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彼女&彼Side

彼Side18 突然の電話

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———だんだん、俺たちの噂や失礼な事を言ってくるやつも減り、前と変わらない日常が戻りつつあった。

あ、いや、前と変わったコトがあった。

モテ期復活。
ものすごくモテるようになった。

今日も山林と学食へと続く廊下を歩いていたら、一年女子から呼び止められた。

クラスマッチのバレーでの活躍と、具合が悪い同じクラスの女子をお姫様だっこで運んだインパクトはすごかったらしい。

「あー、ごめんね。今誰とも付き合う気ないから」
サラッと答えた。
最近はそれが断り文句。

下手に好きな人や他に彼女がいるとか言おうもんなら、誰だと聞かれるので、途中からバイトと塾が忙しくてそんな暇ないと言う理由に変えた。

バイトも最近は週末だけだし、塾も相変わらずオンラインだけど、嘘も方便。

人には嘘が嫌いって言っときながら、自分では簡単に嘘つく。
勝手なもんだ。

断った後、走っていって学食手前で山林に追いついた。

「断っちゃったの?もったいねー、今の子かわいかったじゃん」
「そう?」

さすがに今までの無責任で適当な立ち振る舞が自分に返ってくる羽目になり、今回の事は堪えた。

もうクラスでも率先して目立ったりふざけたりしない。

この前俺がキレてからは誰もいじらない。

女の子好きは最近は封印。

付き合うなんて面倒くさい。

楽しそうに二人でいる友海と和幸を見たら、羨ましくはなるけど。

「あ」
噂をすれば、学食前の廊下にすでに並んでいた友海と和幸。

二人が俺と山林に気づく。

大体この二人はお弁当とかだったりするんだけど、たまにこうやって一緒に学食にいたりする。

チッ。
「ハイハーイ、邪魔邪魔ー」

俺は二人の間をわざと割くように通って、横入りならぬ縦入りする。

「オイ、俺たち並んでたんだけど」
和幸が怒る。

真面目くんはルール守らないヤツがキライらしい。

友海は「いいよ?私メニュー決めるの遅いし」と言って譲ってくれた。

山林と俺が割り込む形で並ぶ。

さっきはムッとしてたのに、彼女の話を聞いて「そう?」なんてデレてる和幸の後ろに回り込んで膝カックンをお見舞いした。

膝から崩れ落ちる。

「オイ、何するんだよ!」

「今イラッとしたわ。デレんな」

和幸が文句を言いかえそうとしてきたのも束の間、「…あ、そういや敦史」と何か言いかけた。

「何」

ポケットに手を突っ込んだまま後ろを見る。

「この前…」

言いかけた和幸の袖を友海が慌てて引っ張った。

「…いや、何でもない」

和幸が口をつぐんだ。

「何。言いかけてやめんなよ、気持ち悪い」

「あ、あそこ空いてる。四人席いけんじゃね?俺、先に席とっとこうか」
山林が指差した。

「オイ、何で四人で一緒に食うんだよ」

俺の言葉に友海が
「あ、私は一緒でも全然いいよ?」
とニコッと微笑んだ。

俺の元カノかわいい。

と思ったら、俺は膝から崩れ落ちた。

後ろに和幸がいた。
膝カックン返しやがった。

「何すんだよ」

「…何か今、邪念があっただろ」

わーわー言い合う。
こんな平凡な毎日。


———教室に戻ると
「オーイ小林ぃ、客ー」
と入り口にいた男子から呼ばれた。

「おっ、二人目?1日で二人告られるって初じゃない?」

山林の言葉に俺は雑誌から顔を上げる。

———行ってみると三年のバレー部の先輩だった。

この前、対戦したバレー部キャプテンの本郷先輩。

「またっすか!」
げんなりして俺は引き返そうとする。

「またとか言うな!わざわざ2年の教室まで来てやってんだぞ」

出た、体育会系特有の、先輩だからって上から発言。

「お前悪いこと言わないからバレー部入れって」

「いや、マジで勘弁してください。毎日忙しいんで。バイトあるから無理っす」

「担任の柴村先生に確認したらバイト許可の届け出では週3になってたけど」

柴村、アイツ…個人情報流出じゃないの?

