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一度、自分という存在が粉々になり、再構築されるような感覚だった。
よろけた一心を、すかさず、夏目が掴んでいた手で引っ張り上げてくれた。
礼を言おうとし、吐き気に口を覆った。
長時間、乗り物に揺さぶられていたようで、気持ちが悪い。
と、悲鳴をあげている体を、後ろから乱暴に引っ張られ、軽く吐いた。
「戦闘に遅刻しといて、なに、やってんだって思ってたんですけど、まさか、転送でゲロるド素人を連れてくる算段をしていたなんて、予想もつきませんでしたよ。戦闘員の適性試験も受けてない野郎だ。ふつうじゃ、連れてこられない。オペレーターに愛でも売って、見逃してもらいましたか?」
口腔を拭きながら、視線を上げると、茶髪の青年に睨み付けられた。
剣道の試合で、相手と対峙したとき感じる、透明な圧を受け、一心は怯んだ。
「すまん。遅刻は謝る。この通りや」
夏目は顔の前で手をあわし、青年に頭を下げた。
「それでチャラにできると思われてんなら、俺の命は安いもんですね」
青年が夏目を半眼で見る。
夏目が謝罪していることを考えれば、彼が富嶽なのだろう。
「ちゃう! そんなこと、思ってへん! お天道様に誓って思ってへん!」
「あんたが思ってなくても、俺がイーバに食い殺されたら、俺にとっては思っているに等しいんですよ」
富嶽に鬼の形相で一蹴されると、夏目はシュンと肩を落とした。
「すみません。遅刻の原因は、俺にもあります」
すみませんと繰りかえすと、乱暴に手を離された。
平衡感覚が狂っている状態だったが、意地で立った。
富嶽がこちらを値踏みするような瞳をしていたからだ。
自分にとってメリットがあるか、否か。
透明な圧が音もなく、一心の胸を貫く。
恐怖を顔に出さないよう、眼球に力を入れた。
「お前、三つ葉か?」
問われ、首を横に振った。
「じゃあ、お前も、俺を守れ。イーバは三つ葉に食らいつく。現れたところを、殺せ」
「富嶽、彼はまだ」
弱々しく口を挟んだ夏目を、富嶽が流し目で射った。
「まだ、イーバを殺たことがないとかですか? 今までのイーバは新人の研修にも使えたかもしれません。ですが、今回ばっかしは甘っちょろいこと言ってると、本当に死にます」
富嶽が険しい表情をした、次の瞬間、頭上で破壊音がした。
瓦礫がふってくる。
夏目は一心を抱えて後ろへ飛び、富嶽は刀で瓦礫を粉砕した。
一心は強制的に周囲に意識を向けさせられ、オニキスが町であることを知った。
一心が生活してきた町、そのものである、と。
崩れるビルを踏みつけ、黄土色の大きなバケモノが顔を覗かせる。
頬が吊り上がった。
四足歩行のバケモノは何かを探すように辺りを見回し、富嶽を目にした途端、嬉しそうに長い舌を踊らせた。
富嶽は舌打ちをし、一心達とは逆側に走った。
男が、自分かわいさに、一人で逃げたと思えなかったのは、彼が、まるで標的は自分一人だと言わんばかりの必死さを露わにしたのと、朔の言葉を思い出したからだった。
――クローバー病は病気じゃないんだ。ウイルスも菌も関係ない。人を駒にするために、この星が作り出した毒ガスみたいなもんで、体の構造を変えられるんだ。三つ葉はおびき寄せるため。
この黄土色のバケモノがイーバであり、そして、おびき寄せた三つ葉が、富嶽なのだ。
イーバは一心と夏目に目も触れることなく、富嶽を四足で追った。
地面の揺れと共に、砂煙が舞う。
夏目は一心を抱えたまま、跳躍し、崩れていないビルの屋上へと着地した。
「君、やっと、イーバに対して感情を出したね」
見上げると、唇を伸ばした夏目と鉢合わせた。
汗が背中を伝う。
