上 下
4 / 46

4〈現在 縁視点〉

しおりを挟む
 ソロの町を出て、森に入る。
 オーガストは縁達を気遣いながらも、奥へと突き進んでいく。
 人が足を踏み入れた形跡が薄くなり、自然の色が濃くなっていく。
 それでも、目的地へは着かない。
 まさか、騙された?
 部外者がその土地に埋まる真実に触れることを、そこに住まう人間は嫌う。
 時代も場所も、その思いに大差はないだろう。
 ちらりとエニシを視線でとらえる。
 彼は半眼で、オーガストから間合いをとっていた。
 初めから信用していないって?
 その用心深さは、彼の過去の副産物であり、今も消えることのない痛みの象徴なのだろうが、孤を救うことを思えば、ありがたかった。
「おい」
 エニシがオーガストに声をかける。
「はい」
「どこまで行く?」
 エニシの踏み込んだ物言いに、縁は息を詰め、戦闘になった場合、すぐに対応できるよう身構える。
 オーガストは立ち止まり、縁達を振り返った。
「俺の家がこの先にあります。そこまで、案内しようと思っています」
 エニシは周囲を見回し、
「ふうん。えらく、人気のないところに建てたもんだ」
 目を細めた。
「本当に、あんたの家があるのか?」
 オーガストは口を閉じた。
 月の光を雲が隠す。
 暗闇で、青年が浅い息を吐き出した。
「そんなに俺が信用できないか?」
 さきほどまでの丁寧な物言いではなかった。
 エニシは青年の威圧を鼻で笑い飛ばした。
「信用ってもんが、短時間で生まれるわけがないだろ」
 雲が過ぎゆき、月光が森に差し込む。
 オーガストは悲しげに微笑んでいた。
 エニシは顔をしかめた。
 情に流されまいと努めているのだろう。
 孤と接する時間が長くなればなるほど、彼はさまざまな感情を見せるようになった。
 人を信じることも、人の悲しみに心が揺らぐのも、エニシが人だからだ。
 僕は違う。
 縁はそっと自分の腕に仕込まれた武器の制御を解き、すぐにでも弾丸を撃てる準備をした。
 僕はヒューマノイド。大切な人を守る命令を遂行する。プログラム通りに。
「お前が言う通り、俺は敬われるような人間じゃない。お前達に事情を話そうと思ったのも気紛れだ。いつ、心変わりし、よそ者を血染めにするかしれない」
 縁は両目で、オーガストの呼気や熱、拍動をも、備えられたシステムで、つぶさにとらえた。すべて、変化はない。
 オーガストの瞳が縁を射貫く。
 神経回路を模したシステムに、電流が走った。
 縁はおろかエニシまでも、蛇に睨まれたカエルのように動けない。
 オーガストがふっと気を抜く。
 縁は棒立ちのまま、そして、エニシは地面に膝をついた。
 地面にエニシの汗が染みこんでいく。
 オーガストがエニシへと手を差し出す。
「信用がない相手であっても、お前は俺の手を取らざるを得ない。お前の仲間を連れて行った者は、この土地では禁忌の存在だ。王都ミラージュで尋ね歩けば、牢獄に幽閉されるようなな」
 エニシは息を慎重に吐き出した。
「あんたは、なぜ、その禁忌を口にしようと思った?」
 気紛れだとかわされるだろうと、縁は踏んでいた。
 だが、オーガストは表情を曇らせ、黙り込んだ。
 エニシの眉根が寄る。
 オーガストは瞼を閉じ、決意したように押し上げた。
「俺はお前達の仲間を救う手助けをする。その代わり、お前達にも、相応の働きをしてもらう。契約を交わそう。お互いの利益のために」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

メテオライト

渡里あずま
BL
魔物討伐の為に訪れた森で、アルバは空から落下してきた黒髪の少年・遊星(ゆうせい)を受け止める。 異世界からの転生者だという彼との出会いが、強くなることだけを求めていたアルバに変化を与えていく。 ※重複投稿作品※

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・毎日更新。投稿時間を朝と夜にします。どうぞ最後までよろしくお願いします。 ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・第12回BL大賞にエントリーしました。攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

処理中です...