鮮やかなもの

上野たすく

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「白石先生と仲いいんですね?」
 バイトの浜ちゃんが笑いかけてくる。
 鼻のあたりに、そばかすのある彼は、法学部の学生だ。
「よくない。どちらかというと、悪いから」
「そうなんですか?」
「うん。誤解しないで。本当、迷惑。じゃなくて、白石先生にご迷惑かけるだろ?」
 浜ちゃんがケラケラ笑う。
「仲がいいってだけで、どんな迷惑がかかるんですか?」
 俺と違って、浜ちゃんの魂はピュアだなぁ。
「それに、白石先生が砕けた言葉で話すのって、奥村先生だけですよ」
 うん、まあ、そりゃあ、勤め先でタメ口はダメだろ?
 俺は元友人だから……って、そこが浜ちゃんにとって、仲がいい括りにされちゃう原因か。
 元はつくけど、友人だったって過去は変わんないからな。
 滲み出てんのかな、もしかして。
「浜ちゃんは白石先生が好きなん?」
「好きと言うか、尊敬しています。法律の指導方法とか斬新で、カリスマ講師って、ああいう人のことを言うんだろうなあって。あ、奥村先生がカリスマじゃないって言ってるんじゃないですよ」
「気を使わなくていいよ。俺、もともと講師志望じゃないから、張り合うつもりないもん」
 αのあいつに敵うはずねぇしな。
「僕、白石先生の講義の録画係をしたことがあって」
「ああ。大変だよな。あとで編集もするんだろ?」
「はい。聞き直して、タイトル入れたりします。楽しいですよ。勉強になりますし」
「偉い、偉い。浜ちゃんは偉いなあ。向上心があって」
「話を戻しますが」
 ちっ! 話題を逸らせられなかったか。
「白石先生、講義の初めに、必ず法律を学ぼうとした経緯を言うんですが」
 なんだよ、自己陶酔か、あの馬鹿。
「本能を制御したいからなんですって」
「本能?」
 なんじゃ、そりゃ。
「白石先生ってαですよね?」
「ん? それって、どこ情報?」
「出身がX高校っておっしゃっていました、ご自分で」
 あいつ、何気に自慢か!
「僕はβだから、わからないんですけど、αだからこその苦悩があるんですよね、きっと」
「そうね」
 俺もわかんねぇけどな。
「社会って、どこかΩに厳しいじゃないですか? 先生もご存じだと思いますが、薬や生活面での補助金は出ますが、発情したΩをαが強姦しても罪に問われないとか……。女性のΩは特例で救われることもありますが、男は裁判所に訴えても門前払いです。だから、男のΩに無茶をするαがあとをたたない……」
「法律が差別を助長してるのは、以前から問題になってるもんな。で、そんなαに都合のいい法律で、白石先生はご自身の本能を制御したいと?」
「αに都合がいいからこそ、戒めにしたいんだと思います。罪にならないことだから、罪だと強く思う必要があるんじゃないでしょうか?」
「考え過ぎ」
 白石はそんな高尚な奴じゃない。
 浜ちゃんの言う通りなら、どうして、あのとき、俺を助けてくれなかった?
 αはΩの発情にあてられる。その気がなくても、理性がなくなり、襲っちまう。
 でも、Ωはαに抱かれれば、気持ち悪さや熱っぽさが治まる。
 単純に考えれば、持ちつ持たれつだ。
 俺は白石なら許した。あいつになら、抱かれてもよかった。あいつだって、そのつもりで、俺にキスをしてきたんじゃないのか? 俺の体に触れてきたんじゃなかったのか?!
「講義の時間だから」
 テキストとノートを脇に抱え、立ち上がる。
「あ、はい。頑張ってきてください」
「浜ちゃんも、白石先生を敬うのは、ほどほどにしとけよ」
 あとで、痛い目をみるぜ。
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