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再生 R18 ~蛍視点~
最終回
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唇に当たる昭弘の皮膚に、蛍は酔った。
風呂に入ったのか、清潔な石鹸の匂いが鼻をかすめる。
触れたくて仕方がなかった、昭弘の体は、体臭も体毛も薄く、筋肉質ではないが、綺麗なフォルムをしていた。
尖りかけている乳首を吸うと、相手は顔を赤らめ、口を覆った。
自分の動き一つで、相手は過敏に反応する。
主導権を委ねられている快感に抗えず、蛍は執拗に、生ぬるい愛撫を続けた。
セックスをするのが、楽しい。
相手から返される仕草を見るのが、こんなにも、そそられるとは思いもしなかった。
自身自身が立ち上がっていく。
男は上半身を起こし、キスをしてきた。
ねっとりと口腔をなぞる舌と、甘い吐息に、蛍は瞼を閉じた。
顔を支えられ、キスを繰り返される。
息をつき、押入れから布団を引っ張りだして、昭弘の手をひき、温かい綿の中へ導く。
キスをしたまま、相手をそっと倒すと、静かに微笑まれた。
昭弘に触れている間、ずっと、気持ちがよかった。
他人の体なのに、違和感がなく、溶け込んでいくようで、それでも、皮膚は互いを別の物として認識していて、擦り合わせることができるぶん、弾けるような快楽をくれた。
絶頂は何回か来たと思う。
少しは眠ったと思う。
ズキズキと痛む頭の傷と、吐き出しても溢れてくる欲からの痛みと、現実と非現実が入り混じり、右も左も不確かになりそうだった。
それなのに、不安はなく、むしろ、昭弘だけを感じていられて、幸せだった。
俺は今、子どもの頃のいじめの原因だった行為を、自ら、行っている。俺はあいつらの言う通り、昭弘のことが好きだった。子どもの頃から、この人とキスがしたかった。
この人といやらしいことをしたかった。
あいつらはそれを言い当て、図星だったからこそ、俺は過剰にこの気持ちを疑い、否定した。
昭弘を好きだと言うことに、罪悪感があった。だから、昭弘に告白をした後、記憶を失くしたのは、自分を守るためだった。自分を肯定することができず、気持ちを失くすことで、自分を保った。その裏で、昭弘は傷ついてきた。昭弘を生殺しにしてきたのは、俺だ。昭弘を苦しめてきたのは、俺だ。
そういうことなのだ。人はまず生きなければいけない。生きるために、誰かを傷つけることだってある。傷つけようと企まなくても、だ。他人が何に傷つくのかなんて考えていたら、生きられない。そういうことなのだ。
俺はまた、昭弘を傷つけるかもしれない。俺の奥底には、自分の気持ちが異常なのではないのか、という疑いがある。最低なのは、俺の方だ。
後頭部を慰めるように撫でられる。
見てみろと、窓の外を顎で示される。
空が白み始めていた。朝だ。
「久しぶりに、空を見た気がする」
微笑んだ昭弘の目尻に、薄い皺があった。
「綺麗だな」
昭弘の言葉が体中に広がっていく。
蛍は涙を隠し、昭弘の目尻にキスを落とした。
完
風呂に入ったのか、清潔な石鹸の匂いが鼻をかすめる。
触れたくて仕方がなかった、昭弘の体は、体臭も体毛も薄く、筋肉質ではないが、綺麗なフォルムをしていた。
尖りかけている乳首を吸うと、相手は顔を赤らめ、口を覆った。
自分の動き一つで、相手は過敏に反応する。
主導権を委ねられている快感に抗えず、蛍は執拗に、生ぬるい愛撫を続けた。
セックスをするのが、楽しい。
相手から返される仕草を見るのが、こんなにも、そそられるとは思いもしなかった。
自身自身が立ち上がっていく。
男は上半身を起こし、キスをしてきた。
ねっとりと口腔をなぞる舌と、甘い吐息に、蛍は瞼を閉じた。
顔を支えられ、キスを繰り返される。
息をつき、押入れから布団を引っ張りだして、昭弘の手をひき、温かい綿の中へ導く。
キスをしたまま、相手をそっと倒すと、静かに微笑まれた。
昭弘に触れている間、ずっと、気持ちがよかった。
他人の体なのに、違和感がなく、溶け込んでいくようで、それでも、皮膚は互いを別の物として認識していて、擦り合わせることができるぶん、弾けるような快楽をくれた。
絶頂は何回か来たと思う。
少しは眠ったと思う。
ズキズキと痛む頭の傷と、吐き出しても溢れてくる欲からの痛みと、現実と非現実が入り混じり、右も左も不確かになりそうだった。
それなのに、不安はなく、むしろ、昭弘だけを感じていられて、幸せだった。
俺は今、子どもの頃のいじめの原因だった行為を、自ら、行っている。俺はあいつらの言う通り、昭弘のことが好きだった。子どもの頃から、この人とキスがしたかった。
この人といやらしいことをしたかった。
あいつらはそれを言い当て、図星だったからこそ、俺は過剰にこの気持ちを疑い、否定した。
昭弘を好きだと言うことに、罪悪感があった。だから、昭弘に告白をした後、記憶を失くしたのは、自分を守るためだった。自分を肯定することができず、気持ちを失くすことで、自分を保った。その裏で、昭弘は傷ついてきた。昭弘を生殺しにしてきたのは、俺だ。昭弘を苦しめてきたのは、俺だ。
そういうことなのだ。人はまず生きなければいけない。生きるために、誰かを傷つけることだってある。傷つけようと企まなくても、だ。他人が何に傷つくのかなんて考えていたら、生きられない。そういうことなのだ。
俺はまた、昭弘を傷つけるかもしれない。俺の奥底には、自分の気持ちが異常なのではないのか、という疑いがある。最低なのは、俺の方だ。
後頭部を慰めるように撫でられる。
見てみろと、窓の外を顎で示される。
空が白み始めていた。朝だ。
「久しぶりに、空を見た気がする」
微笑んだ昭弘の目尻に、薄い皺があった。
「綺麗だな」
昭弘の言葉が体中に広がっていく。
蛍は涙を隠し、昭弘の目尻にキスを落とした。
完
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