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彼side

6 彼女の誠意 ※

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「———やっぱ2組の高橋だよな~!」

体育が終わって着替える時間、更衣室で山林がデカイ声で言った。

近くにいて充分聞こえるのにいつも声がでかい。

隣にいた村山が「何が?」と言って体操服を脱いだ。

「おっぱいだよ、おっぱい。デカイやつ」

はっきり言って山林はアホだ。

今まで仲良くなったやつの中で一番頭悪いと思う。

でもこっちに来て一番最初に仲良くなった。

佐藤同様、山林のハッキリとした分かりやすいところも好きだ。

「デカさで言うなら5組の石川だろ~」

近くにいた堤が話に加わる。

「小林は?」

話を振られた俺はシャツのボタンを閉めながら、佐藤のおっぱいを思い浮かべた。

さすがに名前は出せない。

学校での天敵扱いは変わらないし。

「デカさより形だろ。あと感度」
とだけ答えた。

「あー、ね!」

周りにいる数人が、頷く。

その中の一人が
「形で言えば、うちのクラスの副委員長、意外とおっぱいきれいじゃね?」
と言い出した。

きれいじゃね?じゃなくて実際きれいなんだよ。

そう思ったけど無言を貫く。

村山が笑い飛ばした。

「いやいや、ないだろ~!あいつは!なんか鉄のブラジャーつけてそうじゃね!?」

「あいつ飄々としてんもんな。絶対感度悪いって」

クラスの男子がゲラゲラ笑うのを聞きながら俺は着替え終えた。

バッカだなぁ、こいつら。

佐藤はめちゃくちゃ形もきれいで感度バツグンなんだよ。

でもそれは俺だけしか知らない。

あ、違うか。

知ってるのは俺と初めての相手だけ。

どっかのネットから拾ってきたテクニックも身につけて、ものすごいご奉仕をしてきたりする。

あんな声で鳴いて、弱いところ責めたらどうなるのかなんてみんな知らない。

知らなくていい。

俺だけに見せてくれたらいい。

学校ではあんな涼しげな顔して、俺の前では恥ずかしいカッコで泣きながらイっているなんて俺の脳内の記憶だけで充分。

もうすでに何回もリプレイしてるけど。

ヤバい、今までの事を思い出してたら勃ちそう。

教室に戻ると、後ろの席の佐藤が仏頂面で俺と山林に向かって手を出した。

学校で絡んでくるなんて珍しい。
と思ったら。

「アンケート、早くだしてよ」

何だよ。また提出物か。

いや、俺も学級委員だから集めないといけないんだけど、先に佐藤が大体一人でやってたりする。

最初の頃に適当にサボったりしてたら、アテにされず佐藤が一人でやってしまってる事が多かった。

「体育から戻ってくるの遅すぎ。出してないのアンタたちだけだから」

ものすごく冷たい目で睨まれる。

何?この前のかわいいアレからのこの厳しい対応。

ギャップすごすぎ。

だけど、こっちがデフォか。

本当に同一人物なんだろうか。

教室では笑ったりする顔をあまり見たことがない。

俺の部屋で二人の時は、特に最近は笑ったり泣いたり感じたり恥ずかしがったり表情がくるくる変わる。

あのままでいたらいいのに、と思う反面そのままでいて誰も知らなくていいとも思う。

「ほら、早く」

大体何でこんなに遅いのよ、と舌打ちされたので、俺は椅子に座って机の中からアンケートを出した後山林を指差した。

「こいつがおっぱいデカい女子の話とかしてるから遅くなったんだよ」

「うわ、小林言うなよ!」

周りの女子から「山林、いっぺん死んでこい」と罵られる。

佐藤もさらに冷ややかな目。

「俺だけじゃねーって!コイツ!コイツはデカさよりも形と感度が大事とか言ってましたー!」

山林が座っている俺の肩に手を回し、指さして告げ口する小学生のように言った。

「離せよ」

山林の手を払って佐藤を見ると若干赤くなっている。

あれ、ちょっと仮面外れかけてんじゃない?