「君が想像しとったのとは、ちゃった?」
よろけた一心を、すかさず、夏目が掴んでいた手で引っ張り上げてくれた。
礼を言おうとし、吐き気に口を覆った。
長時間、乗り物に揺さぶられていたようで、気持ちが悪い。
と、悲鳴をあげている体を、後ろから乱暴に引っ張られ、軽く吐いた。
「戦闘に遅刻しといて、なに、やってんだって思ってたんですけど、まさか、転送でゲロるド素人を連れてくる算段をしていたなんて、予想もつきませんでしたよ。戦闘員の適性試験も受けてない野郎だ。ふつうじゃ、連れてこられない。オペレーターに愛でも売って、見逃してもらいましたか?」
口腔を拭きながら、視線を上げると、茶髪の青年に睨み付けられた。
剣道の試合で、相手と対峙したとき感じる、透明な圧を受け、一心は怯んだ。
「すまん。遅刻は謝る。この通りや」
夏目は顔の前で手をあわし、青年に頭を下げた。
「それでチャラにできると思われてんなら、俺の命は安いもんですね」
青年が夏目を半眼で見る。
夏目が謝罪していることを考えれば、彼が富嶽なのだろう。
「ちゃう! そんなこと、思ってへん! お天道様に誓って思ってへん!」
「あんたが思ってなくても、俺がイーバに食い殺されたら、俺にとっては思っているに等しいんですよ」
富嶽に鬼の形相で一蹴されると、夏目はシュンと肩を落とした。
「すみません。遅刻の原因は、俺にもあります」
すみませんと繰りかえすと、乱暴に手を離された。
平衡感覚が狂っている状態だったが、意地で立った。
富嶽がこちらを値踏みするような瞳をしていたからだ。
自分にとってメリットがあるか、否か。
透明な圧が音もなく、一心の胸を貫く。
恐怖を顔に出さないよう、眼球に力を入れた。
「お前、三つ葉か?」
問われ、首を横に振った。
「じゃあ、お前も、俺を守れ。イーバは三つ葉に食らいつく。現れたところを、殺せ」
「富嶽、彼はまだ」
弱々しく口を挟んだ夏目を、富嶽が流し目で射った。
「まだ、イーバを殺たことがないとかですか? 今までのイーバは新人の研修にも使えたかもしれません。ですが、今回ばっかしは甘っちょろいこと言ってると、本当に死にます」
富嶽が険しい表情をした、次の瞬間、頭上で破壊音がした。
瓦礫がふってくる。
夏目は一心を抱えて後ろへ飛び、富嶽は刀で瓦礫を粉砕した。
一心は強制的に周囲に意識を向けさせられ、オニキスが町であることを知った。
一心が生活してきた町、そのものである、と。
崩れるビルを踏みつけ、黄土色の大きなバケモノが顔を覗かせる。
頬が吊り上がった。
四足歩行のバケモノは何かを探すように辺りを見回し、富嶽を目にした途端、嬉しそうに長い舌を踊らせた。
富嶽は舌打ちをし、一心達とは逆側に走った。
男が、自分かわいさに、一人で逃げたと思えなかったのは、彼が、まるで標的は自分一人だと言わんばかりの必死さを露わにしたのと、朔の言葉を思い出したからだった。
――クローバー病は病気じゃないんだ。ウイルスも菌も関係ない。人を駒にするために、この星が作り出した毒ガスみたいなもんで、体の構造を変えられるんだ。三つ葉はおびき寄せるため。
この黄土色のバケモノがイーバであり、そして、おびき寄せた三つ葉が、富嶽なのだ。
イーバは一心と夏目に目も触れることなく、富嶽を四足で追った。
地面の揺れと共に、砂煙が舞う。
夏目は一心を抱えたまま、跳躍し、崩れていないビルの屋上へと着地した。
「君、やっと、イーバに対して感情を出したね」
見上げると、唇を伸ばした夏目と鉢合わせた。
汗が背中を伝う。
「君が想像しとったのとは、ちゃった?」
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