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彼女&彼Side

彼女Side 21 クラスマッチ 前編

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その後ハチマキが配られたのはクラスマッチ前日。

何故かうちのクラスだけ本数が足りず、後回しになったらしい。

「ギリギリで悪いけど、希望、言ってた例のやつ、お願いできる!?」
弘子が手を合わせる。

消しゴムはんこはあとちょっとで完成。

出来上がれば、油性のスタンプパッドで押していくだけだ。

イニシャルを間違えないためにクラスの名簿も受け取る。

「いいよ、大丈夫」
今日は勉強はひとまずお休みだな。


———結局ハチマキが出来上がったのは明け方。

しかも昨夜から始まった生理のおかげで絶不調。

でも遅れてて心配だったから、ちゃんと来てホント良かった。
実は妊娠でもしてたら笑えない。

いろいろあったから遅れちゃったのかも。
最近あんまり体調も良くなかったし。

今回はいつもより眠いし、頭も痛いし、お腹も痛い。

クラっとするのは生理中で貧血気味なのかな。最近は症状は落ち着いていたので、この感じは久しぶりだった。

今日のクラスマッチ出れるかな…。


寝不足のまま朝、教室に行くと実行委員の村山と弘子は来ていた。

「出来たよ、ハチマキ」
袋から出す。

「うっわ、何コレすげーじゃん!」

村山がハチマキを見て大きな声を上げた。

「かわいい!しばむー犬だあ」

しばむー犬は真ん中ではなく、ズラして横のあたりに来る位置に押した。
そっちのが可愛かったから。

そしてイニシャルは裏にした。
本人が分かればいい。

「いやぁ、意外な才能だなぁ。なんていうんだっけ、こういうの。猿も木から落ちる?あ、違う、弘法も筆の誤り?」

「能ある鷹は爪隠す?」

「あ、それそれそんな感じ」

「村山…あんたホント馬鹿。次も国語欠点になるよ?」

冷めた目で村山を一瞥する。

国語だけなら小林に負けず劣らずクラスで1.2位の私。
村山は文系にいるにも関わらず、山林と最下位1.2位をいつも争っている。

「な、何だよ、うるせーな」
喧嘩になりそうな私たちの間に弘子が割って入る。

「配るのお願いしていい?私たち、この後また準備で集まんないといけないんだよね」

「いいよ」
私は出席番号順に重ねた中から、登校してきたクラスメイトにイニシャルを確認して順に渡していった。

友海と久住くんが一緒に登校してきたので、2人にハイと手渡す。

早速、おずおずと二人で交換していた。

ちょっと。
そういうのは他人が見てないとこでやってよ。

ホント、恋愛の渦中にいる人は周りが見えてない。
まぁ、ちょっと前の私もそうだった。

大体配り終え一息つく。
ちょっと寝不足がこたえてる。

バレーの補欠の子にハチマキを渡す時に、今日体調悪いから、試合を変わってもらってもいいか頼んでみた。

いいよ、と返事をもらってホッとした。

その時教室の後ろの方から村山の声が聞こえた。

「小林、来るのおせーよ」

見たら小林が登校してきていた。

ちゃんと体操服とジャージで来ているので、試合は出るつもりなんだろう。

袋の中の残り少ないハチマキを握りしめる。

小林は早速女子三人から声をかけられている。

なんか女子の笑い声とか聞こえて盛り上がってる。

最近エロは封印してると聞いた。

普通にしてれば女の子から寄ってくる。

ちょっと前まではあの子たちより近くにいて、あんなことやこんなことまでしていたのに、今は話す事すら出来ない。

小林が他の女の子と楽しそうに喋っているのを見ると胸が苦しくなる。

気づかれないように目で追っていると、その後自分の席に座って頬杖をついてトーナメント表を眺め出した。

1人だ。
渡すなら今しかない。

私は近づいて小林の机の前に立った。

