90 / 120
90 (浮世絵視点)
しおりを挟む
午後七時。
浮世絵凜はネオ・シードの復旧作業を中断し、班員を労ったあと、E班が待機している部屋へと走った。
施設には、各班それぞれが、集合できる部屋があった。
凜が所属するD班と弟の伊佐那が率いるE班の集合部屋は、ネオ・シードへ直結する廊下にある。
各班長が集合部屋を決める際、伊佐那はネオ・シードへ最も早く到着できる場所を確保した。
今、戦闘はオニキスで行われることが常だが、以前は人々が暮らす町が戦地になっていた。オニキスという別空間へ移動ができるようになったのは、A班の和堂周が班長として加わってからだ。
地下の技術力は地上を勝る。和堂はその一端を担っていた。そんな彼は、部屋を指令班にもっとも近い位置に設定した。
凜がネオ・シードの傍の部屋を望んだのは、伊佐那とは違う理由だった。
部屋の移動はセキュリティ装置を操れば、可能だが、施設の構造を覚えたうえで、最短のルートを考える必要があり、凜には難解だったのだ。
その点、龍崎や甦禰看、赤星、夏目の四者は、通路の移動を造作もなくやってのける。
特に、班の中で、C班が最奥の部屋であるにも関わらず、赤星はその距離を感じさせない。
素直に、すごいと凜は思っていた。
伊佐那が言うとおり、班長の中で自分が一番、力がない。
頭脳も、行動力も、判断力も、できることも、自分はみんなより劣る。
だからこそ、と凜は思う。
だからこそ、自分の力が少しでも上がれば、戦闘班の総戦力は上がる。
凜の希望はそこにあった。
力がないという、伸びしろ。
そう自分を励まし、班を指揮してきたし、これからも、していくつもりだ。
思い出す。
祖父や両親、伊佐那と暮らしていた頃、凜と伊佐那は父と祖父から家訓を、毎日のように聞かされた。
国が災難に襲われたときこそ、国のために命を削るべし。
凜と伊佐那の家は、代々、忍びを生業としてきた。
敷地内にある道場で、忍術道場を開いているのだ。
年齢や国籍、志願理由などに拘らなければ、それなりに生活ができたかもしれない。
しかし、祖父と父は、頑なに、日本人に対し、厳しい修業を与え、忍びを育て上げるという、やり方を変えようとはしなかった。
父よりも随分若かった母は、そんな父と祖父を見守り、住み込みで修業する弟子の世話をした。
弟子の年齢はさまざまだったが、みんな、幼い凜と伊佐那によくしてくれたし、鍛錬にも真面目に励んでいた。凜と伊佐那も、自然と修業の真似事をするようになり、月日が経つごとに、その内容が本格化していった。
生活がいよいよ苦しくなると、決まって、大きな仕事が入り、父が出向いて、大金を稼いできた。そういう日はみんなで美味しいご飯を食べた。
古い考えを持ってはいるが、凜は家が好きだった。
罅が入ったのは、中学三年の春のことだ。
突然、なんの脈絡もなく、伊佐那の顔つきが変わった。
穏やかで、笑顔が耐えなかった弟が、中学に入学すると同時に、周囲を常に睨みつけるようになった。
そればかりか、伊佐那は父や祖父や弟子が凜や母と接触するのを、妨げるようになった。
「お前はもう、来るな」
胴着に着替えて朝練に向かおうとし、伊佐那にとめられた。
理由を聞いたが、弟は答えてくれなかった。
父と母の離婚が決まったのは、それから間もなくのことだ。
母は凜を引き取ると言い、反対の声はあがらなかった。
凜と母は誰からも見送られず、瀬戸内の家を出た。
浮世絵凜はネオ・シードの復旧作業を中断し、班員を労ったあと、E班が待機している部屋へと走った。
施設には、各班それぞれが、集合できる部屋があった。
凜が所属するD班と弟の伊佐那が率いるE班の集合部屋は、ネオ・シードへ直結する廊下にある。
各班長が集合部屋を決める際、伊佐那はネオ・シードへ最も早く到着できる場所を確保した。
今、戦闘はオニキスで行われることが常だが、以前は人々が暮らす町が戦地になっていた。オニキスという別空間へ移動ができるようになったのは、A班の和堂周が班長として加わってからだ。
地下の技術力は地上を勝る。和堂はその一端を担っていた。そんな彼は、部屋を指令班にもっとも近い位置に設定した。
凜がネオ・シードの傍の部屋を望んだのは、伊佐那とは違う理由だった。
部屋の移動はセキュリティ装置を操れば、可能だが、施設の構造を覚えたうえで、最短のルートを考える必要があり、凜には難解だったのだ。
その点、龍崎や甦禰看、赤星、夏目の四者は、通路の移動を造作もなくやってのける。
特に、班の中で、C班が最奥の部屋であるにも関わらず、赤星はその距離を感じさせない。
素直に、すごいと凜は思っていた。
伊佐那が言うとおり、班長の中で自分が一番、力がない。
頭脳も、行動力も、判断力も、できることも、自分はみんなより劣る。
だからこそ、と凜は思う。
だからこそ、自分の力が少しでも上がれば、戦闘班の総戦力は上がる。
凜の希望はそこにあった。
力がないという、伸びしろ。
そう自分を励まし、班を指揮してきたし、これからも、していくつもりだ。
思い出す。
祖父や両親、伊佐那と暮らしていた頃、凜と伊佐那は父と祖父から家訓を、毎日のように聞かされた。
国が災難に襲われたときこそ、国のために命を削るべし。
凜と伊佐那の家は、代々、忍びを生業としてきた。
敷地内にある道場で、忍術道場を開いているのだ。
年齢や国籍、志願理由などに拘らなければ、それなりに生活ができたかもしれない。
しかし、祖父と父は、頑なに、日本人に対し、厳しい修業を与え、忍びを育て上げるという、やり方を変えようとはしなかった。
父よりも随分若かった母は、そんな父と祖父を見守り、住み込みで修業する弟子の世話をした。
弟子の年齢はさまざまだったが、みんな、幼い凜と伊佐那によくしてくれたし、鍛錬にも真面目に励んでいた。凜と伊佐那も、自然と修業の真似事をするようになり、月日が経つごとに、その内容が本格化していった。
生活がいよいよ苦しくなると、決まって、大きな仕事が入り、父が出向いて、大金を稼いできた。そういう日はみんなで美味しいご飯を食べた。
古い考えを持ってはいるが、凜は家が好きだった。
罅が入ったのは、中学三年の春のことだ。
突然、なんの脈絡もなく、伊佐那の顔つきが変わった。
穏やかで、笑顔が耐えなかった弟が、中学に入学すると同時に、周囲を常に睨みつけるようになった。
そればかりか、伊佐那は父や祖父や弟子が凜や母と接触するのを、妨げるようになった。
「お前はもう、来るな」
胴着に着替えて朝練に向かおうとし、伊佐那にとめられた。
理由を聞いたが、弟は答えてくれなかった。
父と母の離婚が決まったのは、それから間もなくのことだ。
母は凜を引き取ると言い、反対の声はあがらなかった。
凜と母は誰からも見送られず、瀬戸内の家を出た。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
からっぽを満たせ
ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。
そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。
しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。
そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので
こじらせた処女
BL
大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。
とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる