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第二章 秘伝の当主
075 向かう矛先は……
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2018. 10. 10
**********
真矢は今や驚愕の表情を消すことが出来なくなっているようだ。それもそうだろう。あれほどのものを見せられて、嘘だ詐欺だと言うことはできない。
「そんで、あの刀はもう大丈夫なんだな?」
俊哉だけはかなり落ち着いたらしく、思ったことをそのまま口にしている。
それをどこか遠い所で聞いていた真矢や克守達、年長組は少しずつだが、現実に戻ってきているようだ。もう少し待つかと俊哉の質問に答え続ける。
「ああ。ただ、ちゃんとした所に研ぎに出した方がいいな。良かったら紹介するが」
「へぇ、そんな知り合いもいるんだ?」
「まぁな。妖刀専門とか、神刀が専門とか表に出ない所だったりするけど」
「マジか……もう何でもありだな……」
呆れられた。
仕事柄、そういったものに縁があり、専門で腕を磨いている者と知り合うことになるのは、ある意味必然だろう。
陰陽師の中には、妖刀や神刀を武器として使う者達もいるのだから。
俊哉もイメージとして武器として使う所を想像したらしい。
「高耶も刀とか持ってねぇの?」
「基本、徒手空拳だからな。保管を任されているのもあるが、それは本家にあるし、今時持ち歩けないだろ」
「そりゃそうか」
「俺の場合はこうして……」
まだ克守達は動かないなと確認しながら、高耶は水を集めて『水刃刀』を作った。
「ほぇぇぇ……それ、水?」
「そう。だから持ってたって証拠も残らない。元々、暗殺を生業にしてた所の技術で……あ、いや……」
「はあ!? 暗殺って言った!?」
しまったと思った時には遅かった。克守達の様子を気にしながらだったことで思わず口にしてしまったらしい。
「あ~……おう。まぁ、これなら、凶器の証拠なくなるだろ」
「……物騒……ってか、ヤってねぇよな?」
「殺し? しないって。うん……実践はしてねぇな」
「おい……その間、今の間なに?」
実は暗殺術も秘伝として預かる時があったというのは、さすがに口にすべきではないだろう。
それも技術であり、武術の一つだと何代か前の当主が会得してしまったのだ。高耶も分からなくはないと思っている。要は使い方や状況次第なのだから。
今回の奥義もそうだ。殺すことに特化してしまった技というのは存在する。それを一つの技術と見るか、殺人術と取るかの違いだけだ。
「いやだって、武術って、一般の人から見たら危ないものかもしれないだろ? 打ち所が悪けりゃ、どんな技だって危ないものだし、そういうことだよ」
「……なんか、誤魔化されてるっぽいけど……分からんでもない……うちのもそれだしな」
「だろ?」
そういって、高耶は『水刃刀』を霧散させて消した。それから、高耶は改めて克守の前で姿勢を正して座る。
「そろそろよろしいですか?」
「え、あ……はい……っ」
ようやく焦点が定まったように見えた。受け取っていた刀の入った箱をそっと体の横に置く。それから、克守は深く頭を下げた。
「ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、本家の対応で気分を害されたというのに信用して任せていただき、ありがとうございます。また、何かありましたらご連絡を……」
高耶は名刺のようなカードを克守に差し出した。そこには、電話番号と住所が書かれている。
「こちらが連盟の窓口です。秘伝への依頼と言われれば、本家ではなく私の方に連絡がくるようになっていますので、ご遠慮なく」
「それは、お気遣いいただきありがとうございます」
本家に問題があった場合は、こうして連絡先を渡している。今後、同じような対応をさせないためだ。
「あ、もちろん、俊哉を通して連絡いただいても問題ありませんので」
「はい。その時はよろしくお願いします」
これで全て終了だ。
「それでは、失礼いたします。お預かりした秘伝は、今後も秘伝家当主が引き継いでいきますので、必要な際はお声がけください」
「承知いたしました」
立ち上がった高耶は、ふと真矢を見る。今や彼は完全に折れていた。
「清晶」
《なに?》
「何じゃないだろ……そんなに睨むんじゃない」
