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第二章 秘伝の当主
083 天才でも苦手な事もあります
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2018. 12. 5
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珀豪は満足げにスーパーでの戦利品を提げ、高耶の後ろを歩いていた。
「珀豪はいつの間にあんなに慣れたんだ……」
「すごいですっ。尊敬しましたっ」
統二はその時の事を思い出すようにキラキラとした瞳で珀豪を振り返る。
《む。よければ今度コツを教えよう。ご婦人方の中に入っていくのは、少々難しいのでな》
「はいっ」
タイムセールの鐘が響いてすぐ、珀豪はスルスルとその場所へ近付き、群がる奥様達の間に体を滑り込ませながら長い手を差し出してヒョイっと目的の物をあっさりゲットしていた。
戻ってくる時も実にスタイリッシュに、何事もなかったかのようにスッと戻ってきて驚いた。
《ホント、何んで慣れてんの? この袋だってこれだけ買ってもちゃんと入るだけ持ち歩いてるとか引くんだけど》
珀豪の手には左右に一つずつ。大きいサイズの買い物袋と同じくらいの大きさのエコバックがある。そして、小のサイズの袋を清晶が持っていた。
《主殿に作ってもらったのだ。エコバックは持ち歩かねば意味がないではないか》
《なに作らせてんのさ……》
珀豪が持ち歩けるように、普段は折りたたんでベルトに引っ掛けられる仕様にした。まだ一つ腰に引っかかっている。
《因みに清晶が持っているのは、優希用のだ》
《うん……なんとなくわかってた……》
珀豪の持つ袋はシックな黒や青。それに対して可愛らしいヒヨコさんの絵が刺繍されているので、分からないはずがない。その袋の中身は、優希用のお菓子が入っている。
「高耶兄さんは裁縫も出来るんですね」
「あ、ああ……優希のカバンとか雑巾とか縫わないといけないし、ついでにな」
子どもの頃から手のかからない高耶は、新しい学年に上がる時に用意しなくてはならない雑巾も自分で縫っていた。元々、きっちりしたことが好きな上に、極めることに長けているのだ。
ミシンより手縫いの方が好きで、精神集中にももってこいな裁縫は、高耶にとって趣味以上に意味あるものだった。
「僕は小学校の家庭科の授業でくらいしかやったことないんですけど」
「集中力を高めるにはいいものだと思うぞ」
「そうなんですか?」
「ああ、集中ってのを体に覚えさせるには良い。慣れてくると、その時の呼吸とか感覚が分かるようになる。術の練度も上がるぞ」
集中してと言われても、中々できるものではない。集中するという状態が分からない者が最近は多いのだ。
昔は書道やそろばん、ピアノといった集中することを学べる習い事が定番だったし、他に気を惹かれるような娯楽が少なかった。そのために集中するという状況を多く体験できたのだ。
しかし、今は見たいものや、やりたいことが多過ぎて、気が散漫になりやすい。そんな中でも集中できるというのが理想なのだが、それを知ることができないのでは意味がない。
算数や国語といった一般的な授業よりも、家庭科や音楽といった副科的な授業の方が集中する要素が多く、必要とされると思うのだが、そう考える者は残念ながら少ないのが現状だ。
現代は目先のことに囚われやすい。
陰陽術もそうだ。荒削りでもできれば良いと考えるようになっている昨今、術の練度を上げ、より良い状態を目指す気概が見られなくなっている。それでは本当に良い陰陽師にはなれない。
「難しい術になるほど、そういうのが生きてくるし、結果に顕著に表れるようになる。編み物とかもおススメだな」
「編み物もできるんですかっ」
「ん? ああ、母さんが毎年マフラーを欲しがるからな」
いつだったか、母の誕生日プレゼントにマフラーを編んで贈った。それから毎年、流行色を取り入れ、編み方も変えて贈っているのだ。もちろん、誕生日プレゼントとは別に。
《主殿は大抵の事は出来てしまうからな》
《けどなんでかテレビゲームだけは下手くそなんだよね》
「え?」
「……な、慣れてないんだよ……」
子どもの頃も、友人がやっているところは見ていたのだが、そういえばやった事がなかったと最近気付いた。そして、優希にせがまれてやってみたのだが、これが全く上手くいかないのだ。
《主さまが苦戦するところ、初めて見たよ》
《それは珍しいな。だが、あれの特訓はダメだぞ。動かなくなる》
《寧ろ主さまの場合、戦ってるのとか見てると動きたくなるみたいだね。アクション系がひたすらダメだった》
「……」
「高耶兄さん……」
自分ならと置き換えて考えてしまうのだ。そうなるとまるで夢の中で思うように手足が動かないのと同じ感覚になる。ゲームの楽しみ方というのが高耶は人と少し違うらしい。
ゲームの中で唯一本領を発揮できたのは音ゲーだけだった。シューティングゲームでさえ、優希に勝てなかったのだ。
「他の人がやってるのを見てる分にはいいんだ……自分でやるのはなんか違うっていうか……できないっていう違和感がすごくて……」
「……なんとなくわかりました」
何でもできてしまう高耶には、高耶にしか分からない苦悩と感覚があるのだと統二は深く理解した。