俺はニヤっと笑って、その机にずいっと肘を乗せた。

学校では絡むの禁止って言われてるけど、調子に乗ってみた。

「佐藤もデカさより形と感度だと思わね?」

「!」

赤くなった佐藤が「知るか!」と、机の上に置いていた教科書で俺の額を思い切り叩いた。

ものすごい音と衝撃がした。

目の前にチカチカ星が飛ぶ。

「…っ」

叩かれた額を抑える。

角が当たってマジで痛い。

今殴られた?

普通物で殴るか?

「今すげー音したぞ」

「副委員長、暴力はんたーい!」

山林や他の男子が言ったら、周りの女子たちが
「アンタたちがエロい事ばっか言うからでしょ!」
とやいやい言ってきた。

「エロ林コンビ!」

「うっせえな、お前らのおっぱいなんか眼中にないわ!」

山林が吠えたその言葉に、近くの女子から責められていた。

俯いて額を抑えたまま微動だにしない俺に佐藤が心配になったのか顔を覗きこんだ。

「…ちょっと大丈夫?」

いや、大丈夫じゃない。

俺の心まで殴られた感じ。

俺の部屋ではあんなにかわいいのに、なんで教室ではこうも酷い対応なんだ。

次の瞬間、額を押さえたまま、ガシッと佐藤の手首を掴んだ。

「!」

「…佐藤さん、物で人を叩いちゃいけませんって小さい頃習いませんでした?」

恨めしそうに言ってみる。

ホント殴るし、この前は終わってお風呂から上がったらいないってどんだけ俺の扱いひどいの。

「ちょっと離してよ」

離すか。

ふり解こうとする佐藤と掴んで離さない俺の攻防を見て、三人の女子たちから囲まれていた山林が楽しそうに囃し立てた。

「佐藤!気をつけろー!小林は触っただけで妊娠させっぞ」

させるかバカ。

ちゃんと避妊しとるわ。

周りで見ていた男子も
「小林は手から精子出すから気をつけろー」
と揶揄う。

出すかバカ。

いや。逆に出してみたい。

「えっ、ちょっ!」

ギョッとして佐藤が振り払おうとする。

ちょっと。

ゴム着けてるとはいえ俺のを入れたりしてんのに、手握るのを拒否るってひどくない?

「ちょっと小林、希望を離しなさいよ~!」

「コラ~!」

女子たちの攻撃の矛先が山林から俺に向く。

俺は佐藤の腕を掴んだまま、額を抑えていた反対の手を女子たちに向けて
「うるせーな、片っ端から妊娠させるぞ」
と大声で言った。

今なら出せそうな気がする。

この手からいろんなものを。

きゃー!と女子が逃げる。

「オイ小林」

入り口から声がした。

わーわー言っていたみんながピタ、と止まる。

「片っ端から何させるって?」

振り返ると、すでに本鈴が鳴っていたのか四時間目の授業の担当の保健体育の加藤が苦虫を噛み潰したような顔で立っていた。

「後で昼休み指導室ね」

「…」

マジか。

「小林く~ん、言葉には気をつけようね~」

ニヤニヤ笑いながら、山林が俺の肩をポンと叩いて席に着いて行った。

…あいつ、マジでぶっ殺す!



「———お前なぁ…今年、指導室に来たの何回目だ」

生徒指導の加藤が腕組みをして渋い顔をしたまま、ハァとため息をついた。

ちゃんと数えてるので覚えてる。

1回目の指導は遅刻が通算5回目になった時。

2回目はめちゃくちゃ厳しい先生の授業で寝てしまって結局起きられなかった時。

運悪くちょうど担当の先生の機嫌が悪くて、たったの一回の居眠りで呼び出された。

3回目はこの前の靴下違反。

で、今日ので4回目。

まだ5月というのに。

「こんな短期間で呼び出されるの、この学年で新記録だからな。校内でも校外でも言葉には気をつけて、節度ある高校生らしい言動をしなさい」

「へーい」

とりあえず返事はしとこ。

「…お前、反省文書かせるぞ」

「はい、すみません!」

頭を下げた。

加藤は怖いけど、転入の時にバイトの申請許可を学年会議でかけあってくれて、転入の事情や転入前の学校の事など知ってる数少ない教諭。

俺も体育は得意だし、嫌いではなかった。

前の学校の先生より人情味溢れる先生だ。

「はぁ…お前は成績だけはいいんだから、もう少し真面目にして、生活態度を改めなさい」

「ハイ!」

とりあえず元気よく返事しとく。

「…ま、でも学校にも馴染んでるようで安心した。バイトも続いてるんだろ?」

「はい」

「そうか。あんま無理するなよ」

加藤は休日たまにバイト先にガソリンを入れに来る。

こんなコワモテなのに助手席の奥さんはめっちゃ美人で、ビビった。

からかうとその極道みたいな顔がだらしなく緩んだのは他のクラスのヤツらには黙っててやった。

だって威厳がなくなっちゃうよね?

