61 / 413
第二章 秘伝の当主
061 本能で判断すると……
しおりを挟む
2018. 6. 27
**********
風の式である珀豪は、一番初めの高耶の式神だった。この世界には精霊と呼ばれるべきものが存在する。それが陰陽師たちの言う式神だ。
西洋に行けば精霊と呼ばれるし、契約や顕現の仕方も様々だ。
人が精霊と契約するということは、力として使うことに他ならない。けれど、中には人と同じように式を扱う者たちもいる。
この屋敷の主人と高耶はそれだ。珀豪達や、この屋敷にいる藤達も、そんな主人を持つ故に、世話焼きな気質を持ってしまったんだと考えている。
《主にも困ったものだ。時折抜けておるというのか……そこも嫌いではないのだが》
そう口にすれば、横にいる藤も困った表情で同意する。
《お仕事柄、普段は目立たぬようにと考えておられるのは分かるのです。ですが、そろそろ二十を迎える若者としてはよろしくありませんわね》
これに、天柳が口を挟んだ。
《そうよね。主様のクローゼットなんて、色物が全くないのよ。茶色か黒なんてもっと歳を取ってからでもいいわよね》
《その通りです。任せてください。そんな事もあろうかと、高耶さんに合う服を色々と揃えております。期待してください》
《藤ちゃんさすがね! ああ見えても主様、今時の女の子達が騒ぐようなアイドル並みに素材は良いのだもの!》
テンションが上がっていく天柳と藤の気配に、珀豪が一歩下がる。
優希が、隣に来た珀豪を見上げてその服の裾を引っ張った。
「ハクちゃん?」
《む……いや、気にするな。女性同士、盛り上がっているところを邪魔するのもと思っただけだ》
式神に性別はないのだが、高耶も当たり前のように天柳や藤を女性として扱うので、珀豪もそういうものとして扱うようになった。
「おにいちゃん、カッコよくなる?」
キラキラとした瞳で見上げてくる優希から、前を行く藤と天柳と同じ雰囲気を感じ取り、表情を引きつらせる。なるほど、間違いなく女という気質だと改めて己の天柳達に対する認識を確認する思いだ。
《……いつもとは印象が変わるだろうな》
珀豪はそう言うに留まった。すると、呆気に取られて、今まで口を挟むことが出来ずにいた高耶の母、美咲が尋ねる。
「ねえ、ここにいる人達は、高耶をどう思っているの?」
《ああ……あれらにとっては、息子か弟といったところだろう》
女性として見るのならそれがぴったりだ。これに父、樹が頷く。
「確かに、高耶くんが逆らえない感じだったものね。高耶くんって、女性に弱いのかな?」
《逆らうべきではないものを本能的に察する能力が高いのだ。女であろうとなかろうと、本来は自身の信念や常識から外れていれば容赦をしないのでな》
「へぇ……想像できないな」
《敵ならば女であっても戦うことを躊躇されない》
「う~ん……やっぱり想像できない」
血の繋がりのない優希にも最近は兄馬鹿な様子を見せるようになった高耶を見ている。更には、母親の再婚相手である樹にも嫌な顔一つしない。そんな優しい高耶が容赦しない様というのは、想像できないらしい。
《そこは知らぬ方が良いかもしれんな》
「確かに、そういう場面に出会う機会はない方がいいのかもね」
家族としては知りたいと思うのだろうが、そんな機会などないに越したことはない。
《うむ。どのみちここでは、主は常に押され気味になると教えておこう》
「それは楽しそうね」
「ちょっと可哀想じゃない?」
「いいのよ。あの子、最近特に甘えてくれないんだもの。男の子ってつまんないわ」
《……主は甘え方を知らぬだけだと思うがな……》
怒ってばかりに見えた美咲も、実は高耶が頼ってくれないことが不満だったようだと理解し、珀豪は苦笑するのだった。
◆◆◆◆◆
奥へと連れて来られた高耶は、その部屋にあるものを見て固まっていた。
「……菫さん、橘さん……これってまさか……」
嬉々としてそこに飛び込んで行った菫と橘に確認しようと尋ねた。
《全て主様が用意された高耶さんの服です。高耶さんが百歳になっても着られるよう年代ごとに分けてございます》
《ちなみに隣の部屋には鞄や靴などの小物もありますので、ご覧ください》
「……と、隣も……」
四十畳ほどの部屋一つが、まるで服屋を丸ごと用意したような状態になっている。その全てが、高耶のための服らしい。それが、隣にもあるというのだから、驚くに決まっている。
《主様は高耶さんをご子息のように思っておられます》
《主様は高耶さんをお孫さまのように思っておられます》
「……それは……知ってる……」
だからあまりここへ来ようと思わなかった。はっきり言って恥ずかしいのだ。
はい。溺愛しておられますから
「……」
それは言葉にして欲しくなかった。
