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「月見里君とのこと、詮索して悪かった」
絢斗が額をこちらの胸につけてきた。
「俺はいいけど、月見里や朝波には失礼だ」
「ああ」
青年が黙ったので、抱き寄せ、頭に口づけた。
柔らかな髪と甘い香りに目を閉じる。
瞼の裏には、何もないはずなのに、脳はしっかりと、今日の会議や会議後の甦禰看とのやりとりを思い出していた。
絢斗に話さなければいけない。
事実と僕の思いを。
「冷静に聞いて欲しいことがある」
「内容による」
言葉で突き放され、面食らった。
「それも、そうだな」
神薙は、前のめり過ぎる自分の発言に溜息をつき、頭を働かせるためにも、上半身を起こした。
「先に、僕の思いを話す。君のこれからを決めるのは君自身だけど、僕の話も加味して欲しい」
絢斗は体を起こし、こちらを見た。
澄んだ瞳に、怖じ気づく。
自分の気持ちを伝えることは、ただの我が儘ではないのか、と。
しかし、こちらが感情の扉を閉めたままでは、彼は自分の中にある現実だけで、未来を考えなければいけない。
他の道もあるのだ、と提示をすることは、悪ではないはずだ。
「僕は君と一緒にいたい。そうできるよう、あらゆる手段を考えるつもりだ」
絢斗は真顔でこちらを観察していたかと思うと、不意に視線を逸らした。
「今日、俺がいない場所で、そうできない何かを見聞きした?」
ギクリとする。
相手は苦笑した。
「冷静に聞けって言っておいて、あんたが平静さを保てないのかよ」
「悪い」
視線を下げると、やわらかい笑い声が耳に入った。
「悪くない。本気で考えてくれているんだろ? 嬉しい」
浮つき、青年の頬に触れた。
「約束をした。当然だ」
絢斗の手が重なる。
「うん。聞かせて。俺が考えなければいけないって奴」
「……会議の資料に、ネオ・シードの研究所から研究対象のイーバと八つ葉一名が逃走したという記載があった」
絢斗の表情が僅かだが、険しくなる。
「やはり、君が逃走した八つ葉なんだな?」
絢斗は深く息をついた。
「俺のこと、話したのか?」
「会議では言っていない。たけど、薬の処方のため、甦禰看さんに八つ葉であることは伝えていた。会議の後、彼女には公言しないよう頼んだ。今、君の本当の葉数は、僕と甦禰看さん以外は知らない。だから、人に葉数を聞かれたら、他の数を言ったらいい」
「あんたと甦禰看さんだけじゃない。月見里も知ってる」
息がとまった。
「成り行きだった。人型のイーバに襲われて、それで」
言い訳をしているような声音だった。
「けど、あいつは自分からすすんで、俺の葉数は言わない」
チリッと嫉妬に胸が焦げる。
「信用しているんだな」
「だからさ。やめろって、そういう顔」
絢斗は重ねていた手を離し、眉間に皺を寄せた。
「月見里とは、何もない。信用している理由は、あいつがいなかったら、俺は人との関わりをたっていたからだ。あいつに人への希望を教えてもらった。好きかと聞かれたら、好きだけど、あんたが勘ぐるような感情じゃない」
チリチリと胸が悲鳴をあげる。
顔に出ていたのだろう。
相手はこれまで以上に不機嫌になった。
「だから」
言いかけて、舌打ちをする。
はだけていたシャツを掴まれ、拳がくることも覚悟した。
だから、口腔に甘い香りが飛び込み、目を見開いた。
絢斗が額をこちらの胸につけてきた。
「俺はいいけど、月見里や朝波には失礼だ」
「ああ」
青年が黙ったので、抱き寄せ、頭に口づけた。
柔らかな髪と甘い香りに目を閉じる。
瞼の裏には、何もないはずなのに、脳はしっかりと、今日の会議や会議後の甦禰看とのやりとりを思い出していた。
絢斗に話さなければいけない。
事実と僕の思いを。
「冷静に聞いて欲しいことがある」
「内容による」
言葉で突き放され、面食らった。
「それも、そうだな」
神薙は、前のめり過ぎる自分の発言に溜息をつき、頭を働かせるためにも、上半身を起こした。
「先に、僕の思いを話す。君のこれからを決めるのは君自身だけど、僕の話も加味して欲しい」
絢斗は体を起こし、こちらを見た。
澄んだ瞳に、怖じ気づく。
自分の気持ちを伝えることは、ただの我が儘ではないのか、と。
しかし、こちらが感情の扉を閉めたままでは、彼は自分の中にある現実だけで、未来を考えなければいけない。
他の道もあるのだ、と提示をすることは、悪ではないはずだ。
「僕は君と一緒にいたい。そうできるよう、あらゆる手段を考えるつもりだ」
絢斗は真顔でこちらを観察していたかと思うと、不意に視線を逸らした。
「今日、俺がいない場所で、そうできない何かを見聞きした?」
ギクリとする。
相手は苦笑した。
「冷静に聞けって言っておいて、あんたが平静さを保てないのかよ」
「悪い」
視線を下げると、やわらかい笑い声が耳に入った。
「悪くない。本気で考えてくれているんだろ? 嬉しい」
浮つき、青年の頬に触れた。
「約束をした。当然だ」
絢斗の手が重なる。
「うん。聞かせて。俺が考えなければいけないって奴」
「……会議の資料に、ネオ・シードの研究所から研究対象のイーバと八つ葉一名が逃走したという記載があった」
絢斗の表情が僅かだが、険しくなる。
「やはり、君が逃走した八つ葉なんだな?」
絢斗は深く息をついた。
「俺のこと、話したのか?」
「会議では言っていない。たけど、薬の処方のため、甦禰看さんに八つ葉であることは伝えていた。会議の後、彼女には公言しないよう頼んだ。今、君の本当の葉数は、僕と甦禰看さん以外は知らない。だから、人に葉数を聞かれたら、他の数を言ったらいい」
「あんたと甦禰看さんだけじゃない。月見里も知ってる」
息がとまった。
「成り行きだった。人型のイーバに襲われて、それで」
言い訳をしているような声音だった。
「けど、あいつは自分からすすんで、俺の葉数は言わない」
チリッと嫉妬に胸が焦げる。
「信用しているんだな」
「だからさ。やめろって、そういう顔」
絢斗は重ねていた手を離し、眉間に皺を寄せた。
「月見里とは、何もない。信用している理由は、あいつがいなかったら、俺は人との関わりをたっていたからだ。あいつに人への希望を教えてもらった。好きかと聞かれたら、好きだけど、あんたが勘ぐるような感情じゃない」
チリチリと胸が悲鳴をあげる。
顔に出ていたのだろう。
相手はこれまで以上に不機嫌になった。
「だから」
言いかけて、舌打ちをする。
はだけていたシャツを掴まれ、拳がくることも覚悟した。
だから、口腔に甘い香りが飛び込み、目を見開いた。
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