父の男

上野たすく

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星に願いを

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「服」
「へ?」
「気に入ってるんだ、それ」
「わかった。脱ぐ。脱ぐから。手、どけろ」

 素直に従う。
 赤城はいそいそとシャツを脱ぎ、こちらへ差し出してきた。
 受け取ったそれは相手のぬくもりを含んでいた。

「なんで、俺なんだ?」

 空気が振動せず、静まり返る。

「じゃあ、渋谷は?」

 問い返され、目が合った。

「どうして、桜井さんなんだよ」
「俺は……」

 昭弘以外、見えていなかった。
 でも、それは、昭弘がいつも隣にいてくれたからだ。
 一緒にいる時間が長く、誰よりも近かった。
 赤城は苦笑して見せた。

「初めは、同じだと思ったから。お前も、桜井さんの玩具にされてるって、そう思ったから。傷を舐め合うつもりだった」
「昭弘は違う」
「うん。お前達の様子を見てたら、わかるよ。わかったから、渋谷と桜井さんの関係が不思議でさ。気づいたら目で追ってた。そしたら、無意識に、お前を探すようになった。何年も、それをやめられなくて。俺自身、理由がわからなくて、だけど、小三の夏休みに、お前を一度も見られなくて軽く絶望した。これといったきっかけなんてない。渋谷のどこが好きだと聴かれて、ここだと特定もできない。だけど」

 月の明りが、微笑む赤城を照らしだす。

「俺、お前が視界にいると本当に安心するんだ」

 蛍はそっと相手を抱擁した。

「電話、かけてくれて嬉しかった。オルゴールも、嬉しかった。なのに、俺はお前になにもできていない」

 赤城の腕が背中に回される。

「そんなことはない。河原が持ってくるお前の写真、断らないといけないとわかっていた。だけど、できなかった。渋谷が頑張っている姿を見ると俺も頑張ろうって思えたんだ。お前が生きていてくれるだけで、俺は」

 重なる肌が熱を生む。

「なあ、今のお前のこと、聴かせて。お前の口から聴きたい」
「司法書士になったよ」
「努力したんだな」

 蛍は苦笑した。
 涙が押し上がってきそうで、天井を仰ぎ、息をつく。

「赤城は?」
「病院実習。しごかれてる」
「大変なんだな」
「……桜井さんとは、どうなった?」
「好きだと、言ってもらえた」
「……そっか」
「だけど……。俺、お前と一緒にいようかな」

 赤城は蛍から離れ、笑んだ。

「桜井さん、待ってんだろ? ちゃんと、帰らないと」
「昭弘は……、待ってなんかいない」

 赤城から視線を外す。
 男は溜息を洩らした。

「待ってるさ。俺がわかるのに、なんで、渋谷がわかんないんだよ」

 相手は眼差しを和らげた。

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