クローバー

上野たすく

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「クローバー病? 朔が?」
「はい。我々は彼から大切なものをお預かりしています。詳しいことは、施設でお話しいたします。同行していただけますね」
 息を吸い、ゆっくり、吐き出した。
 脳裏には、中学時代の朔の笑顔があった。
「いつ、クローバー病に?」
「私が会ったのは、彼が中学三年生の時でした」
 目を見開いた。
 返ってこなかった手紙。
 友だちではなくなったのだと、思った。
 直接、朔からそう言われるのが怖くて、以来、連絡を取ろうとしなかった。
 母に向き直り、見つめた。
 母は一心の表情から、男達に着いていこうとする決意を悟ったのだろう。玄関から飛び出てきた。
「そちらの施設はどこにあるんですか? 息子をおかしな場所へ行かせるわけにはいきません」
 小柄な母が長身の男達に、噛みつかんばかりに問う。
 飯島は懐からスマホを取り出し、操作すると画面を母と一心に見せた。
 木々に囲まれた白い大型の建物をバックに、国際宇宙犯罪特別組織の名称が打ち出されている。住所は県内の山の方だった。そう遠くはないが、近くもない。
「我々の組織は政府公認であり、他国にも同じ組織が駐在しています」
 宇宙犯罪とクローバー病、そして、朔が、どう繋がるのか、違和感は計り知れなかった。
 朔が入院していたにしろ、なぜ、朔の両親ではなく、聞き慣れぬ組織の男たちがうちへ来たのかも、納得がいかない。
「疑うことは良いことです。ぜひ、君には貫いて欲しい」
 飯島の言葉に顎を引いた。
「決定打が必要。そういうことですね」
 彼はスマホを操作し、今度はこちらへ手渡した。
 掌に、朔がいた。
 正確には、朔の動画が流されていた。
「クローバー病を発症してから、彼は昏睡状態になりました。一度、目を覚ましましたが、現在も似た状態にあります」
 真っ白なベッドに寝かされた朔は、彼の身体の調子を反映するであろう、さまざまな機械と点滴に囲まれていた。
 重々しい雰囲気だった。が、それにもまして、彼の、少しやつれた顔を侵す黒色のクローバーに、一心は目を細めた。
「月見里君」
 飯島が名前を呼んでくる。
「朝波君が君を待っています」
 掌のスマホから、朔の呼吸が聞こえてくる。
 端末を強く握りしめた。
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