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第一章 秘伝のお仕事
048 誤解を招く一族です
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2018. 4. 13
**********
一つ目の封印場所を調査している時。捕らえた女が逃げたと源龍からメールが入った。すると、すぐに電話が鳴った。
「はい」
『すまない。メールはしたが、一応直接話せればと思ってね。今、大丈夫かい?』
「ええ。逃げた……んですか?」
「ああ……本部の牢へ移送する途中だったらしい」
源龍も、それほど自分に似ているというのならば、直接会って見極めようと本部へ向かう所だったようだ。
あまりにも似ていたため、源龍が何かしたのではないかと連盟の者達が一番に所在を確認した。それでこの事態をいち早く知れたのだ。
「私に接触しないかと思っている者もいるみたいでね。しばらく動けそうにない。気を付けてくれよ。君は捕らえた者だ。きっと警戒されているし、もしかしたら恨んでいるかもしれない」
「分かりました。大変な時にわざわざ連絡していただいてありがとうございます」
恐らく、状況からいくと源龍は繋がりを疑われて軟禁状態になる。それでも、これだけはと高耶に連絡してくれたのだ。
「いや、こちらも、その女との繋がりを調べている最中でね。丁度良いよ。本部なら人員が使いたい放題だ。何か分かったら一番に報告させてもらうよ」
「はい。源龍さんもお気を付けて」
「ありがとう」
電話を切って、目の前の封印場所を見つめる。それだけで、ここには鬼が封印されてはいないと分かった。
これまで既に各地を回り、確認してきたが、大半がただの妖。鬼と呼べるような強力な存在を感知することはできなかった。
そんな中、先日の鬼との接触。これにより、確実に鬼の気配を知ることができた。もう、それほど調査に時間をかけることなく、そこに鬼がいるかどうかを感じ取ることができるようになったのだ。
「ここは大丈夫だ。寧ろ、封印されている妖は、もう形も留めていないほど弱っているみたいだ」
《鬼じゃなけりゃいいさ。アレを相手するには骨が折れるが、見たところ、大半は大した奴はいないからな。封印が解けたところでそう苦労することもないだろ》
「ああ……」
鬼の手強さを考えれば、大抵の妖は赤子程度だ。とはいえ、そうそう戦うつもりはない。高耶は現代人だ。何かにつけて戦闘という結論に至るような脳筋でもないつもりだ。
「平和が一番なんだけどな」
《まぁな》
充雪が苦笑する。充雪だとて、戦いを推奨しているわけではない。秘伝家は誤解されやすいし、一族は戦いこそ全てと思っている節があるが、充雪は己を鍛えることは好きだが、戦いが好きなわけではないのだ。
ただ、戦える力があるというだけ。勝負は好きだが、退治とは違う。
《のんびり修行とかしたいもんだ》
「そういえば、霊界での大会はどうだったんだ?」
色々と忙しくなり、その結果を結局聞いていなかったなと思い至った。少しばかり沈んだ気分も浮上するだろうと話題を変える。すると、充雪はニヤリと得意げに笑う。
《ふっふっふっ。よくぞ聞いてくれた! 当然、優勝したぞ!》
「おお。それはおめでとう。賞品は?」
《あとひと月後くらいに手に入る》
「なんでそんなに時間がかかるんだ?」
《霊薬は、作れる時期とかあるんだと。賞品といっても、予約みたいな感じだな》
「なるほど」
実際に霊薬というものでどうなるのかを知りたい気持ちもあったが、今は次の場所へ向かうため、行脚師を待たせている。それは今度と頭を切り替えて高耶はこの地を後にしたのだ。
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一つ目の封印場所を調査している時。捕らえた女が逃げたと源龍からメールが入った。すると、すぐに電話が鳴った。
「はい」
『すまない。メールはしたが、一応直接話せればと思ってね。今、大丈夫かい?』
「ええ。逃げた……んですか?」
「ああ……本部の牢へ移送する途中だったらしい」
源龍も、それほど自分に似ているというのならば、直接会って見極めようと本部へ向かう所だったようだ。
あまりにも似ていたため、源龍が何かしたのではないかと連盟の者達が一番に所在を確認した。それでこの事態をいち早く知れたのだ。
「私に接触しないかと思っている者もいるみたいでね。しばらく動けそうにない。気を付けてくれよ。君は捕らえた者だ。きっと警戒されているし、もしかしたら恨んでいるかもしれない」
「分かりました。大変な時にわざわざ連絡していただいてありがとうございます」
恐らく、状況からいくと源龍は繋がりを疑われて軟禁状態になる。それでも、これだけはと高耶に連絡してくれたのだ。
「いや、こちらも、その女との繋がりを調べている最中でね。丁度良いよ。本部なら人員が使いたい放題だ。何か分かったら一番に報告させてもらうよ」
「はい。源龍さんもお気を付けて」
「ありがとう」
電話を切って、目の前の封印場所を見つめる。それだけで、ここには鬼が封印されてはいないと分かった。
これまで既に各地を回り、確認してきたが、大半がただの妖。鬼と呼べるような強力な存在を感知することはできなかった。
そんな中、先日の鬼との接触。これにより、確実に鬼の気配を知ることができた。もう、それほど調査に時間をかけることなく、そこに鬼がいるかどうかを感じ取ることができるようになったのだ。
「ここは大丈夫だ。寧ろ、封印されている妖は、もう形も留めていないほど弱っているみたいだ」
《鬼じゃなけりゃいいさ。アレを相手するには骨が折れるが、見たところ、大半は大した奴はいないからな。封印が解けたところでそう苦労することもないだろ》
「ああ……」
鬼の手強さを考えれば、大抵の妖は赤子程度だ。とはいえ、そうそう戦うつもりはない。高耶は現代人だ。何かにつけて戦闘という結論に至るような脳筋でもないつもりだ。
「平和が一番なんだけどな」
《まぁな》
充雪が苦笑する。充雪だとて、戦いを推奨しているわけではない。秘伝家は誤解されやすいし、一族は戦いこそ全てと思っている節があるが、充雪は己を鍛えることは好きだが、戦いが好きなわけではないのだ。
ただ、戦える力があるというだけ。勝負は好きだが、退治とは違う。
《のんびり修行とかしたいもんだ》
「そういえば、霊界での大会はどうだったんだ?」
色々と忙しくなり、その結果を結局聞いていなかったなと思い至った。少しばかり沈んだ気分も浮上するだろうと話題を変える。すると、充雪はニヤリと得意げに笑う。
《ふっふっふっ。よくぞ聞いてくれた! 当然、優勝したぞ!》
「おお。それはおめでとう。賞品は?」
《あとひと月後くらいに手に入る》
「なんでそんなに時間がかかるんだ?」
《霊薬は、作れる時期とかあるんだと。賞品といっても、予約みたいな感じだな》
「なるほど」
実際に霊薬というものでどうなるのかを知りたい気持ちもあったが、今は次の場所へ向かうため、行脚師を待たせている。それは今度と頭を切り替えて高耶はこの地を後にしたのだ。
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