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第二章 秘伝の当主
079 抗議します
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2018. 11. 7
**********
人化しているのは常盤と黒艶。さすがに鳳とドラゴンの姿は晒せないとの配慮からだろう。二人が本来の姿になっていたら、こんなものでは済まなかったはずだ。
彼らの前にはフェンリルの姿の珀豪。天狐の天柳、ユニコーンの清晶と金獅子の綺翔が軽い足取りで歩いていた。
どうやら、瑶迦から派遣された菫と橘は帰ったらしく、気配もなかった。
《主殿、しっかりと思い知らせてやったぞ》
《これでしばらくは大人しくするでしょうね》
珍しく珀豪は怒っていたようだ。ふんと鼻を鳴らして満足そうに目の前で報告してくれる。天柳もクスクスと笑っており、いいザマだと前足で顔を掻いていた。
《いっつも偉そうにしてるバカオヤジは水攻めにしてやったよ。口ばっかで手も足も出ないんだもん。笑っちゃうよね》
《いっぱい埋めといた》
この二人は何をやったか分かりやすいが、間違いなく酷い感じになっただろう。褒めろと見つめてくるのはどうかと思う。
《貴重な資料等は保護をかけておきました》
《どうせならば更地にしてやりたかったがなぁ》
常盤は屋敷を真っ二つにしていたと聞いたが、場所は選んでいたらしい。こういう時でも冷静だ。対して黒艶は久しぶりに暴れられたと嬉しそうだった。
「お前らなぁ……」
確かにお仕置きを目的として来たのだが、ここまでやるとは思わなかった。
「まぁまぁ、高耶。こいつらだって腹に据え兼ねていたんだろう。良くやったと言ってやればいいんだよ」
「……はぁ……」
高耶だって、式神達が本家に思うところがいくつもあることを知っている。今まで何もしなかったのは、高耶が止めていたからだ。
どれだけ暴言を吐きかけたれても、面倒な尻拭いをさせられても高耶は何も言わないし、しなかった。
それが彼らにはストレスだったのだろう。主人である高耶がバカにされて黙っていられるわけがないのだ。
その上、彼らは式の中でも力あるもの。下に見られていい気はしない。
「そうだな……今まで我慢させて悪かった。怒ってくれてありがとうな」
これだけのことを彼らがしたのは、高耶のためだ。今までの恨みを晴らす勢いで怒りをぶつけた。それは、高耶を思っているからであり、何よりも主人と認めた者のための行動に他ならない。式神としては正しい行動といえた。
「そんで? 当主代理はどこだ? 俺も言いたいことあるからな」
逹喜は周りを見回して秀一を探した。
「言いたいことですか?」
「おう。そのために来たようなもんだ。お、もしかしてアレか?」
目を向けた先、式神達が通ってきた道を秀一が弟子達を引き連れてやってきた。
秀一は水浸しになっているし、連れている弟子達は酷く土で汚れていた。誰が何をしたのか高耶には一目瞭然だった。
「貴様っ、なんて事をしてくれたんだ!」
怒りに染まった赤い顔。いつもは神経質そうな顔をして口で負かそうとしてくるのに対し、今はかなり感情的になっているようだ。
「やはりお前になど当主は相応しくない!! この本家の重要性を全く理解していないような者になど、当主でいる資格はない!!」
初めて高耶を当主だと言ったなと、少し驚いて見つめる。自覚はないだろうが。
「秘伝家の守る社を壊したらどうなると思っている!!」
「俺がそれを知らないはずがないでしょう。充雪の社でしたら、安倍の御当主が結界を張ってくださっていましたよ」
「なっ!?」
至って冷静に返せば、秀一は息を止めるほど驚いていた。先ほどの言葉は、その結界に気付かなかったと明言したようなもので、それはすなわち、自身の未熟さを示すものだ。
「だっ、だからと言って本家を破壊するなどっ」
「あなた方が出てこなかったからだと式達は言っています。何より、こうでもしないと、あなたは俺の前に出てこないでしょう」
「っ……」
やり過ぎだとは思っているが、今更式神達の行動を高耶は否定しない。頭に来ていたというのはあるだろうが、恐らくちゃんと最初は警告した筈だ。そこは疑っていなかった。
「今日ここへ来たのは、改めてもらうためです」
「な、なにを……っ」
今はもう腰が引けてしまっている。式神達が威圧しているというのもあるが、後ろに付き従っていた弟子達は、既に倒れそうになっていた。
「先日、秘伝当主と名乗って依頼を受けられたでしょう。正しく依頼人の意向に沿った仕事ではなかったようですね。中途半端に呪いの刀も刺激していましたよ」
「そっ……ぅっ」
思い当たったらしい。ならばと高耶は続ける。
「今日、そこに謝罪に行ってきました。依頼も全て完了し、謝罪も受け入れてもらえましたが、あのような態度で対応して、当主を名乗ってもらっては困ります」
「っ……」
はっきりとした高耶の抗議に、秀一は目を丸くしている。今まで、何を言われようと、何を当主の名でされようと口を出さなかったのだ。言われるとは思っていなかったのだろう。
「秘伝家は武を極めようとする者達の救いでなくてはなりません。何よりも真っ直ぐに彼らに向き合い、武で応えられる者でなくてはならない。それを乱すのであれば、あなた方に今後、秘伝の名を名乗らせるわけにはいきません」
「なんだとっ!? お、お前は、分家の分際で本家をっ……!?」
