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第2章 王都フレンテと魔王の影
37話 謝礼
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「では自己紹介をさせていただこう。私はフレントーラ王国直轄戦闘部隊”聖火隊”の隊長をやっているフラムという者だ。”緑炎のフラム”なんて呼ばれることもあるかな」
ある日突然”せいかたい”という謎の組織の本部に呼び出された俺に、隊長を名乗る人物は凛としたよく通る声でそう自己紹介した。
一番驚いたのは隊長が女性だったということだ。いや、別に性差別というわけではなくて、マナーゼンのような戦闘をメインにしている仕事は大多数が男であり、本部にいた他の隊員たちもほとんどが男性だった中でフラムさんが女性だったので、素直にすごいなと思ったのだ。
目の前のデスクに佇むフラムさんのまず目を引くポイントはその真っ赤な瞳。対面する者の心のうちまで見通すような強い光を湛える紅の目がフラムさんの凛とした性格までも表しているように思える。
深い緑色のショートヘアとは対照的に身に纏う制服と思しき服は純白で、汚れが目立つから大変そうだなあと思ってしまう。まあ元の世界に存在したYシャツなども白かったから同じような物か。
「マナーゼンのソウマと申します。その……、よろしくお願いします……」
委縮しながら俺も自己紹介を返すと、フラムさんはその精悍な顔立ちに柔らかい笑顔を乗せて俺に対面する椅子に座るように促した。失礼します……と言いながら俺は高級感のあるふかふかの椅子に腰かけた。なんだか採用面接にでも来ているような気分だ。
「ということで早速だが本題に入らせていただく。飛竜襲撃騒動に関して、まずはソウマ殿に感謝申し上げる。貴殿の行動のおかげで何人もの民たちの命が救われた」
緊張する俺にフラムさんは仰々しい口調でそんな言葉をかけた。どうやら怒られたり罪にかけられたりといった昨日危惧していたようなことはないようで、心のなかで胸をなで下ろした。
「我々聖火隊は火属性魔法使いの戦闘集団だ。王国各地に現れる竜の討伐を主として活動している。先日の一件では他の地方で竜狩りを行っていたところに緊急で王都に出現したとの連絡を受け急行した次第だが、貴殿らマナーゼンたちの活躍もあってなんとか被害を最小限に抑えることが出来た。そこで、活躍の大きかった、つまり我々が行うはずの竜狩りを行った人物に感謝の意を込めて少しばかりの謝礼を行うことにしたのだ」
「そういうことだったんですね。てっきり良くない方向の招集だと思ってました」
「ははは、まれにそういうこともあるが、基本的に我々は一般の民たちを本部呼び出すことはない。貴殿も悪いほうで呼び出されないように気をつけたまえよ」
愉快そうに笑うフラムさん。仰々しい喋り口にバイアスがかかってしまうが、この人は案外ユーモアにあふれた人なのかもしれない。だが謝礼というのは一体何なのだろうか。王都で使える商品券とかだろうか。だとしたら結構ありがたくはあるが。
俺が謝礼の中身を考えていると、フラムさんは先ほど俺をここまで連れてきてくれた受付の人に何かを伝えると彼は飛ぶようなスピードで走り去っていく。何事かと考えていると、数秒後彼は何やらぎちぎちの袋をもって再びこの隊長室まで戻ってきた。
「謝礼の品だ。はした金だが受け取っていただけるとありがたい」
フラムさんの言葉が終わると袋は俺の元に手渡される。体感したこともない重量感、恐らくとんでもない額が入っているのではないだろうか。これをはした金というフラムさん、恐ろしすぎる……。
「ちなみにおいくらぐらい入っているんですか……?」
「五百万レカほどかな、ソウマ殿が望むのであればもう少し差し上げてもいいが」
「ごひゃっ……!」
驚きのあまり噛んでしまったが、それくらいにこの額はけた違いなのだ。脳内でそろばんが弾かれる。一日頑張ってマナーゼンで稼いでもだいたい五百レカなので、この額を集めようと思うと休みなしで働いておよそ二十七年……。
「こんな大金受け取れませんよ!」
「何を言うか! 貴殿はそれほどの活躍をしたということなのだ。素直に受け取りたまえ!」
こんな大金受け取れないという俺と大金を受け取るべきだというフラムさんの間の言い争いはそれから数分続き、結局俺が折れてその五百万レカを受け取ることになった。
「それで、ほかに何か欲しいものなどはないか? こちらとしてはこれくらいの謝礼じゃ全くこの功績に見合っていないと思っているのでね」
こんな大金を受け取っておいてさらに要求をするなど無礼にもほどがある気がするが、またさっきのようにフラムさんに言い負かされそうなので俺は何か考えることにした。俺が今一番欲しているものは……。
「じゃあ、異世界から来た人についての情報があったら教えてほしいです」
大昔にグレン村に来たという異世界人。もしその後の情報を手に入れることができれば、俺の元の世界への帰還の道のりは大きく前進することになる。
俺の要求にフラムさんは記憶を探るように目を瞑る。そうして数秒経った後にああ、とつぶやいて目を開いた。
