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誰かが誰かを愛している ~蛍視点~
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カゴをそっと奪われる。
「はあ、親父の面子丸つぶれだな、こりゃ」
周りの買い物客がこちらを見てくすくす笑っていた。
昭弘がレジへと歩いていく。
三十五の男が深夜に酒の肴として見ていたテレビ番組は海外ドラマの再放送で、家族をテーマとして扱っていた。
「家、欲しいな」
ずっと同じアパートに住んでいて不便がないことはない。
だけど、そんなこと今まで一度も言ったことがなかった。
だからこそ、本気なんだと思った。
「蛍~、お~い、うちの財務省~」
前を見ると昭弘がレジの女と向き合っている。
蛍はそそくさとそちらへ向かい、着いたさま相手の足を踏みつけた。
内容がありそうでない会話をしながらスーパーを出て、交差点の信号に立ち止まる。
「袋」
手を向けられた。
大丈夫だと応え、信号の赤を見上げる。
この交差点を一度で渡れたことがない。
相性が悪いのだろう。
信号に相性も何もないのかもしれないが……。
向かいで、高校生のカップルが楽しげに笑い合っている。
幸せそうなことで。
蛍は視線を足元に落とした。
自分には訪れない幸せだと脳がはじき出し、なぜか目が昭弘を捉える。
こちらの視線に気づいた相手に微笑まれ、顔をしかめて俯いた。
何年後か定かでないが、たぶん、この男と別れる日がいつか必ず来るだろう。
昭弘が蛍を扶養する義務は本来ないのだ。
女でも男でも、昭弘が父のことを諦め、他に愛する人ができたならば、やっかいなガキは用済みになる。
捨てられる。
自分は、いとも簡単に捨てられるんだ。
「はあ、親父の面子丸つぶれだな、こりゃ」
周りの買い物客がこちらを見てくすくす笑っていた。
昭弘がレジへと歩いていく。
三十五の男が深夜に酒の肴として見ていたテレビ番組は海外ドラマの再放送で、家族をテーマとして扱っていた。
「家、欲しいな」
ずっと同じアパートに住んでいて不便がないことはない。
だけど、そんなこと今まで一度も言ったことがなかった。
だからこそ、本気なんだと思った。
「蛍~、お~い、うちの財務省~」
前を見ると昭弘がレジの女と向き合っている。
蛍はそそくさとそちらへ向かい、着いたさま相手の足を踏みつけた。
内容がありそうでない会話をしながらスーパーを出て、交差点の信号に立ち止まる。
「袋」
手を向けられた。
大丈夫だと応え、信号の赤を見上げる。
この交差点を一度で渡れたことがない。
相性が悪いのだろう。
信号に相性も何もないのかもしれないが……。
向かいで、高校生のカップルが楽しげに笑い合っている。
幸せそうなことで。
蛍は視線を足元に落とした。
自分には訪れない幸せだと脳がはじき出し、なぜか目が昭弘を捉える。
こちらの視線に気づいた相手に微笑まれ、顔をしかめて俯いた。
何年後か定かでないが、たぶん、この男と別れる日がいつか必ず来るだろう。
昭弘が蛍を扶養する義務は本来ないのだ。
女でも男でも、昭弘が父のことを諦め、他に愛する人ができたならば、やっかいなガキは用済みになる。
捨てられる。
自分は、いとも簡単に捨てられるんだ。
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