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第二章 秘伝の当主
059 思わぬお出かけ
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2018. 6. 13
**********
土曜日。この日、久し振りにまともに外へ出ることになった。
ずっと珀豪をはじめ、天柳達式神が優希の世話をしてくれていたのだが、今日は絶対に高耶とお出かけするのだと朝からだだをこねたのだ。
「遠くには行けないぞ?」
「いいんだもん! おにぃちゃんとあそぶのっ」
しかし、残念ながらあまりいい天気とはいえない。
「けどなぁ……昼から雨が降るだろ……」
「やだ! おそといきたいっ」
親が共働きでは、中々平日も外で遊ぶことはできない。珀豪達も人の目を集めてしまう容姿をしているので、外には出ないようにしていた。
そのため、必然的に室内で過ごすことになるのだが、ここ何週間か土日には決まって雨が降るということが続いており、優希がさすがに不満を爆発させたのだ。
「う~ん……」
そこでふとテレビの天気予報を見て思いついた。
「なぁ、母さんも父さんも今日は予定ないんだよな?」
「ないよ? けど優希が……父さんじゃヤダって……」
「優希ちゃんも年頃ね~」
「ううっ……」
「母さん……」
最近は父とあまり遊びたがらない優希。色々と心境の変化もあるのだろうが、一番は仕事で疲れて帰ってくる父に遠慮しているのだと思う。
「知り合いの所に一緒に行かないか? 雨も降らない所だし、泊りがけで行こう」
「そんな急にいいの? 迷惑じゃない?」
母がこの提案に驚く。
「連絡はするけど大丈夫だ。旅館とまではいかないけど、居心地はいい所だから」
「いく!」
優希が飛びついた。
「なら、泊まる用意をしないとな」
「わかった~ぁ。テンねぇちゃんてつだって~」
《いいわよ。行きましょう。主様、向かうのは瑶姫の所ですわね?》
「ああ。薄めの長袖で頼む」
《承知しましたわ》
旅行だと喜びながら部屋へ向かう優希を見送り、高耶は式神に伝言を頼む。
「【常盤】家族と行くと伝えてきてくれ」
そう言うと、小さな光で出来た鳥の形が現れ、すぐに消えた。
「高耶くん、今のは?」
「光の式神です。父さんも春ぐらいの服で用意してください。ちょっとこの辺より寒いから」
「わかった。何か手土産とかは?」
「そっちは用意するんで大丈夫です」
納得し父と母も部屋へ向かって行った。
「さてと、俺は向こうに色々置いてあるし、用意できるまで時間があるから、手土産を作るとするか」
《うむ。姫ならばケーキ類か。りんごがあるぞ》
「いいじゃないか。よし、一時間もすれば焼けるし、りんごのケーキにしよう」
高耶は珀豪と共に台所に向かった。
◆◆◆◆◆
玄関から繋げた場所は、深い森の中。そこにあるお屋敷の一角の小屋のドアだった。
「玄関まで少し歩くから」
「凄い屋敷だね……」
「ここどこぉ?」
「……緑の匂いがするわね」
高耶に続いてキョロキョロと屋敷を見回しながら庭を横切っていく。玄関へと回る間にここがどんな所なのかを説明することにした。
「この場所は結界で守られているから、外からは審査と特別な訪問の手順を踏まないと来られないんだ。森の深い場所だから、人も寄り付かないしな」
一部の陰陽師達はここの存在を知ってはいるが、先ず審査で引っかかり、来られない場所だった。
森自体にも結界に近づくにつれて強い迷いの術がかけられているので人は近付けない。上空からも視認できないように術が張られているという徹底ぶりだ。
「そんなところに、なんで高耶は来られるの?」
「俺がここの主人の血を引いてるからだよ」
「血を? じゃぁ……あの人の……?」
「血を引いてるって言っても、どれだけ引いてるか分からないよ。父方の祖母の先祖なんだ」
「先祖って……」
意味が分からないと母は困惑する。それは当然だ。今の説明では、ここにその先祖がいるということになるのだから。
玄関に辿り着くと、同時に自動ドアのように立派な引き戸が勝手に開いた。その先にいたのは藤柄の着物を着た女性。その女性の髪は緑に見える。そして、右頬には藤の花の模様が描かれていた。
「藤さん、お久しぶりです」
《高耶さん、大きくなられましたね。ようこそご家族の方々。わたくしはこの屋敷の管理をしております藤と申します。どうぞ中へ》
藤の姿に驚きながら、何も言えずに父も母も後に続く。優希は不思議そうにじっと藤を見つめていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
