19 / 22
5-4
しおりを挟む
孤は屋根に着地し、火の手のないところから地面へと下りた。
出入り口のドアは開け放たれていた。熱気が屋内から漏れ、火の粉が舞う。
腕で口と鼻を隠し、一歩踏み出すと、後ろから肩を掴まれた。
「俺が行く。お前は少し離れたところで待ってろ」
エニシは、縁の頭部を持っていない。
まさか、人を助けるために、縁を犠牲にしたのか?
エニシは二本の腕では無理だと主張したのに、自分が押し切ったから、縁を失った?
足が震え、体温が一気に下がった。
エニシはリュック型の機械を孤に抱えさせた。
「縁のAIチップを、そいつにはめ込んである。そいつの意思で、お前を守ってくれる」
「あ……。……なさい。……ごめんなさい。縁をこんな姿にしたかったわけじゃない……。俺、そこまで考えられなくて」
自分が自分の思いで動いた結果、大切な人を傷つけることになると思っていなかった。被害を受けるのは自分だけだと、思い込んでいた。違うのだ。自分も、エニシからすれば、助けたい存在であり、彼は思いを実行する。一人で先走ってはいけなかった。
エニシの手が頭にのる。
「心配するな。頭部だけ持って帰りたかったのも、そのチップが欲しかったからだ。体は俺が作ってやる」
安堵から、嗚咽が出そうになり、グッと耐えた。
「トモ」
リュック型の機械のベルト部分から、懐かしい声が聞こえた。ナナシの傍にいてくれたパートナーの、機械的な音声だ。
「縁!」
「ボク ヲ セオッテ」
縁がしゃべると、ベルトの一部分が緑色に点滅した。
孤は促されまま、縁を背負った。
エニシはその様子に口角を上げ、音もなく消えた。
「ココ ハ メダツ。ロジ ヘ イコウ」
「わかった」
火の気のない路地へと走った。
駆け込んだそこに、腰に刀をつけた青年がいた。歳は十六、七ほどで、正装をし、黒髪に桃色の瞳をしている。青年は孤に半眼を向けた。
「お前が兄さんの予備か。忌々しい」
「ユウセイ サマ」
反射的に、孤は縁が出す緑の光りを見た。
「RO2か。貴様、兄さんが生きていたことを、よくも黙っていたな」
背中の機械がガチャガチャと音を出し、四本のアームを蜘蛛のように上下に伸ばした。
「ニゲテ トモ」
アームが青年に襲いかかる。
相手は刀を構えることも、また、退きもしなかった。
「俺達から手を出しちゃ、ダメだ!」
青年に触れる間近で、縁は動きを止めた。
「そうだな」
リヴォーグ国第三王子ユウセイは、まっすぐ、孤へと歩いた。
「無闇に、争いの火種を作るのは、得策ではないな」
縁のアームが孤を、守るように包んだ。
「ユウセイ サマ、ヒイテ クダサイ。ワレワレ ハ リヴォーグ ヲ デマス」
「王位継承順位一番の者に、そのような権利はない」
「アナタ ノ アニ ハ オウイ ケイショウケン ヲ ホウキ シマシタ」
ユウセイは縁の言葉を鼻で笑い飛ばした。
「そんな簡単に放棄できるわけがないだろう。だから、母上達が手を回したんだ」
お前も、とユウセイの手が孤の首に伸ばされる。
「兄さんの予備だとバレたら、待っているのは死だ」
鋭利な眼差しに、歯が鳴った。
頭には、エニシの叫びが甦っていた。
俺の死は、俺だけの問題じゃないんだ。
「俺は死なない! 殺されないための行動をする! エニシを独りにはしない!」
ユウセイの瞳が憎しみをぶつけるかのように、よりいっそう鋭くなった。
「兄さんが口にして良いのは、俺の血だけだ」
不意打ちだった。
ユウセイが不自然に視線を横へと走らせ、舌打ちをする。直後、孤を守っていた縁のアームが木っ端微塵に粉砕した。銀色の刀身が目前をかすめ、青年の手が腕に触れる。
が、何かが孤の腕を、青年から素早く逃れさせ、孤を後ろへと数十歩、飛ぶように下がらせた。
孤はエニシの腕の中にいた。彼の服は所々、焦げていた。
出入り口のドアは開け放たれていた。熱気が屋内から漏れ、火の粉が舞う。
腕で口と鼻を隠し、一歩踏み出すと、後ろから肩を掴まれた。
「俺が行く。お前は少し離れたところで待ってろ」
エニシは、縁の頭部を持っていない。
まさか、人を助けるために、縁を犠牲にしたのか?
エニシは二本の腕では無理だと主張したのに、自分が押し切ったから、縁を失った?
