69 / 78
星に願いを
6
しおりを挟む
「服」
「へ?」
「気に入ってるんだ、それ」
「わかった。脱ぐ。脱ぐから。手、どけろ」
素直に従う。
赤城はいそいそとシャツを脱ぎ、こちらへ差し出してきた。
受け取ったそれは相手のぬくもりを含んでいた。
「なんで、俺なんだ?」
空気が振動せず、静まり返る。
「じゃあ、渋谷は?」
問い返され、目が合った。
「どうして、桜井さんなんだよ」
「俺は……」
昭弘以外、見えていなかった。
でも、それは、昭弘がいつも隣にいてくれたからだ。
一緒にいる時間が長く、誰よりも近かった。
赤城は苦笑して見せた。
「初めは、同じだと思ったから。お前も、桜井さんの玩具にされてるって、そう思ったから。傷を舐め合うつもりだった」
「昭弘は違う」
「うん。お前達の様子を見てたら、わかるよ。わかったから、渋谷と桜井さんの関係が不思議でさ。気づいたら目で追ってた。そしたら、無意識に、お前を探すようになった。何年も、それをやめられなくて。俺自身、理由がわからなくて、だけど、小三の夏休みに、お前を一度も見られなくて軽く絶望した。これといったきっかけなんてない。渋谷のどこが好きだと聴かれて、ここだと特定もできない。だけど」
月の明りが、微笑む赤城を照らしだす。
「俺、お前が視界にいると本当に安心するんだ」
蛍はそっと相手を抱擁した。
「電話、かけてくれて嬉しかった。オルゴールも、嬉しかった。なのに、俺はお前になにもできていない」
赤城の腕が背中に回される。
「そんなことはない。河原が持ってくるお前の写真、断らないといけないとわかっていた。だけど、できなかった。渋谷が頑張っている姿を見ると俺も頑張ろうって思えたんだ。お前が生きていてくれるだけで、俺は」
重なる肌が熱を生む。
「なあ、今のお前のこと、聴かせて。お前の口から聴きたい」
「司法書士になったよ」
「努力したんだな」
蛍は苦笑した。
涙が押し上がってきそうで、天井を仰ぎ、息をつく。
「赤城は?」
「病院実習。しごかれてる」
「大変なんだな」
「……桜井さんとは、どうなった?」
「好きだと、言ってもらえた」
「……そっか」
「だけど……。俺、お前と一緒にいようかな」
赤城は蛍から離れ、笑んだ。
「桜井さん、待ってんだろ? ちゃんと、帰らないと」
「昭弘は……、待ってなんかいない」
赤城から視線を外す。
男は溜息を洩らした。
「待ってるさ。俺がわかるのに、なんで、渋谷がわかんないんだよ」
相手は眼差しを和らげた。
「へ?」
「気に入ってるんだ、それ」
「わかった。脱ぐ。脱ぐから。手、どけろ」
素直に従う。
赤城はいそいそとシャツを脱ぎ、こちらへ差し出してきた。
受け取ったそれは相手のぬくもりを含んでいた。
「なんで、俺なんだ?」
空気が振動せず、静まり返る。
「じゃあ、渋谷は?」
問い返され、目が合った。
「どうして、桜井さんなんだよ」
「俺は……」
昭弘以外、見えていなかった。
でも、それは、昭弘がいつも隣にいてくれたからだ。
一緒にいる時間が長く、誰よりも近かった。
赤城は苦笑して見せた。
「初めは、同じだと思ったから。お前も、桜井さんの玩具にされてるって、そう思ったから。傷を舐め合うつもりだった」
「昭弘は違う」
「うん。お前達の様子を見てたら、わかるよ。わかったから、渋谷と桜井さんの関係が不思議でさ。気づいたら目で追ってた。そしたら、無意識に、お前を探すようになった。何年も、それをやめられなくて。俺自身、理由がわからなくて、だけど、小三の夏休みに、お前を一度も見られなくて軽く絶望した。これといったきっかけなんてない。渋谷のどこが好きだと聴かれて、ここだと特定もできない。だけど」
月の明りが、微笑む赤城を照らしだす。
「俺、お前が視界にいると本当に安心するんだ」
蛍はそっと相手を抱擁した。
「電話、かけてくれて嬉しかった。オルゴールも、嬉しかった。なのに、俺はお前になにもできていない」
赤城の腕が背中に回される。
「そんなことはない。河原が持ってくるお前の写真、断らないといけないとわかっていた。だけど、できなかった。渋谷が頑張っている姿を見ると俺も頑張ろうって思えたんだ。お前が生きていてくれるだけで、俺は」
重なる肌が熱を生む。
「なあ、今のお前のこと、聴かせて。お前の口から聴きたい」
「司法書士になったよ」
「努力したんだな」
蛍は苦笑した。
涙が押し上がってきそうで、天井を仰ぎ、息をつく。
「赤城は?」
「病院実習。しごかれてる」
「大変なんだな」
「……桜井さんとは、どうなった?」
「好きだと、言ってもらえた」
「……そっか」
「だけど……。俺、お前と一緒にいようかな」
赤城は蛍から離れ、笑んだ。
「桜井さん、待ってんだろ? ちゃんと、帰らないと」
「昭弘は……、待ってなんかいない」
赤城から視線を外す。
男は溜息を洩らした。
「待ってるさ。俺がわかるのに、なんで、渋谷がわかんないんだよ」
相手は眼差しを和らげた。
1
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる