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第一章 秘伝のお仕事
052 ちょっと他とは違うので
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2018. 4. 27
**********
「お茶の用意ができましたよ」
広い縁側。そこに花代がお茶を用意してくれる。
「ありがとうございます。おいで、優希」
「はい」
優希も、今まで抱えていた常盤を下ろし、縁側へ向かう。
「そちらの方々もどうぞ」
花代は、高耶達の後ろにいた珀豪や綺翔にも声をかける。
《いや、我らは……》
《……》
珀豪はどうしたものかと思案顔だ。綺翔は相変わらず無表情だった。誤魔化すのもなんだからと高耶は二人の正体を告げる。
「彼らは、私の式神なのです。珀豪、綺翔、本来の姿になってくれ」
《承知した》
《諾》
その一瞬後、そこには白く大きな狼と、金色の獅子が姿を見せる。
「なんとっ……」
「まぁっ」
「……すごい……」
「っ……」
近付けずにいた麻衣子も息を飲んでいた。
「白い方はフェンリルの姿をした風の属性を持つ珀豪。金色の方は獅子で土の属性を持つ綺翔です。優希が寂しくないように、普段は人の姿や、これより小さくなった犬と猫の姿で傍にいてもらっているんです」
「それは……」
泉一郎は驚きながらも、普通の生き物とは違うその気配に納得しているようだった。
そこで、優一郎が不思議そうに尋ねてきた。
「風の式神でしたら、白虎なのでは? 土は確か玄武……」
「他の陰陽師達ならば、そういう式神の姿をしていますが、私は少々異色でして……西洋のものも混ざっているんです。他にユニコーンや天狐、それとドラゴンと鳳凰がいます」
「ユニコーンに、ドラゴンっ!?」
「あはは、驚きますよね……」
十歳そこそこであった高耶が、たまたま四神の知識を知らず、思うがままに西洋や異世界の幻獣を夢想したためにその姿になったとは、できれば言いたくない。
幸い、そんな疑問よりも、この存在自体が驚きなようだ。
「すごいですね……これが式神……」
「神を相手にする時もありますから、こういった存在も必要になってくるんです。何より戦力が必要になりますし。もういいよ、人型に」
これにより、またすぐに先ほどの人型に戻った。
「すごいお客様だわ。さぁ、こちらへ」
《お邪魔する》
《……》
笑みを見せる珀豪とは違い、頷くだけの綺翔。式神にも個性があるのだと花代や泉一郎達も納得したようだ。
《ユウキ、お茶は一度置くように》
「うん、これおいしいっ」
更に、珀豪はお茶に口を付けた後に、優希の世話を焼き始めたのを見て、周りはなんとも言えない表情を見せる。
一方の綺翔は、食べ物を食べるという行為が気に入ったらしく、無心で食べ始めていた。
《……》
小さな口で少しずつ味わう様はいじらしい。そんな綺翔に、花代が問いかける。
「美味しいですか?」
《ん……お茶もおいしい……ありがとう……》
「気に入ってくださって嬉しいわ。私もお菓子、いただきます」
綺翔の隣で、花代も高耶の持ってきたお菓子を開けた。
拍子抜けするほどあっさりと受け入れられたようだと感じた高耶は、足下に来た狛犬達にもお菓子を食べさせてやる。
「この子達は、高耶くんに会えて嬉しそうだ」
泉一郎が、いつもは見ない甘え方をする狛犬達に困ったような表情をしていた。それはそうだ。任されたのだから、もっと自分たちにも懐いて欲しいと思うだろう。
けれど、ただ普通に懐いているというわけではない。
《主の纏っている気は心地良いからな。普通の人とは違う。狛犬達もそれを感じているのだろう》
珀豪が優希の手を、持っていたらしいハンカチで拭きながら、推測される理由を口にする。
「そのようなものが……さすがですな」
「自分では良く分かりませんけどね」
苦笑しながら狛犬達の頭を撫でておいた。
