言の葉

上野たすく

文字の大きさ
上 下
1 / 12

プロローグ

しおりを挟む
「あんた、神経おかしいんじゃないの!」
 姉が泣きながら眉を吊り上げたのは、台所で夕食を採っている最中だった。
 彼女は怒りを隠そうともせず、一彰を睨み付けてくる。 
 父はご飯を食べようとした、その格好のまま固まった。
「あんただけよ。一度も泣かなかったのは!」
「やめなさい。食事中だ。それに一彰はまだ子どもなんだ。俺たちと同じ感情を求めるのは酷だろう」
 歯を剥く姉の前で頭を撫でられる。
 触れられているのに心細さで気が狂いそうだった。
 この目から涙さえ出れば、誰の目にも悲しんでいるように映るのだろうか。
 自室へ戻ると風で窓がガタガタ揺れていた。
 死神が入れてくれとノックをしているようだ。 
 不意に勉強机に置かれたペン立てのカッターが目に止まった。
 目的も理由もない。
 衝動的だった。
 だから、自分の手首から血が出て、それが絨毯の緑に点々と染みを作っていくことが不思議でならなかった。
 一年前の話だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

家路

tsu
青春
主人公が青春時代に偶然出会った三人の女の子との思い出話。

僕とやっちゃん

山中聡士
青春
高校2年生の浅野タケシは、クラスで浮いた存在。彼がひそかに思いを寄せるのは、クラスの誰もが憧れるキョウちゃんこと、坂本京香だ。 ある日、タケシは同じくクラスで浮いた存在の内田靖子、通称やっちゃんに「キョウちゃんのこと、好きなんでしょ?」と声をかけられる。 読書好きのタケシとやっちゃんは、たちまち意気投合。 やっちゃんとの出会いをきっかけに、タケシの日常は変わり始める。 これは、ちょっと変わった高校生たちの、ちょっと変わった青春物語。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

坊主の誓い

S.H.L
青春
新任教師・高橋真由子は、生徒たちと共に挑む野球部設立の道で、かけがえのない絆と覚悟を手に入れていく。試合に勝てば坊主になるという約束を交わした真由子は、生徒たちの成長を見守りながら、自らも変わり始める。試合で勝利を掴んだその先に待つのは、髪を失うことで得る新たな自分。坊主という覚悟が、教師と生徒の絆をさらに深め、彼らの未来への新たな一歩を導く。青春の汗と涙、そして覚悟を描く感動の物語。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

おかしな人に囲まれて

くくたろう
青春
普通だった主人公がおかしな人達に関わって変な人生を歩みながらもだんだんといい方に進む話(ファンタジーじゃなくてぶっ飛んだ人たちの話です)

処理中です...