「二年の今からでも入部したら、来年の春高バレー目指せるから!」

んなわけないでしょ。
もー、こういう熱い人キライ。

「あの跳躍力あって背も高くて勿体ないだろ!何でお前帰宅部なんだよ」

「えー、面倒くさいし、練習嫌いだし、協調性ないからチームプレー無理だし」

次々と挙げて行く俺を無視して
「練習はバイト以外の週4でも全然いいから」と言った。

「…先輩、人の話聞いてました?」

面倒くさいし、協調性ないっつったじゃん。

「今日の放課後、練習あるから体育館まで見に来い」
話通じない。

そのまま戻ろうとすると後ろの襟を捕まえられた。

190以上あるから、まさに首根っこ捕まえられた感じ。 

「ちょっ、離して!絶対にやだ!入らない!」
なんかもうタメ口。

入り口付近で揉めていると「すいません」と声がした。

見ると俺達が邪魔になって入れないのか佐藤が立っている。

「あ、悪い」そう言って先輩が俺の襟をパッと離す。

避けた俺と先輩の間を佐藤がスッと通り過ぎて教室の中に入ってく。

あれ以来、顔を真っ直ぐ見る事もほとんどなかったので、こんな間近で見るのは久しぶりだった。

顔色はだいぶ良くなってる。

体重も見た感じ戻りつつある。

佐藤のねーちゃんのつわりもだいぶ落ち着いて来たんだろうか。

そこまで考えてハッとして、慌てて教室の中に逃げた。

「あっ、オイ!話終わってないぞ!」

さすがに教室の中までは追ってこない。

「すんません、今日は用事ありまーす」

俺は後ろの山林の席まで急いで戻った。

俺の読んでいた雑誌は村山の手の中。
他にも数人男子がいる。

「モテますねぇ、小林くんは」
村山が雑誌から視線を落としたまま、イシシと笑った。

「もう諦めてバレー部入ったら?」
「やだよ」
「…忙しいと嫌な事忘れられるかもよ」
ポツリと村山が言った。

村山はあの後謝って来た。

あの日の出来事を村山が責任感じてるのは分かった。

いつものノリで他のやつらに教室で話しちゃったんだろう。

俺がガチギレた発言も今思えばいつものイジリだ。

過ぎた事なので、今は普通に話す。

それでも申し訳なさそうに村山が見てたりする。
今みたいに山林、和幸も何か言いたげに。

「———あ、そういや三者面談の希望調査表、今日提出だってよ。言いに来てた」

多分言いに来たのは佐藤だろう。

山林が気を遣って佐藤の名前や副委員長が、とは言わない。

「あ、忘れてた」
確かポケットに入れてる。

朝出る時、母親に印鑑もらってきた。

ポケットからクシャクシャになった紙を広げる。

それを除きこんだ堤が
「お前、何で保護者欄のとこの名前違うの?」
と聞いて来た。

別に隠すつもりもない。

「母親は離婚した後旧姓に戻ってるから、俺とは別の名字」

保護者欄には渡邉の名字が書かれて印鑑が押されている。

親権は父親の方だ。

もちろん戸籍も父親の方。

住民票だけ転入のためこちらに移しているが、そういった事情は今までの担任と加藤くらいしか知らない。

親権の譲渡など正式に話し合う間もなく、こっちに来てしまった。

母子家庭というのは多分山林とかも知ってるが、具体的な事を話した事はなかったので、山林の他、雑誌を見ていた村山も手を止めていた。

中学生の時、両親が別れる事になって、結局俺は父といる事を選んだ。

母と暮らしたかったけど金銭面でも不安だったし、長年染み付いた父の学歴至上主義みたいなものが自分の中にもあったので、いまさら有名附属高校の肩書きが外れるのは嫌だった。

そのまま附属高校への進学がエスカレーター式で決まっていたので、環境を変えてやっていける自信もなかった。

そして一年も経たず父は再婚。
新しく継母になった女は当時父の研究室に通う院生で、年齢は父とよりも俺の方が近かった。

離婚の原因にもなった父の浮気相手と喋る気はなかったので、家の中では徹底的に無視をした。

浮気する女性に対しての不信感。

佐藤に対しても奪う側の女性に対しての嫌悪感、というのを少なからず抱えていた。

好きだけど、嫌いっていうのは事実だ。

これで良かったんだ。

佐藤の事を好きな気持ちはあるけど、俺たちは多分うまくいかない。

佐藤も俺と付き合う気なんてない。

これでいいんだ。


———ある日の放課後、学校からの帰り道。見たことない番号からの着信に、不審に思いながらとりあえず出た。

『もしもしぃ?小林くん?』
聞き覚えのある声に思わずスマホを耳から離して、番号を見た。
やはり登録していない番号。
おれ、番号教えたっけ?

