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2〈現在 縁視点〉

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 月の光が部屋に差し込む。
 縁はエニシと一緒に、ソロの町長の家にいた。
 機械部品店の主や、若い男達が、木製のテーブルの前で椅子に座る町長の横に並び、縁達と対峙している。
 町長は縁達が家に入った直後、座るよう声をかけてくれたが、エニシはそれを断った。
 彼は孤をさらわれ、気が立っていた。縁は今にも町長に掴みかかりそうなエニシを警戒した。今は、孤を助けるため、得られるものは、何だって得たい。エニシの機嫌で、邪魔をされたくない。
 僕が冷静でいなければ。
「何度も言うが、我々は奴の居場所など知らん」
 町長がしわがれ声を出す。
「まったくってことはないだろ! あんたらは、あいつを知っていた。そっちの店主は、ご丁寧にも、呪い人って言葉まで使って、紹介してくれたんだぞ。心当たりくらいあるはずだ!」
 エニシがテーブルを拳で叩く。
 町長がじろりと店主を見やる。
 店主は気まずそうに唇を噛み、俯いた。
 町長は深い溜息をついた。
「旅の人、あんた達は、我々にとっちゃ、よそ者だ。これは決して、あんた達を貶す言葉じゃない。よそ者であるとして、あんた達はこの土地の慣習や常識から外され、守られとるということだ」
 エニシは瞳に力を込めたが、口を挟まなかった。
「奴に捕まったご友人のことは、運命だったと思って受け入れ、ここから早々に旅立つことだ」
 エニシの眉が吊り上がる。
 彼が発した声は、町長の低い声にかき消された。
「覚悟はあるのか?」
 エニシは町長の次の言葉を待ち、年配の男はそれに応えた。
「知ることで、あんた達は、よそ者として守られんくなる」
 周囲の男達が息を飲む。
 エニシは姿勢を正した。
「あんたがどう考えているかが分からない以上、あんたの中にある覚悟ってのに判断をくだすことはできない。だが、俺は仲間を……、孤を幸せにするために、生きている。それはどんなことがあっても、覆らない」
 町長が溜息をついたその時、出入り口のドアが開き、一人の武装した青年が入ってきた。
「オーガスト様」
 どこからともなく、誰かがそう言った。
 オーガストという名であろう青年の左目は、包帯で覆われていた。彼は黄色い右目で、エニシと縁を一瞥し、ソロの住民へと視線を送ると、唇をそっと伸ばした。
「彼の決意は固そうですね。あなた方が説明しにくいのであれば、後は俺が譲り受けようと思うのですが、どうでしょう?」
 住民達がざわつく。
 町長は彼らを嗜め、オーガストに頷いた。
「わかりました。彼らのことは、そちらに任せます」
「英断に感謝いたします」
 オーガストは頭を下げると、エニシと縁へと体の向きを変えた。
「では、旅の人、行きましょうか。お話は腰を落ち着けてからにしましょう」
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