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屋上へ繋がる階段。
立ち入り禁止のロープに小塚がハンカチを括りつけた。ロープを上げ、俺にくぐるよう、そくす。
なんか、この気遣い、デジャヴ。
俺に続いて小塚が階段をのぼり、二人で屋上へ続くドアに背を預けた。
大丈夫か、ここ。上ってこられたら、ひとたまりもないぞ。
「大丈夫」
小塚が俺の顔を覗き込んでくる。
「使用中にしといたから」
両人差し指で、四角を描く。
「ハンカチ?」
「ビンゴ」
慣れた動作でハンカチを結ぶ小塚を思い出し、引きつった笑みを浮かべた。
常連なのかな?
チャイムが鳴り響き、俺は無意識に体を強ばらせる。
シュッと、小塚が何かを吹きかけてきた。
石鹸の匂い。
小塚はアトマイザーをかまえたまま、口の両端を上げた。
「香水ね。俺はΩのフェロモンに理性きれそうになったとき使ってるけど、Ω自体につけても効果あるかなって」
小塚が鼻をひくつかせ、そして、目を瞑ってゆっくりと深呼吸をした。
瞼を開け、唇を伸ばす。
「あんたのいい匂い、ちょっとは隠れたぜ」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
小塚がまた目を閉じる。
じっと見つめていると、ぷっと笑われた。
「人のこと、気にしてる場合か? あんたも休んどけよ。短期決戦だからな。生ぬるい考え持ってると、できるもんもできないぞ」
重い言葉とは違い、小塚はどこか楽しげだった。
階下で足音が通り過ぎていく。
生徒の声がし、俺は気が気じゃない。
小塚は安全だという絶対の自信があるのか、頭を垂れ、全ての機能を停止しているように動かない。
チャイムが鳴る。
生徒が教室へと入り、通路に障害はない。
だが、小塚は反応すらしない。
俺は信じると言った。それが俺の唯一の武器だ。
天井を見上げ、心を静める。
そこに、突然のバイブ音。
小塚が瞼を押し上げる。
今までにない、鬼気迫る表情に、俺は目を疑う。
小塚が制服からスマホを手にし、画面を見る。
「行くぜ」
小塚はロープからハンカチをとり、俺がロープを抜けるのを見てから走り出した。
速い。置いて行かれる。
廊下から階段へ。
足がもつれそうだ。
小塚は二階の踊り場で、予告なく跳躍し、天井の近くにあった窓から何かを取り、ほぼ音をたてずに着地した。
αの身体能力の高さは知っていたけど、間近で見ると超人だな。
小塚が窓から得たのは片耳用のワイヤレスイヤホンだったらしく、彼はそれを無言でつけた。
「みんなにトランシーバーアプリを開くよう伝えてくれ」
小塚自身もスマホを操作する。
俺じゃなく、仲間に言ったのか。
小塚が俺をチラリと見る。
「これで、いちいち、通話ボタン押さなくても、会話ができるんだ」
「そうか」
俺は荒い息で応える。全力疾走して心臓が痛かった。
立ち入り禁止のロープに小塚がハンカチを括りつけた。ロープを上げ、俺にくぐるよう、そくす。
なんか、この気遣い、デジャヴ。
俺に続いて小塚が階段をのぼり、二人で屋上へ続くドアに背を預けた。
大丈夫か、ここ。上ってこられたら、ひとたまりもないぞ。
「大丈夫」
小塚が俺の顔を覗き込んでくる。
「使用中にしといたから」
両人差し指で、四角を描く。
「ハンカチ?」
「ビンゴ」
慣れた動作でハンカチを結ぶ小塚を思い出し、引きつった笑みを浮かべた。
常連なのかな?
チャイムが鳴り響き、俺は無意識に体を強ばらせる。
シュッと、小塚が何かを吹きかけてきた。
石鹸の匂い。
小塚はアトマイザーをかまえたまま、口の両端を上げた。
「香水ね。俺はΩのフェロモンに理性きれそうになったとき使ってるけど、Ω自体につけても効果あるかなって」
小塚が鼻をひくつかせ、そして、目を瞑ってゆっくりと深呼吸をした。
瞼を開け、唇を伸ばす。
「あんたのいい匂い、ちょっとは隠れたぜ」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
小塚がまた目を閉じる。
じっと見つめていると、ぷっと笑われた。
「人のこと、気にしてる場合か? あんたも休んどけよ。短期決戦だからな。生ぬるい考え持ってると、できるもんもできないぞ」
重い言葉とは違い、小塚はどこか楽しげだった。
階下で足音が通り過ぎていく。
生徒の声がし、俺は気が気じゃない。
小塚は安全だという絶対の自信があるのか、頭を垂れ、全ての機能を停止しているように動かない。
チャイムが鳴る。
生徒が教室へと入り、通路に障害はない。
だが、小塚は反応すらしない。
俺は信じると言った。それが俺の唯一の武器だ。
天井を見上げ、心を静める。
そこに、突然のバイブ音。
小塚が瞼を押し上げる。
今までにない、鬼気迫る表情に、俺は目を疑う。
小塚が制服からスマホを手にし、画面を見る。
「行くぜ」
小塚はロープからハンカチをとり、俺がロープを抜けるのを見てから走り出した。
速い。置いて行かれる。
廊下から階段へ。
足がもつれそうだ。
小塚は二階の踊り場で、予告なく跳躍し、天井の近くにあった窓から何かを取り、ほぼ音をたてずに着地した。
αの身体能力の高さは知っていたけど、間近で見ると超人だな。
小塚が窓から得たのは片耳用のワイヤレスイヤホンだったらしく、彼はそれを無言でつけた。
「みんなにトランシーバーアプリを開くよう伝えてくれ」
小塚自身もスマホを操作する。
俺じゃなく、仲間に言ったのか。
小塚が俺をチラリと見る。
「これで、いちいち、通話ボタン押さなくても、会話ができるんだ」
「そうか」
俺は荒い息で応える。全力疾走して心臓が痛かった。
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