そこで静かにそれらを今まで聞いていた充雪がキレたのを感じた。
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人化しているのは常盤と黒艶。さすがに鳳とドラゴンの姿は晒せないとの配慮からだろう。二人が本来の姿になっていたら、こんなものでは済まなかったはずだ。
彼らの前にはフェンリルの姿の珀豪。天狐の天柳、ユニコーンの清晶と金獅子の綺翔が軽い足取りで歩いていた。
どうやら、瑶迦から派遣された菫と橘は帰ったらしく、気配もなかった。
《主殿、しっかりと思い知らせてやったぞ》
《これでしばらくは大人しくするでしょうね》
珍しく珀豪は怒っていたようだ。ふんと鼻を鳴らして満足そうに目の前で報告してくれる。天柳もクスクスと笑っており、いいザマだと前足で顔を掻いていた。
《いっつも偉そうにしてるバカオヤジは水攻めにしてやったよ。口ばっかで手も足も出ないんだもん。笑っちゃうよね》
《いっぱい埋めといた》
この二人は何をやったか分かりやすいが、間違いなく酷い感じになっただろう。褒めろと見つめてくるのはどうかと思う。
《貴重な資料等は保護をかけておきました》
《どうせならば更地にしてやりたかったがなぁ》
常盤は屋敷を真っ二つにしていたと聞いたが、場所は選んでいたらしい。こういう時でも冷静だ。対して黒艶は久しぶりに暴れられたと嬉しそうだった。
「お前らなぁ……」
確かにお仕置きを目的として来たのだが、ここまでやるとは思わなかった。
「まぁまぁ、高耶。こいつらだって腹に据え兼ねていたんだろう。良くやったと言ってやればいいんだよ」
「……はぁ……」
高耶だって、式神達が本家に思うところがいくつもあることを知っている。今まで何もしなかったのは、高耶が止めていたからだ。
どれだけ暴言を吐きかけたれても、面倒な尻拭いをさせられても高耶は何も言わないし、しなかった。
それが彼らにはストレスだったのだろう。主人である高耶がバカにされて黙っていられるわけがないのだ。
その上、彼らは式の中でも力あるもの。下に見られていい気はしない。
「そうだな……今まで我慢させて悪かった。怒ってくれてありがとうな」
これだけのことを彼らがしたのは、高耶のためだ。今までの恨みを晴らす勢いで怒りをぶつけた。それは、高耶を思っているからであり、何よりも主人と認めた者のための行動に他ならない。式神としては正しい行動といえた。
「そんで? 当主代理はどこだ? 俺も言いたいことあるからな」
逹喜は周りを見回して秀一を探した。
「言いたいことですか?」
「おう。そのために来たようなもんだ。お、もしかしてアレか?」
目を向けた先、式神達が通ってきた道を秀一が弟子達を引き連れてやってきた。
秀一は水浸しになっているし、連れている弟子達は酷く土で汚れていた。誰が何をしたのか高耶には一目瞭然だった。
「貴様っ、なんて事をしてくれたんだ!」
怒りに染まった赤い顔。いつもは神経質そうな顔をして口で負かそうとしてくるのに対し、今はかなり感情的になっているようだ。
「やはりお前になど当主は相応しくない!! この本家の重要性を全く理解していないような者になど、当主でいる資格はない!!」
初めて高耶を当主だと言ったなと、少し驚いて見つめる。自覚はないだろうが。
「秘伝家の守る社を壊したらどうなると思っている!!」
「俺がそれを知らないはずがないでしょう。充雪の社でしたら、安倍の御当主が結界を張ってくださっていましたよ」
「なっ!?」
至って冷静に返せば、秀一は息を止めるほど驚いていた。先ほどの言葉は、その結界に気付かなかったと明言したようなもので、それはすなわち、自身の未熟さを示すものだ。
「だっ、だからと言って本家を破壊するなどっ」
「あなた方が出てこなかったからだと式達は言っています。何より、こうでもしないと、あなたは俺の前に出てこないでしょう」
「っ……」
やり過ぎだとは思っているが、今更式神達の行動を高耶は否定しない。頭に来ていたというのはあるだろうが、恐らくちゃんと最初は警告した筈だ。そこは疑っていなかった。
「今日ここへ来たのは、改めてもらうためです」
「な、なにを……っ」
今はもう腰が引けてしまっている。式神達が威圧しているというのもあるが、後ろに付き従っていた弟子達は、既に倒れそうになっていた。
「先日、秘伝当主と名乗って依頼を受けられたでしょう。正しく依頼人の意向に沿った仕事ではなかったようですね。中途半端に呪いの刀も刺激していましたよ」
「そっ……ぅっ」
思い当たったらしい。ならばと高耶は続ける。
「今日、そこに謝罪に行ってきました。依頼も全て完了し、謝罪も受け入れてもらえましたが、あのような態度で対応して、当主を名乗ってもらっては困ります」
「っ……」
はっきりとした高耶の抗議に、秀一は目を丸くしている。今まで、何を言われようと、何を当主の名でされようと口を出さなかったのだ。言われるとは思っていなかったのだろう。
「秘伝家は武を極めようとする者達の救いでなくてはなりません。何よりも真っ直ぐに彼らに向き合い、武で応えられる者でなくてはならない。それを乱すのであれば、あなた方に今後、秘伝の名を名乗らせるわけにはいきません」
「なんだとっ!? お、お前は、分家の分際で本家をっ……!?」
そこで静かにそれらを今まで聞いていた充雪がキレたのを感じた。
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