私に気づいた小林が顔を上げる。

「…」
目が合うのは久しぶり。

何も言わずに沈黙が流れた。

あぁ、いつから私の心を占める割合がこんなにも大きくなっていたのだろう。

あんなに嫌いだと思ってたのに。

適当かと思ったら実はしっかりしていて、ひどい事ばっか言うと思ったら実は優しくて。

エロいのと女の子好きは変わらないけど。

そんな小林も含めて、好きだなと思った。

「———ハイ、これ小林の」
ハチマキを差し出す。

前に嫌いだと言われたのがこたえてる。

落ち着いて、私。

「…あぁ」
小林が手を出して受け取る。

一緒かすった手からドキドキが伝わるかと思った。

少し怪訝そうに私を見上げる。

お願い、気づかないで。
祈るようにハチマキを見つめる。

「…サンキュ」

小林は受け取ったハチマキをそのまま額に巻いた。

内心ホッとした。

残りのクラスメイトも教室に入って来たので、私はそちらの方に向かった。


———
「ごめんねぇ、薬は出せないのよ」
保健室の先生が言った。
「キツイなら休んで行ってもいいけど」

フラフラするので、寝不足もあるけど、やっぱり久々の貧血かなと思って保健室に来た。

すでに各競技は始まっている。

手足がすぅと冷たくなるのがたまにやってくる。

長時間、体育館やグラウンドで立って応援するのは無理と保健室に来たけど、当たり前だけど貧血の薬なんて出してもらえない。

みんなが頑張ってるのに、1人保健室で横になるのは気が引けて、教室に戻った。

教室の窓からなら、サッカーやソフトボールは観ながら応援はできる。

教室はみんな出払っていた。

グラウンドを見るとサッカーの試合中だった。

端の方に同じクラスの女子が固まっているので、今やってるアレがうちのクラスだ。
時間的に二回戦みたいだった。

たくさんの生徒がいる中、小林はすぐに分かった。

あの茶髪を目で追ってしまう。

トーナメント表を見るとすでに卓球とバレー、サッカーの一回戦を終えている。

3競技して、まだあんなに動けるなんて本当タフだな…。

誰かが黒板に書いた表に、勝ち進んだ競技を赤い色でなぞってくれていた。

卓球は負けたらしい。
女子バレーも。
出れなかったから申し訳ない。

見たら女子は全滅だった。


ホイッスルの音が響き渡る。
視線をグラウンドに戻した。

試合終了だ。

見たら小林がグラウンドに寝転がってる。

倒れたのかと思い窓の桟に慌てて手をかけた。
山林から手を引っ張って起こされていたので、試合終了と同時にしんどくて寝転がってただけらしい。

ホッとした。

クラスメイトの様子からは負けたみたいだった。

小林が上を見上げたので、瞬時に頭を引っ込めた。

教室からずっと見ていたなんてバレたくない…。


「あ、希望、大丈夫?」
友海の声が聞こえて振り返った。

他の女子と一緒に教室に入ってくる。

「ごめんねぇ、負けちゃったよぉ」
同じバレーのクラスメイトが言った。

「ううん、私こそ出れなくてごめん…」

「顔色悪いね?やっぱり早退したら?」

私はゆっくり首を振った。

「帰っても一日試合の行方気になっちゃうし…教室で休みながら応援行ける時は行く」

「そう…。今から男子バレー二回戦らしいけど…どうする?行く?」

バレーにも小林が出る。
でも観ながら立っていられるか分からない。

私は首を振った。



———その後は机に顔を突っ伏して寝て過ごした。

教室には私一人。

少し休んでると大丈夫かなと思うけど、立ち上がるとクラクラする。

その後戻ってきたクラスメイトから、男子のバレーは二回戦も勝ったと聞いた。

黒板を見たら赤い線が伸びているのは男子バレーのみ。

うちのクラスにバレー部の男子はいない。

さすがに次で負けるだろうな。

私はため息をついた。
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