不思議な場所です。
次回、水曜20日0時です。
よろしくお願いします◎
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土曜日。この日、久し振りにまともに外へ出ることになった。
ずっと珀豪をはじめ、天柳達式神が優希の世話をしてくれていたのだが、今日は絶対に高耶とお出かけするのだと朝からだだをこねたのだ。
「遠くには行けないぞ?」
「いいんだもん! おにぃちゃんとあそぶのっ」
しかし、残念ながらあまりいい天気とはいえない。
「けどなぁ……昼から雨が降るだろ……」
「やだ! おそといきたいっ」
親が共働きでは、中々平日も外で遊ぶことはできない。珀豪達も人の目を集めてしまう容姿をしているので、外には出ないようにしていた。
そのため、必然的に室内で過ごすことになるのだが、ここ何週間か土日には決まって雨が降るということが続いており、優希がさすがに不満を爆発させたのだ。
「う~ん……」
そこでふとテレビの天気予報を見て思いついた。
「なぁ、母さんも父さんも今日は予定ないんだよな?」
「ないよ? けど優希が……父さんじゃヤダって……」
「優希ちゃんも年頃ね~」
「ううっ……」
「母さん……」
最近は父とあまり遊びたがらない優希。色々と心境の変化もあるのだろうが、一番は仕事で疲れて帰ってくる父に遠慮しているのだと思う。
「知り合いの所に一緒に行かないか? 雨も降らない所だし、泊りがけで行こう」
「そんな急にいいの? 迷惑じゃない?」
母がこの提案に驚く。
「連絡はするけど大丈夫だ。旅館とまではいかないけど、居心地はいい所だから」
「いく!」
優希が飛びついた。
「なら、泊まる用意をしないとな」
「わかった~ぁ。テンねぇちゃんてつだって~」
《いいわよ。行きましょう。主様、向かうのは瑶姫の所ですわね?》
「ああ。薄めの長袖で頼む」
《承知しましたわ》
旅行だと喜びながら部屋へ向かう優希を見送り、高耶は式神に伝言を頼む。
「【常盤】家族と行くと伝えてきてくれ」
そう言うと、小さな光で出来た鳥の形が現れ、すぐに消えた。
「高耶くん、今のは?」
「光の式神です。父さんも春ぐらいの服で用意してください。ちょっとこの辺より寒いから」
「わかった。何か手土産とかは?」
「そっちは用意するんで大丈夫です」
納得し父と母も部屋へ向かって行った。
「さてと、俺は向こうに色々置いてあるし、用意できるまで時間があるから、手土産を作るとするか」
《うむ。姫ならばケーキ類か。りんごがあるぞ》
「いいじゃないか。よし、一時間もすれば焼けるし、りんごのケーキにしよう」
高耶は珀豪と共に台所に向かった。
◆◆◆◆◆
玄関から繋げた場所は、深い森の中。そこにあるお屋敷の一角の小屋のドアだった。
「玄関まで少し歩くから」
「凄い屋敷だね……」
「ここどこぉ?」
「……緑の匂いがするわね」
高耶に続いてキョロキョロと屋敷を見回しながら庭を横切っていく。玄関へと回る間にここがどんな所なのかを説明することにした。
「この場所は結界で守られているから、外からは審査と特別な訪問の手順を踏まないと来られないんだ。森の深い場所だから、人も寄り付かないしな」
一部の陰陽師達はここの存在を知ってはいるが、先ず審査で引っかかり、来られない場所だった。
森自体にも結界に近づくにつれて強い迷いの術がかけられているので人は近付けない。上空からも視認できないように術が張られているという徹底ぶりだ。
「そんなところに、なんで高耶は来られるの?」
「俺がここの主人の血を引いてるからだよ」
「血を? じゃぁ……あの人の……?」
「血を引いてるって言っても、どれだけ引いてるか分からないよ。父方の祖母の先祖なんだ」
「先祖って……」
意味が分からないと母は困惑する。それは当然だ。今の説明では、ここにその先祖がいるということになるのだから。
玄関に辿り着くと、同時に自動ドアのように立派な引き戸が勝手に開いた。その先にいたのは藤柄の着物を着た女性。その女性の髪は緑に見える。そして、右頬には藤の花の模様が描かれていた。
「藤さん、お久しぶりです」
《高耶さん、大きくなられましたね。ようこそご家族の方々。わたくしはこの屋敷の管理をしております藤と申します。どうぞ中へ》
藤の姿に驚きながら、何も言えずに父も母も後に続く。優希は不思議そうにじっと藤を見つめていた。
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