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読んでくださりありがとうございます◎
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珀豪は満足げにスーパーでの戦利品を提げ、高耶の後ろを歩いていた。
「珀豪はいつの間にあんなに慣れたんだ……」
「すごいですっ。尊敬しましたっ」
統二はその時の事を思い出すようにキラキラとした瞳で珀豪を振り返る。
《む。よければ今度コツを教えよう。ご婦人方の中に入っていくのは、少々難しいのでな》
「はいっ」
タイムセールの鐘が響いてすぐ、珀豪はスルスルとその場所へ近付き、群がる奥様達の間に体を滑り込ませながら長い手を差し出してヒョイっと目的の物をあっさりゲットしていた。
戻ってくる時も実にスタイリッシュに、何事もなかったかのようにスッと戻ってきて驚いた。
《ホント、何んで慣れてんの? この袋だってこれだけ買ってもちゃんと入るだけ持ち歩いてるとか引くんだけど》
珀豪の手には左右に一つずつ。大きいサイズの買い物袋と同じくらいの大きさのエコバックがある。そして、小のサイズの袋を清晶が持っていた。
《主殿に作ってもらったのだ。エコバックは持ち歩かねば意味がないではないか》
《なに作らせてんのさ……》
珀豪が持ち歩けるように、普段は折りたたんでベルトに引っ掛けられる仕様にした。まだ一つ腰に引っかかっている。
《因みに清晶が持っているのは、優希用のだ》
《うん……なんとなくわかってた……》
珀豪の持つ袋はシックな黒や青。それに対して可愛らしいヒヨコさんの絵が刺繍されているので、分からないはずがない。その袋の中身は、優希用のお菓子が入っている。
「高耶兄さんは裁縫も出来るんですね」
「あ、ああ……優希のカバンとか雑巾とか縫わないといけないし、ついでにな」
子どもの頃から手のかからない高耶は、新しい学年に上がる時に用意しなくてはならない雑巾も自分で縫っていた。元々、きっちりしたことが好きな上に、極めることに長けているのだ。
ミシンより手縫いの方が好きで、精神集中にももってこいな裁縫は、高耶にとって趣味以上に意味あるものだった。
「僕は小学校の家庭科の授業でくらいしかやったことないんですけど」
「集中力を高めるにはいいものだと思うぞ」
「そうなんですか?」
「ああ、集中ってのを体に覚えさせるには良い。慣れてくると、その時の呼吸とか感覚が分かるようになる。術の練度も上がるぞ」
集中してと言われても、中々できるものではない。集中するという状態が分からない者が最近は多いのだ。
昔は書道やそろばん、ピアノといった集中することを学べる習い事が定番だったし、他に気を惹かれるような娯楽が少なかった。そのために集中するという状況を多く体験できたのだ。
しかし、今は見たいものや、やりたいことが多過ぎて、気が散漫になりやすい。そんな中でも集中できるというのが理想なのだが、それを知ることができないのでは意味がない。
算数や国語といった一般的な授業よりも、家庭科や音楽といった副科的な授業の方が集中する要素が多く、必要とされると思うのだが、そう考える者は残念ながら少ないのが現状だ。
現代は目先のことに囚われやすい。
陰陽術もそうだ。荒削りでもできれば良いと考えるようになっている昨今、術の練度を上げ、より良い状態を目指す気概が見られなくなっている。それでは本当に良い陰陽師にはなれない。
「難しい術になるほど、そういうのが生きてくるし、結果に顕著に表れるようになる。編み物とかもおススメだな」
「編み物もできるんですかっ」
「ん? ああ、母さんが毎年マフラーを欲しがるからな」
いつだったか、母の誕生日プレゼントにマフラーを編んで贈った。それから毎年、流行色を取り入れ、編み方も変えて贈っているのだ。もちろん、誕生日プレゼントとは別に。
《主殿は大抵の事は出来てしまうからな》
《けどなんでかテレビゲームだけは下手くそなんだよね》
「え?」
「……な、慣れてないんだよ……」
子どもの頃も、友人がやっているところは見ていたのだが、そういえばやった事がなかったと最近気付いた。そして、優希にせがまれてやってみたのだが、これが全く上手くいかないのだ。
《主さまが苦戦するところ、初めて見たよ》
《それは珍しいな。だが、あれの特訓はダメだぞ。動かなくなる》
《寧ろ主さまの場合、戦ってるのとか見てると動きたくなるみたいだね。アクション系がひたすらダメだった》
「……」
「高耶兄さん……」
自分ならと置き換えて考えてしまうのだ。そうなるとまるで夢の中で思うように手足が動かないのと同じ感覚になる。ゲームの楽しみ方というのが高耶は人と少し違うらしい。
ゲームの中で唯一本領を発揮できたのは音ゲーだけだった。シューティングゲームでさえ、優希に勝てなかったのだ。
「他の人がやってるのを見てる分にはいいんだ……自分でやるのはなんか違うっていうか……できないっていう違和感がすごくて……」
「……なんとなくわかりました」
何でもできてしまう高耶には、高耶にしか分からない苦悩と感覚があるのだと統二は深く理解した。
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