《さぁ、高耶さん。こちらを》
《お手伝いいたします》
「いや……自分で着替えるから……」
とはいえ、趣味は悪くない。部屋にあるのは、派手すぎない青や緑など、明るくも奇抜ではないものでまとめられている。
着替える服を受け取り、端に用意されているカーテンで仕切られた場所へ向かう。素早く着替えなければ、二人が突入してきそうだったので、慌てて着替えた。
そうしてカーテンを引くと目の前に二人が迫っていた。
「な、なんだ?」
《髪を整えさせていただきます》
《眼鏡はお取りください》
「はい……」
色々と気に入らないらしいことは良くわかった。
高耶にとってこの屋敷にいる精霊達は、世話好きで少々強引な姉達なのだ。逆らうべきではないと本能で感じていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
パワーが違うのでしょうか。
次回、水曜4日0時です。
よろしくお願いします◎
**********
風の式である珀豪は、一番初めの高耶の式神だった。この世界には精霊と呼ばれるべきものが存在する。それが陰陽師たちの言う式神だ。
西洋に行けば精霊と呼ばれるし、契約や顕現の仕方も様々だ。
人が精霊と契約するということは、力として使うことに他ならない。けれど、中には人と同じように式を扱う者たちもいる。
この屋敷の主人と高耶はそれだ。珀豪達や、この屋敷にいる藤達も、そんな主人を持つ故に、世話焼きな気質を持ってしまったんだと考えている。
《主にも困ったものだ。時折抜けておるというのか……そこも嫌いではないのだが》
そう口にすれば、横にいる藤も困った表情で同意する。
《お仕事柄、普段は目立たぬようにと考えておられるのは分かるのです。ですが、そろそろ二十を迎える若者としてはよろしくありませんわね》
これに、天柳が口を挟んだ。
《そうよね。主様のクローゼットなんて、色物が全くないのよ。茶色か黒なんてもっと歳を取ってからでもいいわよね》
《その通りです。任せてください。そんな事もあろうかと、高耶さんに合う服を色々と揃えております。期待してください》
《藤ちゃんさすがね! ああ見えても主様、今時の女の子達が騒ぐようなアイドル並みに素材は良いのだもの!》
テンションが上がっていく天柳と藤の気配に、珀豪が一歩下がる。
優希が、隣に来た珀豪を見上げてその服の裾を引っ張った。
「ハクちゃん?」
《む……いや、気にするな。女性同士、盛り上がっているところを邪魔するのもと思っただけだ》
式神に性別はないのだが、高耶も当たり前のように天柳や藤を女性として扱うので、珀豪もそういうものとして扱うようになった。
「おにいちゃん、カッコよくなる?」
キラキラとした瞳で見上げてくる優希から、前を行く藤と天柳と同じ雰囲気を感じ取り、表情を引きつらせる。なるほど、間違いなく女という気質だと改めて己の天柳達に対する認識を確認する思いだ。
《……いつもとは印象が変わるだろうな》
珀豪はそう言うに留まった。すると、呆気に取られて、今まで口を挟むことが出来ずにいた高耶の母、美咲が尋ねる。
「ねえ、ここにいる人達は、高耶をどう思っているの?」
《ああ……あれらにとっては、息子か弟といったところだろう》
女性として見るのならそれがぴったりだ。これに父、樹が頷く。
「確かに、高耶くんが逆らえない感じだったものね。高耶くんって、女性に弱いのかな?」
《逆らうべきではないものを本能的に察する能力が高いのだ。女であろうとなかろうと、本来は自身の信念や常識から外れていれば容赦をしないのでな》
「へぇ……想像できないな」
《敵ならば女であっても戦うことを躊躇されない》
「う~ん……やっぱり想像できない」
血の繋がりのない優希にも最近は兄馬鹿な様子を見せるようになった高耶を見ている。更には、母親の再婚相手である樹にも嫌な顔一つしない。そんな優しい高耶が容赦しない様というのは、想像できないらしい。
《そこは知らぬ方が良いかもしれんな》
「確かに、そういう場面に出会う機会はない方がいいのかもね」
家族としては知りたいと思うのだろうが、そんな機会などないに越したことはない。
《うむ。どのみちここでは、主は常に押され気味になると教えておこう》
「それは楽しそうね」
「ちょっと可哀想じゃない?」
「いいのよ。あの子、最近特に甘えてくれないんだもの。男の子ってつまんないわ」
《……主は甘え方を知らぬだけだと思うがな……》
怒ってばかりに見えた美咲も、実は高耶が頼ってくれないことが不満だったようだと理解し、珀豪は苦笑するのだった。
◆◆◆◆◆
奥へと連れて来られた高耶は、その部屋にあるものを見て固まっていた。
「……菫さん、橘さん……これってまさか……」
