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星に願いを
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「蛍!」
「やめなさい!」
男と女の叫び声に、河原が振り返る。
蛍は渾身の力を込めて、河原の腹に肘を押し込めた。
「くそっ! 放せ!」
バッドで背や足、腕を叩かれる。
男が駆けより、バッドを持つ河原の手を固定する。
蛍は女によって河原から引きはがされた。
「蛍君? 蛍君?」
「吉村……さん?」
しゃがれた声だったのに、女は笑顔で涙を流し、何度も頷いた。
暴れる河原を押さえつける男が、こちらを見る。
「あき……ひろ……?」
男は微笑み、次の瞬間には表情を硬くし、河原の手からバッドを落とした。
安堵から力が抜けた。
再び、目を開けたとき、蛍は病院のベッドの上にいた。
体中に包帯が巻かれ、頭は一番大袈裟だった。
窓の外は暗く、部屋の明かりもベッドライトだけだった。
昭弘は折りたたみ椅子に座り、蛍の手を両手で祈るように握っていた。
「また泣いてる?」
指を動かす。
顔を上げた昭弘の目尻に、涙が溜まっている。
「泣き虫……」
昭弘は蛍に毒づくこともなく、涙を拭きながら笑った。
「検査ではどこにも異常がないと言われた。朝、医師の診断を受けて、何もなければ帰っていいそうだ」
「死ぬかと思った」
息を吐く。
「……間に合ってよかった」
俯いた男へと顔を向けた。
「昭弘は、どうして、あそこにいたんだ? 吉村さんも」
昭弘は緩く微笑んだ。
「お前が赤城君のところへ行ったあと、吉村から電話がかかってきたんだ。俺が警察を辞める前から追っていた事件の犯人が、河原さんだと教えてくれた。もっとも、彼女に、タレこみを流したのは加賀島だが」
「そうだ」
起き上がり、頭と身体の痛みに呻いた。
心配そうに立ち上がった昭弘を宥める。
彼は椅子に腰を落ち着けた。
「社長が言っていた。加賀島はまだ生きているだろうかって」
昭弘は目を伏せた。
「ついさっき、息を引き取ったと、吉村から連絡が入った。あいつは初めから、河原さんに対し、懐疑的だった。あまり近づくなと露骨に言われたこともある」
俺が馬鹿だったんだ、と昭弘は唇を震わせた。
「あの頃、お前とのたった一つの繋がりが河原さんだったから、なくしたくなくて、加賀島の言葉を深く受けとめなかった」
―桜井さんは俺に未来をくれた。今度は、俺が与える番だ。
病室で眠り続ける昭弘の前に佇む、加賀島の姿を思い出す。
「昭弘、帰ろう」
「いや、だから、朝に医者が回診で来るから」
蛍はナースコールを押した。
病室に来てくれた看護師に、帰宅したい旨を伝える。
彼女は昭弘と同じ説明を繰り返したが、拝み倒した。
医師の診察が終わるまで、昭弘は渋面を作りはしたが、蛍の好きにさせてくれた。
紙袋一つを手に、医師や看護師に蛍より丁重に、謝罪と感謝をし、タクシーに乗った。
こんなに夜遅くても、誰かは動き、その誰かのために、人工的な明かりは点いている。
その明かりを、どんな人が作ったのかは知らない。
だけど、今、紛れもなく、それは蛍を照らしてくれている。
自分は決して、一人で生きているんじゃない。
この世界に組み込まれ、誰かからの恩恵を受け、自分もまた、誰かのために動いている。
「ごめん。我儘を言って」
昭弘は首を左右した。
「だけど、俺……。昭弘のことが知りたい。昭弘に俺のことを知って欲しい」
明日じゃなく、今。
この熱があるうちに……。
相手の手に触れると握り返された。
「やめなさい!」
男と女の叫び声に、河原が振り返る。
蛍は渾身の力を込めて、河原の腹に肘を押し込めた。
「くそっ! 放せ!」
バッドで背や足、腕を叩かれる。
男が駆けより、バッドを持つ河原の手を固定する。
蛍は女によって河原から引きはがされた。
「蛍君? 蛍君?」
「吉村……さん?」
しゃがれた声だったのに、女は笑顔で涙を流し、何度も頷いた。
暴れる河原を押さえつける男が、こちらを見る。
「あき……ひろ……?」
男は微笑み、次の瞬間には表情を硬くし、河原の手からバッドを落とした。
安堵から力が抜けた。
再び、目を開けたとき、蛍は病院のベッドの上にいた。
体中に包帯が巻かれ、頭は一番大袈裟だった。
窓の外は暗く、部屋の明かりもベッドライトだけだった。
昭弘は折りたたみ椅子に座り、蛍の手を両手で祈るように握っていた。
「また泣いてる?」
指を動かす。
顔を上げた昭弘の目尻に、涙が溜まっている。
「泣き虫……」
昭弘は蛍に毒づくこともなく、涙を拭きながら笑った。
「検査ではどこにも異常がないと言われた。朝、医師の診断を受けて、何もなければ帰っていいそうだ」
「死ぬかと思った」
息を吐く。
「……間に合ってよかった」
俯いた男へと顔を向けた。
「昭弘は、どうして、あそこにいたんだ? 吉村さんも」
昭弘は緩く微笑んだ。
「お前が赤城君のところへ行ったあと、吉村から電話がかかってきたんだ。俺が警察を辞める前から追っていた事件の犯人が、河原さんだと教えてくれた。もっとも、彼女に、タレこみを流したのは加賀島だが」
「そうだ」
起き上がり、頭と身体の痛みに呻いた。
心配そうに立ち上がった昭弘を宥める。
彼は椅子に腰を落ち着けた。
「社長が言っていた。加賀島はまだ生きているだろうかって」
昭弘は目を伏せた。
「ついさっき、息を引き取ったと、吉村から連絡が入った。あいつは初めから、河原さんに対し、懐疑的だった。あまり近づくなと露骨に言われたこともある」
俺が馬鹿だったんだ、と昭弘は唇を震わせた。
「あの頃、お前とのたった一つの繋がりが河原さんだったから、なくしたくなくて、加賀島の言葉を深く受けとめなかった」
―桜井さんは俺に未来をくれた。今度は、俺が与える番だ。
病室で眠り続ける昭弘の前に佇む、加賀島の姿を思い出す。
「昭弘、帰ろう」
「いや、だから、朝に医者が回診で来るから」
蛍はナースコールを押した。
病室に来てくれた看護師に、帰宅したい旨を伝える。
彼女は昭弘と同じ説明を繰り返したが、拝み倒した。
医師の診察が終わるまで、昭弘は渋面を作りはしたが、蛍の好きにさせてくれた。
紙袋一つを手に、医師や看護師に蛍より丁重に、謝罪と感謝をし、タクシーに乗った。
こんなに夜遅くても、誰かは動き、その誰かのために、人工的な明かりは点いている。
その明かりを、どんな人が作ったのかは知らない。
だけど、今、紛れもなく、それは蛍を照らしてくれている。
自分は決して、一人で生きているんじゃない。
この世界に組み込まれ、誰かからの恩恵を受け、自分もまた、誰かのために動いている。
「ごめん。我儘を言って」
昭弘は首を左右した。
「だけど、俺……。昭弘のことが知りたい。昭弘に俺のことを知って欲しい」
明日じゃなく、今。
この熱があるうちに……。
相手の手に触れると握り返された。
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