清晶は、高耶が話している間、ずっと真矢を牽制していた。牽制といえばまだ可愛らしいものかもしれない。完全に真矢は蛇に睨まれた蛙でしかなかったのだから。
《だって、主様に失礼な態度取ってたし、失礼な事言ったんでしょ?》
「気にしてないよ。いいから、その顔やめなさい」
《む……こういう顔だもん……》
ポンポンと頭を撫でて機嫌を取る。水の式である清晶は、精霊と同じ。この周りにいた精霊達に自分が出てくる前のことを聞いたのだろう。
式神は何より主である高耶へ向けられる敵意や害意に敏感だ。それを清晶は感じ取っていた。
高耶がほんの少し不快感を覚えただけで、その要因を排除しようと思うほどには、怒りを覚えるらしい。
「分かった、分かった。そんなら、そのストレスは本家にぶつけるか。ちょっとこれから仕置きに行こう」
《っ、行く!》
一気に膨れ上がったのは、清晶が日頃から本家に抱いている怒りの感情。真矢に向ける物とは比べものにならないほどの嫌悪感だ。
「あ……しまった……」
失敗した。高耶も、ここまで強い感情とは思っていなかったのだ。ここまでくると、他の式神達にも伝わってしまう。そうなるとどうなるか。
《早く行こうよ。珀豪達も来るって》
「いや……せめて三人までな……屋敷がなくなる……」
《社さえ残ってれば良いって、充雪から許可出てるよ》
「いつの間にっ」
《だから大丈夫。早く殺ろう》
「ん? 今……ちょい物騒な……」
確実に殺す気だ。今まで高耶は本家を放置してきた。何を言われても相手にせず、そのままにしてきたのだ。だが、やはりというか、式神達は気に入らなかったのだろう。
《排除……やっとできる……》
「……お~い、清晶……」
《早く乗って》
「……」
一つ瞬きする間に美しいユニコーンの姿に戻った清晶は、その姿に似つかわしくないほどギラギラと目を殺気でギラつかせていた。
「お仕置きだけだからな? はぁ……とりあえず行くか……」
万が一の時は止めればいい。ストレスをこれ以上溜め込むのもよくない。この際だからと諦める。
高耶は一度振り返り頭を下げた。
「それでは、失礼します……」
「あ、はい……」
「高耶~ぁ、犯罪者にはなるなよ~」
「……冗談でもそれを言うんじゃねぇよ……」
フラグが立ったなと俊哉の言葉に高耶は肩を落とし、清晶に跨ってここを後にしたのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
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真矢は今や驚愕の表情を消すことが出来なくなっているようだ。それもそうだろう。あれほどのものを見せられて、嘘だ詐欺だと言うことはできない。
「そんで、あの刀はもう大丈夫なんだな?」
俊哉だけはかなり落ち着いたらしく、思ったことをそのまま口にしている。
それをどこか遠い所で聞いていた真矢や克守達、年長組は少しずつだが、現実に戻ってきているようだ。もう少し待つかと俊哉の質問に答え続ける。
「ああ。ただ、ちゃんとした所に研ぎに出した方がいいな。良かったら紹介するが」
「へぇ、そんな知り合いもいるんだ?」
「まぁな。妖刀専門とか、神刀が専門とか表に出ない所だったりするけど」
「マジか……もう何でもありだな……」
呆れられた。
仕事柄、そういったものに縁があり、専門で腕を磨いている者と知り合うことになるのは、ある意味必然だろう。
陰陽師の中には、妖刀や神刀を武器として使う者達もいるのだから。
俊哉もイメージとして武器として使う所を想像したらしい。
「高耶も刀とか持ってねぇの?」
「基本、徒手空拳だからな。保管を任されているのもあるが、それは本家にあるし、今時持ち歩けないだろ」
「そりゃそうか」
「俺の場合はこうして……」
まだ克守達は動かないなと確認しながら、高耶は水を集めて『水刃刀』を作った。
「ほぇぇぇ……それ、水?」
「そう。だから持ってたって証拠も残らない。元々、暗殺を生業にしてた所の技術で……あ、いや……」
「はあ!? 暗殺って言った!?」
しまったと思った時には遅かった。克守達の様子を気にしながらだったことで思わず口にしてしまったらしい。
「あ~……おう。まぁ、これなら、凶器の証拠なくなるだろ」
「……物騒……ってか、ヤってねぇよな?」
「殺し? しないって。うん……実践はしてねぇな」
「おい……その間、今の間なに?」
実は暗殺術も秘伝として預かる時があったというのは、さすがに口にすべきではないだろう。