嬉々としてそこに飛び込んで行った菫と橘に確認しようと尋ねた。
《全て主様が用意された高耶さんの服です。高耶さんが百歳になっても着られるよう年代ごとに分けてございます》
《ちなみに隣の部屋には鞄や靴などの小物もありますので、ご覧ください》
「……と、隣も……」
四十畳ほどの部屋一つが、まるで服屋を丸ごと用意したような状態になっている。その全てが、高耶のための服らしい。それが、隣にもあるというのだから、驚くに決まっている。
《主様は高耶さんをご子息のように思っておられます》
《主様は高耶さんをお孫さまのように思っておられます》
「……それは……知ってる……」
だからあまりここへ来ようと思わなかった。はっきり言って恥ずかしいのだ。
はい。溺愛しておられますから
「……」
それは言葉にして欲しくなかった。
《さぁ、高耶さん。こちらを》
《お手伝いいたします》
「いや……自分で着替えるから……」
とはいえ、趣味は悪くない。部屋にあるのは、派手すぎない青や緑など、明るくも奇抜ではないものでまとめられている。
着替える服を受け取り、端に用意されているカーテンで仕切られた場所へ向かう。素早く着替えなければ、二人が突入してきそうだったので、慌てて着替えた。
そうしてカーテンを引くと目の前に二人が迫っていた。
「な、なんだ?」
《髪を整えさせていただきます》
《眼鏡はお取りください》
「はい……」
色々と気に入らないらしいことは良くわかった。
高耶にとってこの屋敷にいる精霊達は、世話好きで少々強引な姉達なのだ。逆らうべきではないと本能で感じていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
パワーが違うのでしょうか。
次回、水曜4日0時です。
よろしくお願いします◎
131
お気に入りに追加
1,447
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜
楠ノ木雫
ファンタジー
孤児院で暮らしていた女の子リンティの元へ、とある男達が訪ねてきた。その者達が所持していたものには、この国の紋章が刻まれていた。そう、この国の皇城から来た者達だった。その者達は、この国の皇女を捜しに来ていたようで、リンティを見た瞬間間違いなく彼女が皇女だと言い出した。
言い合いになってしまったが、リンティは皇城に行く事に。だが、この国の皇帝の二つ名が〝冷血の最強皇帝〟。そして、タイミング悪く首を撥ねている瞬間を目の当たりに。
こんな無慈悲の皇帝が自分の父。そんな事実が信じられないリンティ。だけど、あれ? 皇帝が、ぬいぐるみをプレゼントしてくれた?
リンティがこの城に来てから、どんどん皇帝がおかしくなっていく姿を目の当たりにする周りの者達も困惑。一体どうなっているのだろうか?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
『これも「ざまぁ」というのかな?』完結 - どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな・他
こうやさい
ファンタジー
短い話を投稿するのが推奨されないということで、既存のものに足して投稿することにしました。
タイトルの固定部分は『どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな・他』となります。
タイトルやあらすじのみ更新されている場合がありますが、本文は近いうちに予約投稿されるはずです。
逆にタイトルの変更等が遅れる場合もあります。
こちらは現状
・追放要素っぽいものは一応あり
・当人は満喫している
類いのシロモノを主に足していくつもりの短編集ですが次があるかは謎です。
各話タイトル横の[]内は投稿時に共通でない本来はタグに入れるのものや簡単な補足となります。主観ですし、必ず付けるとは限りません。些細な事に付いているかと思えば大きなことを付け忘れたりもします。どちらかといえば注意するため要素です。期待していると肩透かしを食う可能性が高いです。
あらすじやもう少し細かい注意書き等は公開30分後から『ぐだぐだ。(他称)』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/878859379)で投稿されている可能性があります。よろしければどうぞ。
URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/750518948
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる