父の男

上野たすく

文字の大きさ
上 下
18 / 78
誰かが誰かを愛している ~蛍視点~

18

しおりを挟む
 父の家は二階建てで、蛍は二階の一室を宛がわれた。
 父自身も二階に書斎を持ち、寝室は別にあるのに、そこに閉じこもりっきりだった。
 雀のさえずりが聞こえてくる。
 朝だ。
 昭弘はどうしているだろう。
 体調は回復したのだろうか。
 蛍は苦笑し、携帯電話を開いた。
 留守録を再生する。
「蛍、もう寝たか? 今夜も帰れそうにない。本当にすまん」
 俺は女々しい。
「…………蛍、俺は。……愛している。俺はお前を、愛している。だから」
 途切れた言葉というのは続かないってことなんだ。
 どんなに予想をしても、答えなど見つからない。
 終わったんだ。
 蛍は携帯電話のボタンの凸凹を指の腹で撫で、消去を選択した。
 女性の声でメッセージが消されたことを告げられると、体の奥の奥から悲鳴が押し出そうな、恐怖と後悔が入り混じった、今までに体験をしたことのない感情におそわれた。
 どうして、昭弘を好きになってしまったんだろう。
 絶対に叶いっこない恋なのに…。
 ドアが叩かれた。
「はい」
「俺だ」
 父だ。
 蛍は携帯電話を畳み、学生鞄へ入れた。
「どうぞ」
 男は咳き込みながら、入ってきた。
「ここ五日、学校へ行っていないそうだな」
「風邪なんで」
「じゃあ、病院へ行ってこい」
 コンコンと、男が咳をする。
「あんたこそ、病院へ行けよ」
「俺はいいんだ」
「それはさ、別に死んでもいいってことかよ?」
 父は微笑しながらベッドに腰掛け、咳をした。
「なんで俺を昭弘のところへ置いていった? あんた、昭弘のこと、好きじゃなかったんじゃねえの? だから、不必要なものだけ置いていったんだ」
「あの人がそう言ったのか?」
「は?」
「お前のことを不必要だって、お前を卑下するようなことを、あの人が言ったのか?」
「……言ってねえよ」
 蛍は鼻で笑った。
「昭弘にとって、俺はあんたとの繋がりだ。しかも、顔もあんたにそっくりだからな。自慰のツマミに打ってつけだったんじゃねえの」
「あの人は、そんな人じゃない」
「なんだよ、それ。昭弘のことは俺より知ってますって、自慢してんの? 離れて、結婚して、それでも心は繋がっていますって? なら、俺はいてもいなくても、どっちでもよかったんじゃねえか。どうして、生まれる前に殺してくれなかった? 本当に昭弘が好きなら、女に堕胎させたら、よかっただろ!」
 息を長く吐き、俯いた。
「俺も愛されたかったよ。あんたみたいに」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

一度くらい、君に愛されてみたかった

和泉奏
BL
昔ある出来事があって捨てられた自分を拾ってくれた家族で、ずっと優しくしてくれた男に追いつくために頑張った結果、結局愛を感じられなかった男の話

愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる

すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。 第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」 一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。 2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。 第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」 獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。 第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」 幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。 だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。 獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...