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4〈現在 縁視点〉
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ソロの町を出て、森に入る。
オーガストは縁達を気遣いながらも、奥へと突き進んでいく。
人が足を踏み入れた形跡が薄くなり、自然の色が濃くなっていく。
それでも、目的地へは着かない。
まさか、騙された?
部外者がその土地に埋まる真実に触れることを、そこに住まう人間は嫌う。
時代も場所も、その思いに大差はないだろう。
ちらりとエニシを視線でとらえる。
彼は半眼で、オーガストから間合いをとっていた。
初めから信用していないって?
その用心深さは、彼の過去の副産物であり、今も消えることのない痛みの象徴なのだろうが、孤を救うことを思えば、ありがたかった。
「おい」
エニシがオーガストに声をかける。
「はい」
「どこまで行く?」
エニシの踏み込んだ物言いに、縁は息を詰め、戦闘になった場合、すぐに対応できるよう身構える。
オーガストは立ち止まり、縁達を振り返った。
「俺の家がこの先にあります。そこまで、案内しようと思っています」
エニシは周囲を見回し、
「ふうん。えらく、人気のないところに建てたもんだ」
目を細めた。
「本当に、あんたの家があるのか?」
オーガストは口を閉じた。
月の光を雲が隠す。
暗闇で、青年が浅い息を吐き出した。
「そんなに俺が信用できないか?」
さきほどまでの丁寧な物言いではなかった。
エニシは青年の威圧を鼻で笑い飛ばした。
「信用ってもんが、短時間で生まれるわけがないだろ」
雲が過ぎゆき、月光が森に差し込む。
オーガストは悲しげに微笑んでいた。
エニシは顔をしかめた。
情に流されまいと努めているのだろう。
孤と接する時間が長くなればなるほど、彼はさまざまな感情を見せるようになった。
人を信じることも、人の悲しみに心が揺らぐのも、エニシが人だからだ。
僕は違う。
縁はそっと自分の腕に仕込まれた武器の制御を解き、すぐにでも弾丸を撃てる準備をした。
僕はヒューマノイド。大切な人を守る命令を遂行する。プログラム通りに。
「お前が言う通り、俺は敬われるような人間じゃない。お前達に事情を話そうと思ったのも気紛れだ。いつ、心変わりし、よそ者を血染めにするかしれない」
縁は両目で、オーガストの呼気や熱、拍動をも、備えられたシステムで、つぶさにとらえた。すべて、変化はない。
オーガストの瞳が縁を射貫く。
神経回路を模したシステムに、電流が走った。
縁はおろかエニシまでも、蛇に睨まれたカエルのように動けない。
オーガストがふっと気を抜く。
縁は棒立ちのまま、そして、エニシは地面に膝をついた。
地面にエニシの汗が染みこんでいく。
オーガストがエニシへと手を差し出す。
「信用がない相手であっても、お前は俺の手を取らざるを得ない。お前の仲間を連れて行った者は、この土地では禁忌の存在だ。王都ミラージュで尋ね歩けば、牢獄に幽閉されるようなな」
エニシは息を慎重に吐き出した。
「あんたは、なぜ、その禁忌を口にしようと思った?」
気紛れだとかわされるだろうと、縁は踏んでいた。
だが、オーガストは表情を曇らせ、黙り込んだ。
エニシの眉根が寄る。
オーガストは瞼を閉じ、決意したように押し上げた。
「俺はお前達の仲間を救う手助けをする。その代わり、お前達にも、相応の働きをしてもらう。契約を交わそう。お互いの利益のために」
オーガストは縁達を気遣いながらも、奥へと突き進んでいく。
人が足を踏み入れた形跡が薄くなり、自然の色が濃くなっていく。
それでも、目的地へは着かない。
まさか、騙された?
部外者がその土地に埋まる真実に触れることを、そこに住まう人間は嫌う。
時代も場所も、その思いに大差はないだろう。
ちらりとエニシを視線でとらえる。
彼は半眼で、オーガストから間合いをとっていた。
初めから信用していないって?
その用心深さは、彼の過去の副産物であり、今も消えることのない痛みの象徴なのだろうが、孤を救うことを思えば、ありがたかった。
「おい」
エニシがオーガストに声をかける。
「はい」
「どこまで行く?」
エニシの踏み込んだ物言いに、縁は息を詰め、戦闘になった場合、すぐに対応できるよう身構える。
オーガストは立ち止まり、縁達を振り返った。
「俺の家がこの先にあります。そこまで、案内しようと思っています」
エニシは周囲を見回し、
「ふうん。えらく、人気のないところに建てたもんだ」
目を細めた。
「本当に、あんたの家があるのか?」
オーガストは口を閉じた。
月の光を雲が隠す。
暗闇で、青年が浅い息を吐き出した。
「そんなに俺が信用できないか?」
さきほどまでの丁寧な物言いではなかった。
エニシは青年の威圧を鼻で笑い飛ばした。
「信用ってもんが、短時間で生まれるわけがないだろ」
雲が過ぎゆき、月光が森に差し込む。
オーガストは悲しげに微笑んでいた。
エニシは顔をしかめた。
情に流されまいと努めているのだろう。
孤と接する時間が長くなればなるほど、彼はさまざまな感情を見せるようになった。
人を信じることも、人の悲しみに心が揺らぐのも、エニシが人だからだ。
僕は違う。
縁はそっと自分の腕に仕込まれた武器の制御を解き、すぐにでも弾丸を撃てる準備をした。
僕はヒューマノイド。大切な人を守る命令を遂行する。プログラム通りに。
「お前が言う通り、俺は敬われるような人間じゃない。お前達に事情を話そうと思ったのも気紛れだ。いつ、心変わりし、よそ者を血染めにするかしれない」
縁は両目で、オーガストの呼気や熱、拍動をも、備えられたシステムで、つぶさにとらえた。すべて、変化はない。
オーガストの瞳が縁を射貫く。
神経回路を模したシステムに、電流が走った。
縁はおろかエニシまでも、蛇に睨まれたカエルのように動けない。
オーガストがふっと気を抜く。
縁は棒立ちのまま、そして、エニシは地面に膝をついた。
地面にエニシの汗が染みこんでいく。
オーガストがエニシへと手を差し出す。
「信用がない相手であっても、お前は俺の手を取らざるを得ない。お前の仲間を連れて行った者は、この土地では禁忌の存在だ。王都ミラージュで尋ね歩けば、牢獄に幽閉されるようなな」
エニシは息を慎重に吐き出した。
「あんたは、なぜ、その禁忌を口にしようと思った?」
気紛れだとかわされるだろうと、縁は踏んでいた。
だが、オーガストは表情を曇らせ、黙り込んだ。
エニシの眉根が寄る。
オーガストは瞼を閉じ、決意したように押し上げた。
「俺はお前達の仲間を救う手助けをする。その代わり、お前達にも、相応の働きをしてもらう。契約を交わそう。お互いの利益のために」
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