それも技術であり、武術の一つだと何代か前の当主が会得してしまったのだ。高耶も分からなくはないと思っている。要は使い方や状況次第なのだから。
今回の奥義もそうだ。殺すことに特化してしまった技というのは存在する。それを一つの技術と見るか、殺人術と取るかの違いだけだ。
「いやだって、武術って、一般の人から見たら危ないものかもしれないだろ? 打ち所が悪けりゃ、どんな技だって危ないものだし、そういうことだよ」
「……なんか、誤魔化されてるっぽいけど……分からんでもない……うちのもそれだしな」
「だろ?」
そういって、高耶は『水刃刀』を霧散させて消した。それから、高耶は改めて克守の前で姿勢を正して座る。
「そろそろよろしいですか?」
「え、あ……はい……っ」
ようやく焦点が定まったように見えた。受け取っていた刀の入った箱をそっと体の横に置く。それから、克守は深く頭を下げた。
「ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、本家の対応で気分を害されたというのに信用して任せていただき、ありがとうございます。また、何かありましたらご連絡を……」
高耶は名刺のようなカードを克守に差し出した。そこには、電話番号と住所が書かれている。
「こちらが連盟の窓口です。秘伝への依頼と言われれば、本家ではなく私の方に連絡がくるようになっていますので、ご遠慮なく」
「それは、お気遣いいただきありがとうございます」
本家に問題があった場合は、こうして連絡先を渡している。今後、同じような対応をさせないためだ。
「あ、もちろん、俊哉を通して連絡いただいても問題ありませんので」
「はい。その時はよろしくお願いします」
これで全て終了だ。
「それでは、失礼いたします。お預かりした秘伝は、今後も秘伝家当主が引き継いでいきますので、必要な際はお声がけください」
「承知いたしました」
立ち上がった高耶は、ふと真矢を見る。今や彼は完全に折れていた。
「清晶」
《なに?》
「何じゃないだろ……そんなに睨むんじゃない」
清晶は、高耶が話している間、ずっと真矢を牽制していた。牽制といえばまだ可愛らしいものかもしれない。完全に真矢は蛇に睨まれた蛙でしかなかったのだから。
《だって、主様に失礼な態度取ってたし、失礼な事言ったんでしょ?》
「気にしてないよ。いいから、その顔やめなさい」
《む……こういう顔だもん……》
ポンポンと頭を撫でて機嫌を取る。水の式である清晶は、精霊と同じ。この周りにいた精霊達に自分が出てくる前のことを聞いたのだろう。
式神は何より主である高耶へ向けられる敵意や害意に敏感だ。それを清晶は感じ取っていた。
高耶がほんの少し不快感を覚えただけで、その要因を排除しようと思うほどには、怒りを覚えるらしい。
「分かった、分かった。そんなら、そのストレスは本家にぶつけるか。ちょっとこれから仕置きに行こう」
《っ、行く!》
一気に膨れ上がったのは、清晶が日頃から本家に抱いている怒りの感情。真矢に向ける物とは比べものにならないほどの嫌悪感だ。
「あ……しまった……」
失敗した。高耶も、ここまで強い感情とは思っていなかったのだ。ここまでくると、他の式神達にも伝わってしまう。そうなるとどうなるか。
《早く行こうよ。珀豪達も来るって》
「いや……せめて三人までな……屋敷がなくなる……」
《社さえ残ってれば良いって、充雪から許可出てるよ》
「いつの間にっ」
《だから大丈夫。早く殺ろう》
「ん? 今……ちょい物騒な……」
確実に殺す気だ。今まで高耶は本家を放置してきた。何を言われても相手にせず、そのままにしてきたのだ。だが、やはりというか、式神達は気に入らなかったのだろう。
《排除……やっとできる……》
「……お~い、清晶……」
《早く乗って》
「……」
一つ瞬きする間に美しいユニコーンの姿に戻った清晶は、その姿に似つかわしくないほどギラギラと目を殺気でギラつかせていた。
「お仕置きだけだからな? はぁ……とりあえず行くか……」
万が一の時は止めればいい。ストレスをこれ以上溜め込むのもよくない。この際だからと諦める。
高耶は一度振り返り頭を下げた。
「それでは、失礼します……」
「あ、はい……」
「高耶~ぁ、犯罪者にはなるなよ~」
「……冗談でもそれを言うんじゃねぇよ……」
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