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魔王、勇者との因縁を憂う

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 ゴーラが記した地図を頼りに人間界の夜空を飛んだ。
 体は子どものままだが、ホーンも黒竜のような翼も、先端まで魔力が行き渡っている。
 魔力の弱い魔界の住人が人間界にはいるから、全快ではない魔王が空を飛んでいても、さほど目立ちはしない。
 どうせ当たり前になるのなら、戦争ではなく、二つの種族が共に生きている光景の方が、僕は好みだ。
って、今から人間の希望を消しに行くんだけどね。
 人間界の空は闇ばかりの魔界の空とは違い、美しかった。
 満月も、星々も、照らすのは人間だ。
 フッと息をつく。
 眼下に城が見えてきた。
 地図に紫色の炎で文字が浮かび上がる。
 人間には読めない、魔族が共有する文字だ。

 魔王様、そこですじゃ。

 差出人はゴーラか。
 読み終えたのを見計らったように、地図が燃え失せる。

「さて、と」

 勇者はどこにいる?

 警備を目視し、死角を飛ぶ。
 城も城下街も寝静まっている。
 勇者が窓辺の部屋にいるとは決まっていないが、可能性を探るべく、窓から部屋を覗き込んだ。
 ベッドに横になって眠る人間達は安らかだ。
 僕は座ったまま眠る。
 なんなら、目を開けたまま、脳を休ませることもできる。
 魔王というのは世襲でも、勇者のように一つの魂が転生を繰りかえしてこなしているのでもない。
 魔王と呼ばれる魔物の肝を食べた魔物が次期魔王になるのだ。
 僕も、前の魔王を倒し、力の塊である肝を食らい、この座についた。
 魔界には、僕が魔王であることに不快感を持つ輩もいる。
 いつどこで、殺されてもおかしくはない。
 安らかとはほど遠いな。
 あんな風に安心しきって眠るって、どういう感覚なんだろう?
 目を伏せ、唇を伸ばす。
 己を叱咤するために。
 僕は魔王。
 この生き方を、自分で選んだ。
 視界の隅に、ぼうと仄かな灯りを感じ、そちらへと翼を羽ばたかせた。
 開け放たれた窓の奥に、少年が一人、ベッドで苦痛と闘っていた。
 一本の蝋燭に照らし出された室内に個性はない。

 まさか、な。

 ゴーラはこの城に勇者がいるとは言ったが、顔まで教えてはくれなかった。
 薄情なのではない。
 奴は勇者の魂をして、城にいると述べたのだ。
 と言うのも、用心深いことに、勇者の転生後の姿はさまざまであり、性別さえ統一されない。
 だから、独りで唸っているこいつが勇者なのか、容姿ではわからない。
 だが、かりにも勇者であるなら、付き人の一人くらいいてもいいはずだ。
 苦しんでいるなら、なおのこと。
 独りにしておくはずがない。
 ドアの向こうから足音がし、窓際に寄った。

「具合はどうだ?」
「医師が解毒剤を処方していきました。今日を越えればなんとか」
「ふん。まったく、毒蜂なんぞにやられるとは情けない」

 小声だったが、二人の男の声は僕の耳にはっきりと届いていた。
 ドアが開き、着飾った中年の男と面長な若い男が入ってくる。
 着飾った方が少年の傍へ行くなり、高い声を出した。

「ご気分はいかがですか、勇者様」

 にこにこと気持ち悪いことこの上ない。
 僕なら城から追放してる類いだな。
 そんなどうでもいいことと少年が勇者と呼ばれた事実の処理に、僕の脳が忙しなく働く。

 勇者?
 独りで苦しがっている、こいつが?

 勇者と呼ばれた少年は薄く目を開け、「王様」と呟く。

「なあに。大丈夫ですよ。苦しいのは薬が効いている証拠でしょう。すぐよくなります。なんと言っても、あなたは勇者なのですから。なあ、スタディー?」
「はい。勇者はあまたの毒をも自ら解毒したと文献にあります」
「それは素晴らしい。医師の助けなど無用だったな。はっはっはっ」

 王族の男と彼の家臣を、少年は切なそうに見つめた。

 水を……。

 そう囁くが、二人でしゃべりたくる男達には聞こえない。

「では、我々は静養の邪魔になるといけませんからな。また、明日、まいります」

 馬鹿な人間達。
 あまたの毒を自ら解毒できた勇者は、そう鍛錬してきた奴であり、勇者が生まれながらに持つ特性ではない。
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