父の男

上野たすく

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星に願いを

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 舌を絡みとられる。
 巧みに動いていたそれの力がなくなり、赤城の体が重く、圧し掛かってきた。
 学生の自分を雇い続けてくれる河原に、蛍は感謝していた。
 だけど、それは、赤城の苦痛の上になりたつ安定だった。
 涙が零れた。泣き声をあげたいのに、赤城の舌が許してくれない。
 それでも、狭い口腔で、赤城の舌を刺激していたのだろう、相手は呻きと共に、目を開けた。
 その瞳に混乱の色が強く出る。
 別人格と記憶を共有するわけではないのだろう。
 彼は勢いよく蛍から身をどかし、慌ててベッドにあった蛍のシャツを羽織ると、震えながらボタンを留めた。

「着てくれ」
「え?」
「服」
「赤城が着てるのが、俺のだ」

 相手は硬直した。

「ごめん。ちゃんと確認しなかった」

 彼は立ち上がり、鞄から眼鏡ケースを取り出した。
 眼鏡をかけ、床に散らばる写真を見つめ、項垂れる。

「新品、持ってくる」
「着てるのを返してくれればいい」
「俺が着たのなんて気持ち悪いだろ?」
「なに言ってんだよ」

 鼻を啜り、目を親指でこすって立ち上がる。
 赤城の肩を掴むと邪険に払われた。
 彼はクローゼットを開け、きちんと畳まれたシャツを引っ掴み、こちらへ放り投げた。

「それ着たら、帰ってくれ」
「まだ、お前と話をしていない」
「お前、俺に強姦されかけたんだぞ!」
「誤解だ。キスだけで、他はなにもされていない」

 赤城が目を見開ける。

「それに、したのは、お前じゃないだろ?」

 赤城はへたり込み、両目を覆った。

「あいつ、しゃべったのか? 俺達のこと」

 蛍はシャツを机に置き、赤城の傍で床に膝をつけた。

「俺、今の司法書士事務所、辞めるよ」

 赤城が涙で濡れた瞳を向けてくる。
 蛍は唇を伸ばした。
 それだけで、彼は蛍が河原のことを聴かされたと、悟ったようだった。

「時期が来たら、独立しようと思っていた」

 赤城は目を伏せ、微笑んだ。

「そっか」

 気の抜けたような声だった。
 蛍は赤城のシャツの中へ手を入れた。

「渋谷?」

 声が震えているのに、こちらの手を掴んでくる握力は強かった。


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