学校ではいかつい顔なのに奥さんに「まーくん」って呼ばれてデレてるなんて。

「ま、なんかあったら言って来いよ。今日はもう行っていいぞ」

今回は口頭注意だけで済んでホッとした。

教室に戻ると男子からは無傷で帰って来たので英雄扱いをされた。

大人の懐への入り方は心得ている。

女子の方はというと、半数くらいは笑っておかえりーと言ってくれたが、残り半分の大人しいグループの女子からはめっちゃ引かれた。

そりゃそうだろう、片っ端から妊娠させちゃうんだから。

俺の新しいあだ名に
「手から精子を出す男」
が加わった。

エイリアンかよ。



「———ホラ、見てここ」

俺は前髪を上げて、おでこを見せた。

うっすら赤く線がついている。

「角があたったの。酷くない?」

「…」

黙っていた佐藤に俺は同じ事を言った。

これで三回目。

佐藤がしびれを切らしたように
「…だから、私が悪かったわよ!」
と怒鳴った。

「そんなんじゃ誠意が伝わんないなぁ」


放課後佐藤にメッセージを送ったら無視されたので、しつこくメッセージを送った。

まだ帰っていなかった彼女はふて腐れた顔でうちに来た。

額を教科書で叩かれ、指導室に呼ばれた挙句、女子半分から嫌われ、変なあだ名までつけられた散々な1日。

「アンタが変な事言うからでしょ」

俺の片っ端から妊娠させる発言は、しばらく男子の間で流行りそうだった。

すでに伝説は隣のクラスまで駆け抜けた。

今の時期から流行らせとけば、今年の流行語大賞は狙えるくらいの勢いだ。

「ねぇ誠意は?」

俺はベッドに肘をついた状態で佐藤を見た。

渋々といった感じで佐藤が俺を見る。

「…何よ」

「キスしてい?」

「イヤ」
即答。

単に嫌がる佐藤に対しての嫌がらせと思われてる。

いや、俺は本当にその唇にしたいんだけど。

やっぱ無理か。

「じゃああそこ舐めていい?」

さすがにこれは嫌がるだろう。

困る顔も嫌がる顔も見たい。

「えっ、やだ」

そのゲスを見るような目もいい。

「じゃあどっちか選んで」

突然の二択でとっさに判断が出来ないうちにたたみかけて選ばせる。

交渉はうまくやらないと。

さすがにそこはキスだろ。

万が一あそこを舐められる方選んだら、それならとことん嫌がる事してやるけど。

「…」

佐藤は渋々後者を選んだ。

まさかのそっちかよ!

俺は頭を抱えた。

佐藤はたまに基準がおかしい。

いやいや、どう考えてもキスでしょ。

俺の精液飲めるのにキスしたがらないって。

俺の唾液は精液以下か。

どうなってんの、この子の頭の中。

そんなにヤなの?俺とキスすんの。

ため息をついたあと、気をとり直してパンツを脱がして足を開かせる。

もうこうなったらやってやる。

「やっ、ちょっと待って」

「いいって言ったじゃん」

膝を折り畳んで持ち上げたまま彼女のあそこを舐める。

ビクンと膝が揺れる。

しばらく抵抗していたが、すぐに大人しくなる。

恥ずかしいのか目をぎゅっとつぶって耐えている。

敏感な突起が現れるように少し手で持ち上げて、優しく下から舐め上げる。

すぐに蜜が溢れてくる。

こんな明るい部屋で、制服のスカートめくって足を広げて、恥辱に耐えている姿を見下ろす。

「すげーエロい」

たまに最近Sのスイッチが入るのが自分でも分かる。

自分で足を持たせて開かせると、自ら進んで足を開いてるかのようだ。

あそこを舐めながら指をつぷ、と入れる。

「あ…」

外と中を両方同時に責めると、腰が揺れる。

なんかどんどんエロくなるな。

どこまでいくんだろう…。

ひととおり指でかき混ぜると、泡が立つんじゃないかってくらいにトロトロになる。

「…」

ゆっくり指を抜いて、佐藤に見えるように自分で指を舐めた。

「…佐藤の味がする」

「やだ、変な事言わないで」

「本当だって」

その指を佐藤の口元に持ってった。

「…」

恐る恐るパク、と俺の中指を咥える。

指をゆっくり口内に出し入れすると、佐藤の舌が絡み付いてきた。

ホント猫みたい。

キスはしないけど、俺が舐めた指は舐めるんだ。

何それ。

しかも自分の中に入れられたものを。

理解不能。

キスよりすごいハードル高いでしょ。

佐藤はやっぱり基準がおかしい。

おかしすぎて、俺がどうにかなりそう。

指先を舌が回って吸われる。

ゾクゾク、とした。

指も性感帯なんだと知った。

「…私もしていい…?」

トロンとした目で見上げて、俺の返事を聞く前にズボンのチャックをおろす。

すでに硬くなっていたモノが顔を出すと、頭を屈めて口いっぱいに頬張った。

「…!」

とんでもない快感が身体中を突き抜ける。

ほんと上手。

正しくは上手になった、だ。

今考えると最初の頃はまだぎこちなかった。

なんなんだ。

今までした子の誰よりも奥ゆかしい感じなのにエッチで大胆で、でも全然なびかない。

どんな試験問題よりも攻略ゲームよりも難しい。

快感に耐えていると、佐藤が口から離して俺を見上げた。

「…ねぇ上手?気持ちいい?」

見上げる瞳の奥に熱がこもる。

なぁ、佐藤。

こんな行為、もはや本当に好きな相手としか出来ないんじゃないの。

少なくとも俺はそうだ。

こんなに自分を曝け出して、相手を隅の隅から暴いて、それでも足りなくてさらに奥まで見たいと思う。

佐藤は違うのか。

好きなヤツのために、好きでもないヤツとここまで出来るもんなのか。

わかんねぇよ。

分かりやすいところがいいと思ったのに、分からない事だらけのところに惹かれていく。

『教えて』と佐藤は言った。

上手くなりたい、と。

ひざまづく佐藤を見つめる。

「…まあまあ」

ハァと息をつくのが精一杯だった。

上手くなったらそいつとやるんだろ?

だったら十分うまいけど、うまいって言ってやらない。

俺は黙ってゴムを着けると、佐藤の中に入った。

温かい。ずっとこのままでいたい。

いやらしく鳴く声を誰にも聞かせたくない。

こんな可愛い顔を誰にも見せたくない。

誰にも渡さず、ずっと自分の物にしておきたい。



「——小林ってねちっこいよね」

ひどい。何だそれ。

終わった後に言うか。

ベッドの上で片肘をついて、頭を支えた状態で佐藤を見た。

最近は終わった後も二人で裸でゴロゴロする時間が増えた。

くっついていても前ほど嫌がられない。

野良猫に餌をあげ続けて、ようやくなつき始めた感じか。

「ねちっこいって表現どうなの。情熱的と言って」

初めの時は二回目だって聞いたから、優しくして、たくさん濡らさないと痛いと思って時間をかけた。

丁寧に気をつけながら触った。

その後からは…まぁ、なんかいろいろやってるからか。

「情熱的って言うか…長い」

それは褒められてるのか、そんなに気持ちよくないのに長いというクレームか。

「いや、気持ちいんだよ?でも、よく持つよね。そんなもん?」

入れてからの話か。

ホッとした。

「さぁ、どんなもんだろ。比べた事ないからね。初めての相手は短かった?」

持久力だけでも勝っときたい。

「よく覚えてなかったけど、家族が帰って来る前に、ってバタバタ…」

そこまで言いかけて佐藤がハッとしたように黙った。

家族が帰ってくる前に?

家でやったって事?

家に連れてくなんて、もしかしてちゃんと付き合ってる?

俺の視線に気づいたのか、
「ま、まぁ覚えてないくらいに早く済ませちゃって…だから小林とし出して、なんかまるで長時間マッサージを受けてるかのような」
と口籠った。

とりあえず褒めてはもらってるらしい。

エロマッサージ扱いだけどね。

「すぐいかないように努力はしてるけど。入れてる最中は頭から煩悩を捨てて」

気分は修行僧。

「へぇ、煩悩捨てて何考えてんの。無?」

「…円周率唱えてる」

素直に答えた。

快感に身を任せると多分すぐイッてしまう。

こっちは冷静になれるように必死だってのに。

「えっ、嘘だぁ」

ケラケラと笑う。

いや、ホント。

佐藤を喜ばせようと。
そして少しでも佐藤の中に居たいから。

円周率が佐藤のツボにハマったらしい。

「いやー、これから入れられてる時コイツ今唱えてんだなーって思うわ」

お腹を抱える。

これからって言うってことは、今後もあるって事だよな。

「毎回一緒に言ったげようか?」

「なんか、カウントダウンされてるみたいでやだよ」

勝手に付き合ってないと思っていたが、家に連れて行くということは親が不在の時とはいえ、親公認なんだろうか。

27歳会社員が?

ますます分からない。

初体験のあと、相手にしてもらえないって言ってた。

振り向かせたい、とも。

勝手に佐藤の片想いだと思っていた。

付き合ってるけど、一回目やった後に未成年淫行が怖くて手を出してないとか?

つーか、そもそもどこで知り合ったの。

そんなエリート会社員と。

マッチングアプリ?まさか。

佐藤の横顔を見ながら、結局聞けなかった。

謎すぎる。


———終わって、いつも明るい時間なら俺のマンションの下まで送ってバイバイする。

今日は暗くなりかけていたので、危ないから駅まで送ると言った。

「大丈夫。って言うか、学校の前通るから一緒のところ誰かに見られたらやだ」

俺は全然平気。

何なら付き合ってると誤解されてもいい。

何で学校でもあんなに他人のフリして隠すのか分からない。

まっ、現状セックスしてるだけだからみんなにはセフレですとは言えないか。


———佐藤が家に無事に着いたか心配で、帰り着いた頃を見計らいメッセージを送った。

『着いた?』

あんまり長い文章だと、粘着質に思われるから簡潔に。

今日もねちっこいと言われたから気をつける。

返信がない。

遅くね?大丈夫か?

やっぱり送って行けば良かった。

ピロン♩という着信があったので、見ると勤務中の母から今月のシフトの連絡だった。

今月は他に職場の慰安旅行もあるらしい。

母は今の職場に新しい恋人がいる。

こっちに来る時会った事あるけど、別れた父と違って優しそうな人だった。

寂しくもあったけどホッとした。

もうすぐ2人で住む予定だったのに、俺がこっちに来る事になったから、暮らす予定だったマンションに俺と母が住む事になり、その人はそのまま賃貸に一人で住んでいる。

とりあえず俺が高校卒業するまで。

大学からは一人暮らししようと思っている。

そのつもりだから、バイトも結構入れてる。

小さい頃は普通の家庭と思ってたけど、今思えば母は父から酷い扱いを受けていた。

結果的に俺が中学の時離婚して母は出て行ったけど、今度は幸せになってほしい。

母に了解、と送って時計を見る。

20時半を過ぎている。

佐藤…遅いな。
どこか途中で何かに巻き込まれてない?

単に充電切れてるとか?

21時を過ぎたら電話しようかと思っていたら、21時の5分前に佐藤から連絡が来た。

『着いてる。お風呂入ってた』

ホッとした。

スタンプも何もない。

シンプルなのが、アッサリした佐藤らしい。

『了解。返信ないから心配してた』

素直に送る。

なんかこうした日々の他愛もないやり取り、彼氏彼女みたいだな。

ほのぼのした気持ちに浸っていたのに、しばらくして
『気持ちわる』
と返ってきた。

気持ちわる、って。

心配してたのに、ひどくないか?アイツ。

悔しいから、絶対佐藤の前では態度には出さない。

俺からは好きって言わない。

俺無しじゃ居られないような身体にして、いつか佐藤から好きと言わせてみせる。

俺は
『泣かすぞ、コラ』
と打って、ヤンキーがガンつけてるイラストの好きなアニメのスタンプを送った。

今度、ベッドの上で絶対に泣かせよう。
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