20 / 78
誰かが誰かを愛している ~蛍視点~
20
しおりを挟む
「やめろ」
呟かれた言葉に、蛍の理性は一瞬で吹き飛んだ。
昭弘の背後にある壁にカップを投げつける。
それは破裂するように割れ、破片の一つが昭弘の右腕に突き刺さった。
血が腕を伝い、床へ垂れた。
換気扇の回る音がやけに大きい。
床は散々な有様だ。
「悪かった」
喘ぐように言われ、涙が流れた。
「お前を追い詰めるつもりはなかったんだ。ただ、お前に必要なのは俺じゃなくて」
「しゃべんじゃねえ!」
蛍の一喝に、昭弘がびくりと引きつった。
「やることやること、うぜえんだよ、ホモが!」
昭弘は焦点の定まらない目で、それでも、蛍を見ていた。
「人の人生、狂わせといて、なにが悪かっただ! 謝って済む問題じゃねえんだよ!」
誰かが部屋のドアを開け、中に入ってきた。
そいつは惨劇を見て、息を飲んだ。
「あんたのせいで、白い目で見られんだよ! あんたのせいで、いじめられんだよ! あんたのせいで……、昭弘のせいで、俺はずっと不幸なんだよ!」
玄関に突っ立っていた男が土足で上がり込み、蛍の頬を殴ってきた。
蛍は、男が三田浩平であることを知った。
彼は怒りを噛み殺していた。
三田の激昂に、自分の過ちの重さを改めて思い知る。
でも、謝罪の言葉が素直に出てこない。
カチャリ。
陶器がぶつかる音が沈黙を破った。
昭弘が掌に割れた破片をのせていた。
三田が話しかけても反応せず、散らばったものを、一人で黙々と片付けていく。
涙も流さず、独りで。
過去の話だ。
今はもう、昭弘がゲイではないことを、三田から聴いて知っているし、自分の行いも謝罪した。
けど、昭弘の右腕の傷は、今もそこにある。
呟かれた言葉に、蛍の理性は一瞬で吹き飛んだ。
昭弘の背後にある壁にカップを投げつける。
それは破裂するように割れ、破片の一つが昭弘の右腕に突き刺さった。
血が腕を伝い、床へ垂れた。
換気扇の回る音がやけに大きい。
床は散々な有様だ。
「悪かった」
喘ぐように言われ、涙が流れた。
「お前を追い詰めるつもりはなかったんだ。ただ、お前に必要なのは俺じゃなくて」
「しゃべんじゃねえ!」
蛍の一喝に、昭弘がびくりと引きつった。
「やることやること、うぜえんだよ、ホモが!」
昭弘は焦点の定まらない目で、それでも、蛍を見ていた。
「人の人生、狂わせといて、なにが悪かっただ! 謝って済む問題じゃねえんだよ!」
誰かが部屋のドアを開け、中に入ってきた。
そいつは惨劇を見て、息を飲んだ。
「あんたのせいで、白い目で見られんだよ! あんたのせいで、いじめられんだよ! あんたのせいで……、昭弘のせいで、俺はずっと不幸なんだよ!」
玄関に突っ立っていた男が土足で上がり込み、蛍の頬を殴ってきた。
蛍は、男が三田浩平であることを知った。
彼は怒りを噛み殺していた。
三田の激昂に、自分の過ちの重さを改めて思い知る。
でも、謝罪の言葉が素直に出てこない。
カチャリ。
陶器がぶつかる音が沈黙を破った。
昭弘が掌に割れた破片をのせていた。
三田が話しかけても反応せず、散らばったものを、一人で黙々と片付けていく。
涙も流さず、独りで。
過去の話だ。
今はもう、昭弘がゲイではないことを、三田から聴いて知っているし、自分の行いも謝罪した。
けど、昭弘の右腕の傷は、今もそこにある。
1
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる