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彼女&彼Side

彼Side23 もう一つの決心

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———家に帰ると母親が既に帰っていた。

先週出しそびれていた三者面談の日程表のプリントを渡す。

「あ、希望日通りね。じゃあこの日早退するわね」

俺は母親に「それでさ…話があるんだけど」と切り出した。

父親からこの前激怒されてから、ずっと考えていた事。

母さんはすでに離婚していてアイツとは無関係というのに、俺の事で母さんの事を悪く言われるのは嫌だった。

もうここで迷惑をかけられない。

今日佐藤にも事前に言っときたかったんだけど…。

「あのさ…俺、———東京に行こうと思うんだけど」



———三者面談当日。

「…そうですか」
柴村が神妙な顔で俺と母を見比べた。

「急な話なんですけど…」

「いや、僕も事前に小林くんからは相談は受けてて、僕自身も母子家庭で育ったので、他人事には思えなくてですね…。まぁ、成績はいいし進学出来るならしといた方がいいですし、これから大変だろうけどがんばって。で、東京はいつ行くの」

柴村が俺を見た。

「終業式の日です。飛行機の時間があるので途中で早退になると思います」

「そうか…。まぁ三年になってからより、二年の今のうちに決断しといた方がいいかもな。受験に差し支えてもいけないし、慣れるのにも時間かかるし。まぁ、心機一転、ね。あ、学校に提出する書類は東京に行くまでにはお渡ししますね」

トントンと成績表やお知らせなどのプリントをまとめて封筒に入れて俺に渡す。

「ありがとうございました」
母親が隣で頭を下げる。
俺も頭を下げて、教室のドアをガラっと開けた。

挨拶をして廊下に出ると、俺の次の順番である佐藤がすでに廊下の椅子に佐藤のお母さんと座っていた。

心なしか佐藤の様子がおかしかった。

「あら、小林くん」
佐藤のお母さんが俺に気づいた。

そういやあの日佐藤の姉たちにはオレたちの事はバレたが、両親には訂正していなかった。

「あ-----」
俺は母親の方をチラ、と見る。

「順番、小林くんが前だったのね」
にこやかに話しかけてくる。

俺は「こんにちは」と頭を下げた。

母親がキョトンとして俺を見た。

「えー…っと…」

彼氏のフリをする必要はもうないが、佐藤の両親はまだ俺が彼氏だと信じている。

俺は佐藤を見たが、視線を逸らされた。

佐藤のお母さんはにこやかに「はじめまして、佐藤と申します」とうちの母親に頭を下げて挨拶をした。

佐藤も遠慮がちに礼をする。

母親はピンときたらしく「あぁ!佐藤さん!もしかして….あっくんの彼女の?」と俺を見上げて顔を見比べる。

いや、本当は違うんだけど。

佐藤姉が挨拶していたので、母は名前を覚えてたのだろう。

「まぁ先日はお宅でご馳走になったみたいですみません~」

「いえいえ、こちらこそいきなり平日夜にお誘いしてすみませんでした」
母親たちが談笑している。

何この状況。

他のクラスも三者面談が行われているので、廊下で待っている隣のクラスの親子がこちらを見ていた。

いや、ちょっとまずいって。

教室のドアがガラっと開いた。

「次、佐藤さんどうぞー」
なかなか入って来ないので、柴村が中から顔を出した。

「あ、はい。———では失礼致します」
佐藤母はこういうところきちんとしている。

役員とかもやってそう。

佐藤も遠慮がちに会釈をする。

うちの母親も挨拶をして、中に入っていった佐藤親子を見て俺に肘でつついてきた。

「あっくん、しっかりとしたよさげな子じゃない。ああいう子がタイプだったんだ?」

廊下を歩きながら話しているけど、面談中で静まり返った廊下に響く上、隣のクラスの前の廊下を横切る時ものすごく視線を感じた。

「ちょっと声大きい。黙って」
俺は母親に言った。

「へぇ~あっくんがねぇ~」

「学校であっくんてやめてくれる?」

———家に帰ったら東京に行くための荷物の準備しないと。

父には先週、すでに連絡をしていた。

電話ですぐ済む話ではなかった。

ひとまず親子で今後について話し合わないといけないので、母さんには休みを取ってもらい、母さんと自分の東京行きのチケットを手配してもらった。

もう自分で欲しいものも要らないものも選べると思っていた。
17歳は大人なようでまだ子供だ。

———

案の定、翌日再び佐藤と俺が付き合っているという噂が流れた。

多分、昨日の一件だろう。

噂の出処はあの時廊下にいたヤツか。

2回目だからやり過ごす方法も分かった。

ほっとけばしばらくしたらおさまる。

夏休みの間に噂も収まるだろう。

ただ今回も何か他の男子から言われて佐藤が困っていることがあったら助けてほしいと和幸には頼んでいた。

中には調子に乗って悪ふざけしてしつこくするヤツがたまにいる。

和幸は男子の中でも一目置かれている人徳あるやつだから、多少のヤツなら大丈夫。

いつも調子にのってふざけている俺とは違う。

実際には俺は守りたいものも守れない。
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