「情報については後に図書館で調査して貴殿に差し上げるが、一つだけ私が知っていることがある」
フラムさんの予想外の言葉に俺の心臓はドキリと大きく跳ねる。
物語の歯車がゆっくりと回り始めたような気がした。
ある日突然”せいかたい”という謎の組織の本部に呼び出された俺に、隊長を名乗る人物は凛としたよく通る声でそう自己紹介した。
一番驚いたのは隊長が女性だったということだ。いや、別に性差別というわけではなくて、マナーゼンのような戦闘をメインにしている仕事は大多数が男であり、本部にいた他の隊員たちもほとんどが男性だった中でフラムさんが女性だったので、素直にすごいなと思ったのだ。
目の前のデスクに佇むフラムさんのまず目を引くポイントはその真っ赤な瞳。対面する者の心のうちまで見通すような強い光を湛える紅の目がフラムさんの凛とした性格までも表しているように思える。
深い緑色のショートヘアとは対照的に身に纏う制服と思しき服は純白で、汚れが目立つから大変そうだなあと思ってしまう。まあ元の世界に存在したYシャツなども白かったから同じような物か。
「マナーゼンのソウマと申します。その……、よろしくお願いします……」
委縮しながら俺も自己紹介を返すと、フラムさんはその精悍な顔立ちに柔らかい笑顔を乗せて俺に対面する椅子に座るように促した。失礼します……と言いながら俺は高級感のあるふかふかの椅子に腰かけた。なんだか採用面接にでも来ているような気分だ。
「ということで早速だが本題に入らせていただく。飛竜襲撃騒動に関して、まずはソウマ殿に感謝申し上げる。貴殿の行動のおかげで何人もの民たちの命が救われた」
緊張する俺にフラムさんは仰々しい口調でそんな言葉をかけた。どうやら怒られたり罪にかけられたりといった昨日危惧していたようなことはないようで、心のなかで胸をなで下ろした。
「我々聖火隊は火属性魔法使いの戦闘集団だ。王国各地に現れる竜の討伐を主として活動している。先日の一件では他の地方で竜狩りを行っていたところに緊急で王都に出現したとの連絡を受け急行した次第だが、貴殿らマナーゼンたちの活躍もあってなんとか被害を最小限に抑えることが出来た。そこで、活躍の大きかった、つまり我々が行うはずの竜狩りを行った人物に感謝の意を込めて少しばかりの謝礼を行うことにしたのだ」
「そういうことだったんですね。てっきり良くない方向の招集だと思ってました」
「ははは、まれにそういうこともあるが、基本的に我々は一般の民たちを本部呼び出すことはない。貴殿も悪いほうで呼び出されないように気をつけたまえよ」
愉快そうに笑うフラムさん。仰々しい喋り口にバイアスがかかってしまうが、この人は案外ユーモアにあふれた人なのかもしれない。だが謝礼というのは一体何なのだろうか。王都で使える商品券とかだろうか。だとしたら結構ありがたくはあるが。
俺が謝礼の中身を考えていると、フラムさんは先ほど俺をここまで連れてきてくれた受付の人に何かを伝えると彼は飛ぶようなスピードで走り去っていく。何事かと考えていると、数秒後彼は何やらぎちぎちの袋をもって再びこの隊長室まで戻ってきた。
「謝礼の品だ。はした金だが受け取っていただけるとありがたい」
フラムさんの言葉が終わると袋は俺の元に手渡される。体感したこともない重量感、恐らくとんでもない額が入っているのではないだろうか。これをはした金というフラムさん、恐ろしすぎる……。
「ちなみにおいくらぐらい入っているんですか……?」
「五百万レカほどかな、ソウマ殿が望むのであればもう少し差し上げてもいいが」
「ごひゃっ……!」
驚きのあまり噛んでしまったが、それくらいにこの額はけた違いなのだ。脳内でそろばんが弾かれる。一日頑張ってマナーゼンで稼いでもだいたい五百レカなので、この額を集めようと思うと休みなしで働いておよそ二十七年……。
「こんな大金受け取れませんよ!」
「何を言うか! 貴殿はそれほどの活躍をしたということなのだ。素直に受け取りたまえ!」
こんな大金受け取れないという俺と大金を受け取るべきだというフラムさんの間の言い争いはそれから数分続き、結局俺が折れてその五百万レカを受け取ることになった。
「それで、ほかに何か欲しいものなどはないか? こちらとしてはこれくらいの謝礼じゃ全くこの功績に見合っていないと思っているのでね」
こんな大金を受け取っておいてさらに要求をするなど無礼にもほどがある気がするが、またさっきのようにフラムさんに言い負かされそうなので俺は何か考えることにした。俺が今一番欲しているものは……。
「じゃあ、異世界から来た人についての情報があったら教えてほしいです」
大昔にグレン村に来たという異世界人。もしその後の情報を手に入れることができれば、俺の元の世界への帰還の道のりは大きく前進することになる。
俺の要求にフラムさんは記憶を探るように目を瞑る。そうして数秒経った後にああ、とつぶやいて目を開いた。
「情報については後に図書館で調査して貴殿に差し上げるが、一つだけ私が知っていることがある」
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