秘伝賜ります

紫南

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第二章 秘伝の当主

071 どれだけ冷たくされても

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2018. 9. 12

**********

克守が戻ってくるまでに俊哉へと色々確認しておくことにした。

「お前が呼ばれたのって、来た奴を追い返すためか?」
「え、ああ……お前の前に来た奴、スッゲェ嫌な奴らだったらしくて。じいちゃん達だけじゃ危ねぇかなって」

そこで俊哉は祖父へと目を向けた。その意味を察して克守の弟だという見守り隊のおじいさんへ確認する。

「その時、いらしたのですか?」
「そ、そうだ。兄と一緒に対面したんだがな……」
「会ったのはここで?」
「ああ……」

そうですかと小さく呟いた高耶は、目を細めて少し周りを見回した後、ある一点を見つめる。そこには、高耶にしか見えないつい先日の情景。

「分かってはいたが……こういう態度ってのは、困るな……」

ここへ来たのは、言わずと知れた直系で現在当主と名乗っている叔父の秀一。それに付き従うのが嫡男の勇一だ。神経質で、武術よりも陰陽術に秀でた次男はこの時連れてはいなかったらしい。その他、弟子達を二、三人引き連れていた。

稽古や型を見せてもらい、そこから奥義を見極める。普通にできるのはそれくらいだ。高耶のように過去を直接見て知るという技は残念ながら彼らには使えない。

彼らは、今の奥義をそれなりに物にして受け取った。ここで、完璧にとは行かないのは、少々日頃の鍛錬な足りないからだろう。それでも十分に物にはしている。

しかし、克守が求めていたのはそれではない。もちろん、老いてしまったために今の奥義さえ継承が怪しかった克守にしてみたらそれでも素晴らしい成果と言えたが、そうではないのだ。

そこで口論が起きたのは仕方のないこと。都市伝説とまでは言わないが、武道家達の中で伝説となった秘伝家の技は、失った技をも復活させるというもの。

信じてはいなかったが、秀一と勇一の高圧的な態度が元で克守も引けなくなった。

秀一と勇一は、元より本当の当主ではないという負い目もあり、いつもよりもヒートアップしてしまったようだ。

「あの二人は本家の意地ってのが強くて、卑屈になってるから……」
「高耶、仲悪ぃの?」
「ん~、普通に本家に入れてもらえないくらいには仲が悪いな」
「は? いや、だって高耶が当主なんじゃねぇの?」
「そうだけど、ウチの場合、当主の資格を持つのが必ずしも直系ってことじゃないんだ。俺は分家筋。継ぐのは本家直系って思ってた所に分家の子どもがってなったら、印象悪くなるのわかるだろ」
「お、おう……ドロドロのやつな」

昼ドラ系を想像してそうだが、まあいいかと流すことにする。

「ここに来たのは本家直系。ウチのは特殊だからな。発現しない代もあって、その時は直系が当主名代を名乗る。普通の人には当主の証とかわからんし、当主じゃなくても奥義を預かることも不可能じゃない。それだけの技は一応磨いてるからな。色んな武術を経験するから、それなりの年齢になれば動き方一つで奥義がどんなものか分かる目も養える。別にそれだけで十分なこともあるから、一族の誰が出向いても一般的な所なら問題ないんだ」

陰陽術の方に傾倒しているとはいえ、秘伝家の者としての鍛錬は欠かしていない。多くの武術を経験したことで養う観察眼や技術は一流だ。

ただ、本当の当主はそれ以上のこともできるというだけのこと。

「預かった奥義は、当主が集約して覚えることになるけど、別に接触する必要もないし、秘伝家の役目だけは絶対って自負があるから、本家の奴らもそこは渋らないしな」
「へぇ……苦労してんだな……」
「俺は別に、これが昔から普通だったし。何より理解者もいる。あいつらが正当だとかどんだけ言っても、現当主は俺だ。まあ、こうやって尻ぬぐいすんのはいい加減腹立つけどな」
「……怒ってんのは、なんか分かった」

どうやら殺気が漏れたらしい。俊哉達が瞬間的に後退していった。

「悪い……」

その時、克守が体格の良い壮年の男性を連れて戻ってきた。彼の服装は白いシャツに濃紺のスラックス。スーツの上着だけを脱いできたらしい。その人の手には、長く重厚な黒い箱があった。

高耶はそれから滲み出る気配に目を細める。

「こちらが見ていただきたい刀になります」

克守は高耶の前に座ると、その隣に膝をつき、男が箱を置いた。彼の座り方を見ても、武術をやっていることがわかる。

彼は、高耶を射抜くように見つめていた。

「失礼。これは……」
「息子の真矢《シンヤ》です。立ち会わせていただきます。タチの悪い詐欺も多いので」
「これ!! なんてことを!」

克守が慌てるように顔をしかめて怒鳴った。確かに大変失礼な言い方と態度だ。これが相手が高耶ではなく本家の者達だったなら、間違いなくキレている。しかし、高耶にはもはや慣れっこだ。

「お気になさらず。そう取られても仕方のないものです。それよりも、そちらを見せていただいても?」
「え、ええ……」
「……」

不機嫌そうな真矢から取り上げるように、克守が高耶の前に置いた。

「あ、こちらで開けます。本家の者が中途半端に触ったようですから、影響があるといけない」
「そちらの落ち度だろう」
「っ、いいかげんにしないか!!」
「落ち着いて。おっしゃる通りです。ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」
「……」

非は間違いなくこちらにある。頭を下げるなど苦ではない。そう、本家から被る迷惑以上の迷惑などほとんどないのだから。

高耶は本当に真矢を気にすることなく、箱を開けた。そこには、黒い刀が一振り。

明らかにおかしなものが取り憑いているのが高耶の目には見えていた。

そして、思わず出た第一声がこれだ。

「……何してる……」

静かな道場にそんな呆れ返ったような高耶の声が落ちたのだった。
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