、今度は同じ棚を教授が開ける。しかし、そこにあったのはタオルやハンカチといったもの。きれいに畳まれたそれがぎっしり詰まっていた。
「ええぇぇっ!?」
「高耶君みたいな力のある陰陽師ってね、扉と扉を繋げることができるんだよ。で、さっき繋がってたのは高耶君のお家の棚なんだって」
「マジか……」
しばらく俊哉は棚を見つめていた。
「それにしても、洋菓子の方はケーキだったの? あれはりんごのケーキじゃなかった?」
「ええ。そういえば、教授は好きでしたね」
「そうだよ! あの、ほとんどりんごだけの甘さのシンプルなケーキっ……午後のおやつにちょうだい」
「……分かりました」
「やったね!」
大はしゃぎする教授も落ち着いてから、三人で休憩タイムに入った。
「いいなぁっ。和泉君、光と闇の式神を両方見たの? それすっごいレアだよ?」
「そうなんすか? けど、どうせならドラゴンの姿も見てみたかった」
「分かる! 黒艶ちゃんを見られるのもすっごくラッキーな気持ちになるんだけど、やっぱり見たこともないドラゴンってのを見たいってのが男ってものだよね!」
高耶をよそに、二人が盛り上がっている。
「そうなんすよ!! なぁ高耶! 見せてくれねぇ?」
「大パニックになるだろうが……」
「なら、黒艶さんはあの姿のままずっとってことじゃん。気の毒だろっ」
「いや、別に窮屈だとかそういうのはないはずだから……」
「そうなん?」
「ああ。元々、式神達に固定の姿はないからな」
「へぇ……」
ちょっと残念そうな響きが混じっていた。これは話を変えなくてはと高耶はこの部屋に来てから気になっていたことを口にした。
「そういえば教授、あの鉢植え……今までありませんでしたよね?」
「ん? あっ、さすがだねっ。やっぱり気になる?」
「ええ……かなり力を持ってますね」
教授の仕事机。そこにある小さな鉢植え。それがずっと何かを高耶に主張しており、気になっていた。とはいえ、雛柏教授は陰陽師の家の筋。高耶が手を出す必要はない。
「あれね、本家から預かったんだよ。高耶君に渡してくれって」
「え? 俺に?」
「うん。ってことで、よろしくね」
「はい?」
笑顔で手渡されても意味が分からなかった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
今週はどこかでもう一度投稿予定です。
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高耶と俊哉は、それほど多くはない授業の荷物を抱えて雛柏教授の部屋へやって来た。
教授達の部屋がある場所は静かだ。普段から生徒は通らないし、何よりそれぞれの教授達が研究に没頭できるよう、部屋は防音構造になっている。
「さぁさぁ、入って~」
「し、失礼します……」
高耶は何度も来ているが、俊哉は緊張しているらしい。
「あはは。職員室に入るのを怖がる男子中学生じゃないんだから。もっと気楽にね」
「いや、さすがにそれは……」
俊哉が大人しくなったのは良いことだと高耶は内心、満足げに頷く。
「ここ置きますよ」
「うん。和泉君もそこ置いて」
「はい」
教授の部屋は、側面の壁が全て本棚になっている。綺麗好きらしく、帰る時か出勤してすぐにはきっちり机の上を片付ける人だった。
なので、部屋の中央には横になれる大きさのソファーが二つとテーブルがあり、食事やお茶も問題なくできるようになっている。
いつでもお茶やコーヒーが飲めるようにポットもあるし、紙コップだけじゃなく、ちゃんとしたティーセットも専用の棚があってそこから用意できる。
「座って~。お茶でいいかな?」
「はい。お茶菓子は和菓子と洋菓子どっちにします?」
「う~ん。因みに和菓子は何があるの?」
「おはぎです。きな粉とあんこの両方がありますね」
この会話に、一人ソファーに腰掛けた俊哉が呆然としている。
「それ、こし餡?」
「こし餡です」
「ならそれで!」
「はい。俊哉もいいか?」
「え、あ、うん……」
高耶は高い場所にある戸棚に手をかける前に集中する。そして、開けるとそこに、ラップにかかった小皿が五つと大皿が一つ現れた。小皿には、きな粉とあんこのおはぎが一つずつ置かれている。
それを三つ取り出して机に並べると戸棚を閉めた。
「え? それ、教授のおやつじゃねぇの? 何? なんで高耶が?」
混乱しているようだ。高耶が何が欲しいかと聞いたのに、出した場所は教授の部屋の棚の中。意味が分からなかったのだろう。
「あはははっ、和泉君はリアクションがいいねぇ。あのね、こうすれば分かるかな?」
そうして、今度は同じ棚を教授が開ける。しかし、そこにあったのはタオルやハンカチといったもの。きれいに畳まれたそれがぎっしり詰まっていた。
「ええぇぇっ!?」
「高耶君みたいな力のある陰陽師ってね、扉と扉を繋げることができるんだよ。で、さっき繋がってたのは高耶君のお家の棚なんだって」
「マジか……」
しばらく俊哉は棚を見つめていた。
「それにしても、洋菓子の方はケーキだったの? あれはりんごのケーキじゃなかった?」
「ええ。そういえば、教授は好きでしたね」
「そうだよ! あの、ほとんどりんごだけの甘さのシンプルなケーキっ……午後のおやつにちょうだい」
「……分かりました」
「やったね!」
大はしゃぎする教授も落ち着いてから、三人で休憩タイムに入った。
「いいなぁっ。和泉君、光と闇の式神を両方見たの? それすっごいレアだよ?」
「そうなんすか? けど、どうせならドラゴンの姿も見てみたかった」
「分かる! 黒艶ちゃんを見られるのもすっごくラッキーな気持ちになるんだけど、やっぱり見たこともないドラゴンってのを見たいってのが男ってものだよね!」
高耶をよそに、二人が盛り上がっている。
「そうなんすよ!! なぁ高耶! 見せてくれねぇ?」
「大パニックになるだろうが……」
「なら、黒艶さんはあの姿のままずっとってことじゃん。気の毒だろっ」
「いや、別に窮屈だとかそういうのはないはずだから……」
「そうなん?」
「ああ。元々、式神達に固定の姿はないからな」
「へぇ……」
ちょっと残念そうな響きが混じっていた。これは話を変えなくてはと高耶はこの部屋に来てから気になっていたことを口にした。
「そういえば教授、あの鉢植え……今までありませんでしたよね?」
「ん? あっ、さすがだねっ。やっぱり気になる?」
「ええ……かなり力を持ってますね」
教授の仕事机。そこにある小さな鉢植え。それがずっと何かを高耶に主張しており、気になっていた。とはいえ、雛柏教授は陰陽師の家の筋。高耶が手を出す必要はない。
「あれね、本家から預かったんだよ。高耶君に渡してくれって」
「え? 俺に?」
「うん。ってことで、よろしくね」
「はい?」
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