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番外編・ホンモノ彼氏

ホンモノ彼氏・その4

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「却下します」

えーと不満げな小林の声。



二人でしょうもない事を言い合ってると、あっという間にマンションに着いた。

セフレの時はお母さんの留守中に上がり込んであんな事もこんな事もしたり、留守中には泊まったというのに、いざホンモノの彼女となってこの家に上がるとなると緊張してきた。

今日は夕方まで帰って来ないって言ってたけど、今後もお付き合いをしていくならできれば気に入られたい。

小林の方はうちの両親からすでに気に入られてる。

うちのお姉ちゃんには本当に付き合う事になったと報告したら
「ホンモノの弟のようにこき使ってやるわー」
とかっかっかと腰に手を当てて笑い、喜んでいた。
うん、本当にしそう。

でも大好きな人たちが仲良くしてくれるのは嬉しかった。


リビングに入ると、あちーと言いながらクーラーをつけてくれた。

私は台所でそのまま手を洗い、早速スーパーの袋から食材を出していると、洗面所で手を洗って来た小林が出てきた。

食材を見て「本当に作れんの?」とワクワクした顔で私の周りをチョロチョロとする。

なんだろう、まるでこのご主人様の足元にまとわりつく大型犬感…。

もしかして作る間ずっと隣で見てる気だろうか。

「座って待っててよ、15分くらいでできるから」

トンカツとご飯は温めるだけだし、出汁は鰹節と昆布が無ければ即席の出汁の素でもいい。

出汁は多目に作ってうどんも作る予定で冷凍のうどんも買った。

シッシッと手で追い払うと小林は「えー」と不服そうだった。

勝手に開けてすみません、と心の中で詫びて
冷蔵庫を開けて、調味料と卵を出す。

卵は見たらうちでよく買う1パック200円ちょっとの平たいやつじゃなくて、『◯◯ファームの卵』というカゴ盛りで売られている値段が倍以上するいい卵だった。

「…」

この値段の卵を食べつけていたら、果たしてうちのオムライスを食べて美味いと言うだろうか。

うちのお母さんは料理上手なんだけど、卵も高い方にしてって言った方がいいだろうか。


鰹節や昆布はなかったけど出汁の素はあったので、とりあえず今日はこれで作ろう。

パタンとその両開きタイプの冷蔵庫の扉を閉めて、いつもうちで作るときは四人分なので、えーと半分か…とブツブツ言ってると、トントンと肩を叩かれた。

まだ隣にいたらしい。

私は呆れて
「だから座って待っててって…」
と振り返ろうとした。

小林が笑顔で両手を広げている。

「向こうで大人しく待ってるから、その前に一回だけギュッてしていい?」

…何、この甘いやつ。

ねぇ、そんなキャラだった?

でもエッチ終わったあとはくっつきたがってたし、彼女の前では意外と甘えん坊キャラなのかもしれない。

友海にもこんな事してたのかな。

いや手は出してないって言ってた。

「———う、うん」

私は両手に醤油とみりんを持ったまま、おずおずと近づいた。

小林が広げていた両手で私を包み込んで、優しく、でもしっかりと抱きしめた。

「———ただいま」

そうだ、会って直接おかえりは言ってなかった。

昨日帰ってきたというメッセージでやりとりした時はスタンプで軽く送ったけど。

「…おかえり」

私も調味料を持ったままだったけど、塞がった手で背中に回して抱きしめ返した。

心が温かくなって、思わず私の頬まで弛んでしまう。

「会いたかった」
小林の声が耳元で心地よく響く。

「うん、私も…」

抱きしめられながら胸のあたりがポワポワ~とゆっくりと温まってくる。

私も小林にずっと会いたかった。

美味しいもの食べたり、教室で楽しい事があると、こんな時小林が隣にいたらいいのに、って思ってた。

楽しかったり、幸せだったりした時に誰かと分かち合いたいとか教えたいと思うのは初めてだった。

「はー、ホンモノ、やばい。いい匂い」

耳元で言われ、帰り道に結構汗かいたから、ビクッとして思わず離れようとした。
が、小林がガッチリ私をホールドしていて離してくれない。

「わ、私、結構汗かいたから…あんまくっつかないでくれる…?」

汗拭きシートはカバンの中にある。
今すぐ取りに行って全身拭きたい。

「全然くさくないよ?むしろいい匂い」

いやぁぁぁ、ちょっと首元でにおいかがないで!

「すげー…夢みたい。向こういる間ずっと会いたかった。すっげーかわいい」

耳元で恥ずかしい言葉を連呼する。

ぎゃあああ、何、何、新しい攻撃タイプ?誉め殺し?

こんな鋭い目の私をかわいいなんて言うの、アンタとうちのお父さんとお姉ちゃんくらいだからね。

目悪いんじゃないって思われるよ?

かろうじて奥二重だけど、目はキツいって自分でも分かってる。

「はー、俺の彼女かわいい」

誰これ。

ギャグにした方がいいんだろうか。

私のツッコミ待ち?

一回ノッて突っ込んだ方がいいやつ?

世の男女は二人きりの時はこんなに甘々なんだろうか。

こんな甘いのじゃなくて、いつもの鬼畜くらいの方がまだ恥ずかしくない。

キャラが違いすぎる。

やはり東京で宇宙人かなんかに攫われて、中身は侵略しようとしているエイリアンとかじゃなかろうか。

侵略したのは地球じゃなくて、私のハートだけどね!ってバカか私は!
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