それから他愛のない話をしていると、麻衣子がようやく口を開いたのだ。
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「お茶の用意ができましたよ」
広い縁側。そこに花代がお茶を用意してくれる。
「ありがとうございます。おいで、優希」
「はい」
優希も、今まで抱えていた常盤を下ろし、縁側へ向かう。
「そちらの方々もどうぞ」
花代は、高耶達の後ろにいた珀豪や綺翔にも声をかける。
《いや、我らは……》
《……》
珀豪はどうしたものかと思案顔だ。綺翔は相変わらず無表情だった。誤魔化すのもなんだからと高耶は二人の正体を告げる。
「彼らは、私の式神なのです。珀豪、綺翔、本来の姿になってくれ」
《承知した》
《諾》
その一瞬後、そこには白く大きな狼と、金色の獅子が姿を見せる。
「なんとっ……」
「まぁっ」
「……すごい……」
「っ……」
近付けずにいた麻衣子も息を飲んでいた。
「白い方はフェンリルの姿をした風の属性を持つ珀豪。金色の方は獅子で土の属性を持つ綺翔です。優希が寂しくないように、普段は人の姿や、これより小さくなった犬と猫の姿で傍にいてもらっているんです」
「それは……」
泉一郎は驚きながらも、普通の生き物とは違うその気配に納得しているようだった。
そこで、優一郎が不思議そうに尋ねてきた。
「風の式神でしたら、白虎なのでは? 土は確か玄武……」
「他の陰陽師達ならば、そういう式神の姿をしていますが、私は少々異色でして……西洋のものも混ざっているんです。他にユニコーンや天狐、それとドラゴンと鳳凰がいます」
「ユニコーンに、ドラゴンっ!?」
「あはは、驚きますよね……」
十歳そこそこであった高耶が、たまたま四神の知識を知らず、思うがままに西洋や異世界の幻獣を夢想したためにその姿になったとは、できれば言いたくない。
幸い、そんな疑問よりも、この存在自体が驚きなようだ。
「すごいですね……これが式神……」
「神を相手にする時もありますから、こういった存在も必要になってくるんです。何より戦力が必要になりますし。もういいよ、人型に」
これにより、またすぐに先ほどの人型に戻った。
「すごいお客様だわ。さぁ、こちらへ」
《お邪魔する》
《……》
笑みを見せる珀豪とは違い、頷くだけの綺翔。式神にも個性があるのだと花代や泉一郎達も納得したようだ。
《ユウキ、お茶は一度置くように》
「うん、これおいしいっ」
更に、珀豪はお茶に口を付けた後に、優希の世話を焼き始めたのを見て、周りはなんとも言えない表情を見せる。
一方の綺翔は、食べ物を食べるという行為が気に入ったらしく、無心で食べ始めていた。
《……》
小さな口で少しずつ味わう様はいじらしい。そんな綺翔に、花代が問いかける。
「美味しいですか?」
《ん……お茶もおいしい……ありがとう……》
「気に入ってくださって嬉しいわ。私もお菓子、いただきます」
綺翔の隣で、花代も高耶の持ってきたお菓子を開けた。
拍子抜けするほどあっさりと受け入れられたようだと感じた高耶は、足下に来た狛犬達にもお菓子を食べさせてやる。
「この子達は、高耶くんに会えて嬉しそうだ」
泉一郎が、いつもは見ない甘え方をする狛犬達に困ったような表情をしていた。それはそうだ。任されたのだから、もっと自分たちにも懐いて欲しいと思うだろう。
けれど、ただ普通に懐いているというわけではない。
《主の纏っている気は心地良いからな。普通の人とは違う。狛犬達もそれを感じているのだろう》
珀豪が優希の手を、持っていたらしいハンカチで拭きながら、推測される理由を口にする。
「そのようなものが……さすがですな」
「自分では良く分かりませんけどね」
苦笑しながら狛犬達の頭を撫でておいた。
それから他愛のない話をしていると、麻衣子がようやく口を開いたのだ。
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