再びスマホを耳にあてた。

『…ーし。小林くん?もしもーし』

「…なんすか。どうやって調べたんですか、この番号」

『あっ通じてるんじゃーん。ねっ、元気?』

佐藤姉だった。

電話の声は元気。
やはりつわりは落ちついてるのだろうか。

「…元気ないっすよ。全然」

『えー、そうなのー?大丈夫ー?』
キャキャっと笑う。
大丈夫?とか全然思ってねーだろ。

「だから何で俺の番号知ってるんですか」

『うん、ちょっと人から聞いてね。ところでさぁ、もうマグカップ、のんちゃんにあげちゃった?』

番号を人から?
誰だよ、佐藤から?と思ったけど、矢継ぎ早に喋るので、聞きそびれる。

「いや、あげてません」
それどころじゃないし、渡すつもりもない。

『今度金曜日ね、お家でのんちゃんのお祝いするんだ。小林くんもおいでよ』

「…行きません」

『えっ、なんでよー。渡してないんでしょ!?持って来てサプライズで渡したらいいじゃん!』

「いえ、その日用事あるんで」

『用事って何よ』

「…バイトっす」

『ふぅん…。バイト先って前にのんちゃんから聞いたけど、ガソリンスタンドでしょ。学校の近くって言ってた』

「はぁ、まぁ」

佐藤は聞かれたから話したんだろう。

本当は今平日はバイトは入ってない。土日だけだ。

佐藤姉はちょっと黙った後、
『学校から近いガソリンスタンドなら2軒くらいだね。じゃあ私電話して休めないか交渉してあげる!』
と言ってプツ、と切れた。

マジか、嘘だろ?
あの人何考えてんの?

佐藤姉ならやりかねない。

いや、本当にやる。

慌ててさっきの着信に折り返す。
すぐ繋がった。

「ちょっとお姉さん!」

『はーい。ね、前から思ってたんだけど、ゆめちゃんでいいよ?』

ヒクと引き攣る。

「ゆめ、さん。人のバイト先に勝手に電話するのやめてもらっていいっすか」

『えー、だってのんちゃんのために休み取ろうとしてくんないんだもーん』

俺はため息をついた。
「休みとります。でも、俺が行っても、さ…希望は喜びませんよ」

この期に及んでとっさに下の名前で言い換えてしまった。

まだ彼氏のフリをするつもりか。

『喜ぶって。彼氏でしょ?』

ニセモノですけど。

「…今ケンカ中というか、もうすぐ別れそうです。学校でも喋っていません」

今更付き合っていないとは言えないので、別れる設定にすれば良いとは思っていた。

『大丈夫よぉ、一緒にお祝いして仲直りしよって言ったらいいじゃない』

「俺の話聞いてました?」

『大体、何で喧嘩してんの』

「…」
言葉に詰まる。

喧嘩というか距離を置いているこの状況が、まさか俺の軽はずみな発言を聞かれ、妊娠疑惑で問題になったからだとは言えない。

「…それはちょっと…。強いて言えば俺が悪くて、不甲斐なくて」

『じゃあなおさら来て謝っちゃえばいいじゃん!のんちゃんの機嫌もすぐなおるよ』

「いや、そういう簡単な問題じゃ」

『ほら、乙女心と秋の空って言うでしょー。すぐ気持ちなんて変わりやすいんだから。特に若い子は。お母さんも小林くん来るなら、いいお肉買ってきて焼肉にしようって楽しみにしてるんだから、来てよねっ!じゃ、金曜夕方、学校終わってからね』

一方的に話され、プツ、ツーツーと切れる。

…おいおい、人の話を聞けよ!
俺は金曜の誘いは無視する事に決めた。
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