孤塁の縁 第二章 ～死装束の少年～

３〈過去 景虎視点〉

　どうして、人は住む場所を選べないのだろう。
　どうして、人は誰のものでもない大地に線を引き、互いを分断させたのだろう。
　どうして、人が崇拝する神は一人ではなく、たくさんいるのだろう。

　どうして俺は、エネルギーを賄うことも、作物を育てることも難しい国に生まれたんだろう。
　どうして隣の国は、潤沢なエネルギーをもってして、他国と政治の駆け引きができ、それだけでなく、あんなにも緑と水に溢れているのだろう。
　どうして俺達の神は異端で、あちらの神が本物だって、決めつけるのだろう。

　生まれた瞬間から、勝ち負けは決まっている？
　俺達が……、俺が敗者だから、大切な人達を守れなかった？
　奪われるのは、仕方がなかった？

　憎い。
　不毛な土地に生まれたことが。
　憎い。
　自然の富を、初めから与えられたあいつらが。
　憎い。
　理不尽な力に抗えない自分が。
　憎い……。

　だから、俺はこいつを通して、あいつらにも、絶望を味わわせてやるんだ。

　こいつはまだ、三歳かそこいらの年齢だ。
　学問を学ぶ時間だってなかったはず。
　お前には、文字も計算も、学ばせない。
　俺からの情報だけで生きるんだ。
　王族のこいつをさらったのは、俺達だ。
　だけど、お前には真実は話さない。
　盗賊にさらわれたところを、俺達が助けたと信じ込ませ、王族だってことも教えはしない。

　何も知らない。
　知ることができない弱者。
　人を疑わず、自ら学ぼうとしない。
　嘘も誠も人任せだから、利用される。
　お前が弱いままなのが悪いんだ。

　お前はお前の無知のせいで、毒のある、この白い〈雪の涙〉という花を、自分が幸せになれると信じて口にする。
　幸せになるのは、周りであって、お前じゃない。
　人の技術のせいで、遺伝子がおかしくなったこの花は、食べた者に生物を癒す力を与える。周りは癒されるが、食べた分だけ、毒は体内に溜まっていく。

　お前は、誰にも助けられず、使役されるだけされて、死んでいくんだ。

　無知だから。
　生まれたのが、あの国の、そして、王族だったから。
　どうしようもない理由で、苦しめ。

　俺と同じように。
　苦しんだらいい。

　それが、お前の運命。
　自分ではどうしようもない、神から与えられた定めなんだ。