足が震え、体温が一気に下がった。
エニシはリュック型の機械を孤に抱えさせた。
「縁のAIチップを、そいつにはめ込んである。そいつの意思で、お前を守ってくれる」
「あ……。……なさい。……ごめんなさい。縁をこんな姿にしたかったわけじゃない……。俺、そこまで考えられなくて」
自分が自分の思いで動いた結果、大切な人を傷つけることになると思っていなかった。被害を受けるのは自分だけだと、思い込んでいた。違うのだ。自分も、エニシからすれば、助けたい存在であり、彼は思いを実行する。一人で先走ってはいけなかった。
エニシの手が頭にのる。
「心配するな。頭部だけ持って帰りたかったのも、そのチップが欲しかったからだ。体は俺が作ってやる」
安堵から、嗚咽が出そうになり、グッと耐えた。
「トモ」
リュック型の機械のベルト部分から、懐かしい声が聞こえた。ナナシの傍にいてくれたパートナーの、機械的な音声だ。
「縁!」
「ボク ヲ セオッテ」
縁がしゃべると、ベルトの一部分が緑色に点滅した。
孤は促されまま、縁を背負った。
エニシはその様子に口角を上げ、音もなく消えた。
「ココ ハ メダツ。ロジ ヘ イコウ」
「わかった」
火の気のない路地へと走った。
駆け込んだそこに、腰に刀をつけた青年がいた。歳は十六、七ほどで、正装をし、黒髪に桃色の瞳をしている。青年は孤に半眼を向けた。
「お前が兄さんの予備か。忌々しい」
「ユウセイ サマ」
反射的に、孤は縁が出す緑の光りを見た。
「RO2か。貴様、兄さんが生きていたことを、よくも黙っていたな」
背中の機械がガチャガチャと音を出し、四本のアームを蜘蛛のように上下に伸ばした。
「ニゲテ トモ」
アームが青年に襲いかかる。
相手は刀を構えることも、また、退きもしなかった。
「俺達から手を出しちゃ、ダメだ!」
青年に触れる間近で、縁は動きを止めた。
「そうだな」
リヴォーグ国第三王子ユウセイは、まっすぐ、孤へと歩いた。
「無闇に、争いの火種を作るのは、得策ではないな」
縁のアームが孤を、守るように包んだ。
「ユウセイ サマ、ヒイテ クダサイ。ワレワレ ハ リヴォーグ ヲ デマス」
「王位継承順位一番の者に、そのような権利はない」
「アナタ ノ アニ ハ オウイ ケイショウケン ヲ ホウキ シマシタ」
ユウセイは縁の言葉を鼻で笑い飛ばした。
「そんな簡単に放棄できるわけがないだろう。だから、母上達が手を回したんだ」
お前も、とユウセイの手が孤の首に伸ばされる。
「兄さんの予備だとバレたら、待っているのは死だ」
鋭利な眼差しに、歯が鳴った。
頭には、エニシの叫びが甦っていた。
俺の死は、俺だけの問題じゃないんだ。
「俺は死なない! 殺されないための行動をする! エニシを独りにはしない!」
ユウセイの瞳が憎しみをぶつけるかのように、よりいっそう鋭くなった。
「兄さんが口にして良いのは、俺の血だけだ」
不意打ちだった。
ユウセイが不自然に視線を横へと走らせ、舌打ちをする。直後、孤を守っていた縁のアームが木っ端微塵に粉砕した。銀色の刀身が目前をかすめ、青年の手が腕に触れる。
が、何かが孤の腕を、青年から素早く逃れさせ、孤を後ろへと数十歩、飛ぶように下がらせた。
孤はエニシの腕の中にいた。彼の服は所々、焦げていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】紅く染まる夜の静寂に ~吸血鬼はハンターに溺愛される~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
吸血鬼を倒すハンターである青年は、美しい吸血鬼に魅せられ囚われる。
若きハンターは、己のルーツを求めて『吸血鬼の純血種』を探していた。たどり着いた古城で、美しい黒髪の青年と出会う。彼は自らを純血の吸血鬼王だと名乗るが……。
対峙するはずの吸血鬼に魅せられたハンターは、吸血鬼王に血と愛を捧げた。
ハンター×吸血鬼、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血描写・吸血表現あり
※印は性的表現あり
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
全89話+外伝3話、2019/11/29完
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
本日のディナーは勇者さんです。
木樫
BL
〈12/8 完結〉
純情ツンデレ溺愛魔王✕素直な鈍感天然勇者で、魔王に負けたら飼われた話。
【あらすじ】
異世界に強制召喚され酷使される日々に辟易していた社畜勇者の勝流は、魔王を殺ってこいと城を追い出され、単身、魔王城へ乗り込んだ……が、あっさり敗北。
死を覚悟した勝流が目を覚ますと、鉄の檻に閉じ込められ、やたら豪奢なベッドに檻ごとのせられていた。
「なにも怪我人檻に入れるこたねぇだろ!? うっかり最終形態になっちまった俺が悪いんだ……ッ!」
「いけません魔王様! 勇者というのは魔物をサーチアンドデストロイするデンジャラスバーサーカーなんです! 噛みつかれたらどうするのですか!」
「か、噛むのか!?」
※ただいまレイアウト修正中!
途中からレイアウトが変わっていて読みにくいかもしれません。申し訳ねぇ。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる