秘伝賜ります

紫南

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第二章 秘伝の当主

060 久しぶりで油断してました

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2018. 6. 20

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藤と高耶を先頭に長い廊下を歩いていく。

先程から不思議そうに藤を見つめる優希の視線を感じていた。綺麗な着物を着た女性の顔に、刺青が入っているのだ。気になるのもわかる。それが面白かったのだろう。藤が笑いながら説明した。

《ふふ、これが気になりますか?》
「……うん……」

刺青自体、優希は知らないだろう。顔に絵が描いてあるというのが不思議で仕方ないという表情だ。

《驚かせてしまったようですね。わたくしは、藤の花の精です。そちらの……式神の方達と同じようなものだとお考えください》
「ハクちゃんたちといっしょ?」
《はい》

少し振り返って笑みを浮かべる藤は、とても綺麗だ。優希も見惚れているのがわかる。

その後ろで驚いた顔をしている父母にも、ここの特殊性を説明しておく。

「この屋敷にいるのは、ここの主人以外、全て人じゃない」
「皆、式神ってことかしら?」

母の声は、困惑の響きを持っていた。

「ああ。主人は少し変わり者で、あまり人付き合いが得意じゃないんだ」

人を雇うことはしない。何より、式神や精霊たちだけで色々と事足りてしまうのだ。彼らは食事を必要としないし、お金もいらない。更には主人に忠実だ。メリットしかない。

「彼らは契約者を裏切らない。裏切れないとも言えるけどな」

人付き合いで一番重要なのはそこだ。誰だって自分の保身を考える。自分には甘くなる。それによって他人との距離が生まれる。

付かず離れずならば良い。だが、近くにいたのに遠ざかるのは気になるものだ。何か嫌われるようなことをしただろうかと疑心暗鬼になったり、逆に意見が合わずに離れる場合もあるだろう。どちらにしても、良い気分ではない。

そんな他人に煩わされるのが嫌になって、式神達とだけで暮らす陰陽師は多い。

《高耶さんの所は、人として人と付き合いながら生きていくべきだと式の方々がお考えですものね》
「契約した時はまだ小学生でしたから。珀豪や天柳なんかは、親のつもりだったんじゃないかと」
《ふふ。可愛らしかったですものねぇ。今も可愛いですよ》
「うっ……」

藤やここの主人とは、今の優希ぐらいの時からの知り合いだ。なんだか恥ずかしくなる。

ここに来るときに珀豪達を顕現させて連れてこなかったのは、こうして、藤と一緒になって高耶を子ども扱いするのを防ぐためだ。さすがに家族の前では恥ずかしい。

「おにぃちゃんはカッコいいよ?」
「優希……っ」

当たり前のようにそんな言葉が優希から出てきたので、高耶は感動してしまった。これを見て、藤が更に声を上げて笑う。

《うふふっ。ええ、今の高耶さんはカッコ良くなりましたね。ですから、その伊達眼鏡は姫様の前では外してくださいな》
「……」
《髪も整えましょうね》

なんだか笑っている目が怖い。それから、その理由に気付いて自身の服装を確認する。間違いなく彼女達やここの主人の趣味ではない。それでも一応は控えめに応戦してみた。

「……これでいいんです……」
《よろしくありませんよ。菫、橘》


ピタリと足を止めて微笑んだ藤に呼ばれ、菫と橘がやって来る。どちらも二十代ごろの若い娘で、藤と同じように顔の端に菫や橘が描かれてていた。

《すぐに高耶さんのお召し替えを》

「ちょっ!?」
《ご心配なく。ご家族の方は、こちらでご案内いたしますね。二人とも、頼みましたよ》


菫と橘が高耶の左右につく。そして、どこからそんな力がと思えるような、見た目に反した力で高耶を吊り上げた。

「え!?」
「すごい力持ちだね……」
「おにぃちゃん?」

母は驚愕し、父は呆然と、優希は首を傾げる。

「ちょっ、は【珀豪】【天柳】ここ頼む!」
《主よ……こうなると分かっていたであろうに……検討を祈る》
《黒縁の瓶底眼鏡はダメよね。大丈夫よ。素材は良いんだもの》

慌てて召喚した二人にそんな言葉をかけられる中、高耶は奥へと引きずられていった。

**********

読んでくださりありがとうございます◎


お姉さん達は気に入らなかったようです。


次回、水曜27日0時です。
よろしくお願いします◎
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