上 下
48 / 65
彼女&彼Side

彼side22 屋上にて

しおりを挟む
「———お母さんがまた小林くん連れておいでって」

あの衝撃の日から翌週、人目につかないように、二人で屋上にいた。

佐藤の表情が少し柔らかい。

「いや、しばらく遠慮するわ」
佐藤姉の豹変ぶりはトラウマになりそう。

「お姉ちゃんが結婚式にも小林呼ぼうかなって言ってたよ」

行きたくない。
ほんっとに行きたくない。
招待状貰っても行かない。

「…バレちゃったんだけど…ちょっとホッとしてるんだ。まぁ貴典さんがあんな人だったとは知らなかったんだけど…」

あの浮気癖にちょっとはショックを受けてる様子。

まぁ長年の片想いの相手、しかも初体験の相手があれなら衝撃だろう。

「ロリコンで浮気性ってマジできっついわ。佐藤の事、小2の頃から知ってる子があんなにおっぱいデカくなって…って興奮してたよ。これからも気をつけろ」
だいぶ脚色してやった。

佐藤がゾワっと身震いをして自分を抱きしめた。
「ちょっと男性不信になりそう」

そのままあいつの事嫌いになっちゃえばいい。

俺は佐藤に見えないように舌を出した。

「でも…小林の言う通りだった。断らないのは優しさじゃないんだよね…。断らずにどの子にも優しいから実際に浮気性なんだし。…私の為に怒ってくれてありがとう」

佐藤が恥ずかしそうに、でも俺を見て言った。

「…うん」

なんかいい雰囲気じゃないか?これ。

照れ隠しで俺は足を投げ出して、手を後ろについた空を見上げた。

「あれ…カップ、買いに行ってくれたの?」

「…あぁ」

佐藤姉にまんまと騙されたけど。

「ピンク、好きってよく分かったね…」
ちょっと恥ずかしそうに言った。
「あんなかわいいの、ガラじゃないのに」

「そう?」

佐藤なら水色でもピンクでもかわいいけど。

「ま、本人が好きなら周りから何て言われてもいいんじゃない?」

「…うん」

そう、結局は本人が好きならいいのだ。
まわりからどう見られようと。

好きなもの好き。
それを我慢したり遠慮する必要はない。

だって好きでそれを使ったり身につけたり、触れたり、はたまた付き合ったりするのは自分なのだから。

俺は周りからどう見られようと佐藤の事が好きだ。

誰かの物を奪おうとしていたその過ちさえも二人なら乗り越えて、これからの人生にとってプラスに変えていけると思う。

ずっと、そしていつも正しい人間なんていない。

過ちは過ちとして受け止めて、学んで前に進んで行けばいいんだ。

その手を取り合って、お互いに正すべきところは伝えて寄り添って、たまにはどちらかが譲り合って。

佐藤、お前はどう思ってる?


いい雰囲気だったのに、佐藤がいきなり大人しく黙りこんでしまった。

何か悪い事言っただろうか。

…言うなら今だ。

俺は意を決してずっと考えていた事を伝えようと口を開けた。

「佐藤」
「あのね」
二人の言葉が重なる。

「…」
「…」

ちょっとの間見つめ合う。

ずっと考えていた事があった。

父親とのこと。これからの事。進路の事。佐藤との事。

俺が再び口を開きかけた時
「ごめんね。週の内2日も私に付き合ってもらって。もう、いろいろ教えてくれなくても私は大丈夫だから。…今回の事でふっきれた。お姉ちゃんには敵わないしね」
と佐藤が言った。

週2日?
教えるってセックスの話?

「山林が言ってたよ。一年の女子から最近ものすごくモテてるって。可愛い子いるらしいじゃん。あんた、黙ってたらそこそこなんだから、調子乗んないで下ネタ封印しないと」

笑って佐藤が言った。

「…好きな子がいるなら応援するから」

瞬きしたその一瞬、佐藤の瞳が上を向いた。

「———」俺は言葉を失った。

え?ちょっと待ってよ。

今いい感じだっただろ。

何、好きな子って。

大体応援するなんて今の嘘だろ?

何でそんな事言うんだよ。

「戻るね」

サッと立ち上がり、屋上のドアを開ける。

俺は慌ててその後を追った。

「佐藤…!」

階段を降りかけている佐藤を呼んだ時、振り返る佐藤のさらに下の踊り場に、和幸と山林が壁に寄りかかっているのが目に入った。

「…」

佐藤も山林達に気づいて、そのまま山林達の横をすり抜けて階段を降りて行った。

二人が俺を見上げる。

「…」
手すりが冷たく感じる。

「…そろそろホントの事教えてくれてもいんじゃね?」

山林が口を尖らす。

「…」
俺はそのまま何も言えずに階段に座った。

和幸が一段一段とゆっくり上がって来た。

「敦史、佐藤さんと付き合ってる?」

「…付き合ってない」

「いや、だってこの前の事といい…」
山林が言いかけるのを遮って、「でもエッチはしてる」と言った。

二人がビックリして黙った。

「じゃ、じゃあ妊娠してるかもって言ってたのは…」

「妊娠はしてない。佐藤のねーちゃんがつわりで苦しんでるからうつったみたいな感じ。本人も違うって言ってた」

「え。で、付き合ってはないワケ…?」

「付き合って、って俺は言ったよ。でも結局返事はもらってないし、スルーされてる」

二人の許容範囲を超えているのか、何も言わない。

「でも、佐藤ん家行ったりしてたのは…」

「あれはちょっといろいろ事情があって彼氏のフリ頼まれたから、嘘で挨拶に行っただけ。俺は本当の彼氏になりたいけど、佐藤がイヤみたい」

笑ってみたけど、自虐ネタみたいだった。

ハァとため息をつく。

「俺、すげー頑張ってんだけどなぁ…」

ここまで拒まれるともう本当なダメなんじゃないかと思う。

なんであんなに拒否するんだろう。
好きな子がいるなら応援って。
俺が好きなのは佐藤なんだけど。
どうやったら付き合ってくれるんだろう。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

裏切りの代償『美咲と直人の禁断の約束』

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:1

【完結】王太子妃の初恋

恋愛 / 完結 24h.ポイント:227pt お気に入り:2,566

【R18】吐息で狂うアルゴリズム

恋愛 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:102

記憶をなくしたあなたへ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:518pt お気に入り:896

影の王宮

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:134pt お気に入り:502

死相

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

【完結】ひとり焼肉が好きなひと。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:3

赤毛の不人気令嬢は俺様王様に寵愛される!?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:157

天明草子 ~たとえば意知が死ななかったら~

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

処理中です...