上 下
29 / 50
第2章

26話

しおりを挟む
 書類は明日からの護衛日程と注意点ね。
 アルベリアからの使者の不穏な動きを見かけたら、すぐに報告を、だと?    何かあるの?

「お父様、ニコラスは明日から第二王子の身辺警護だったんです。アルベリアとの外交がからんでるでしょ?    大丈夫ですかね?」

 私は書類をお父様の前に広げ『不穏な動き』という文字を指差しながら話し続けた。

「ウチの国はアルベリアとはあまり仲良い関係ではないですよね?   向こうは好戦的な国の体質だと聞いてますけれど」

 んー、と唸りながらその書類を受け取り、眉をひそめながら話す。

「あまり大丈夫とも言えんな。向こうの情勢がきな臭くなって来てる。また昔のように、どっかの小役人に賄賂を掴ませて、こちらの内乱を煽りそうな感じ……って何でニコルが聞いてるんだっ。お前には関係ないからっ」

 ふ~ん、ジェイクが王宮に戻るのもこれが理由だよね、たぶん。
 ってことは……

 第二王子に引っ付いていれば、アルベリアの内情とか使者の顔覚えるよねえ。もしかしたら、貴族の裏取引きとか探れちゃったりするねぇ。これって私の出番あるんじゃない?

「お父様、私、ニコラスの代わりに第二王子の身辺警護につきますよ。怪しい動きを通報するだけですよね?    公式の場で怪しい動きなんかする人なんて滅多にいないですから、私はお飾りで立ってますよ」

 その言葉を受け、お父様はギョッと目を剥き、ブンブン首を横に振りながら「絶対にダメだっ、余計なことに手をだすな」と全力拒否をする。なんて失礼な。

「やっぱりダメですか?     わかりました、仕方ないですね。ニコラスの休暇申請は私が届けておきますよ」
「ああ、私はエリン公国の視察が入っているから、しばらく連絡がとれん。何かあったらミレーユに連絡を入れなさい。今はスラー伯爵夫人と温泉巡りのはずだ」

 出張の支度をしたらすぐ出かけるそうだ。
 少し待ってお父様を送り出すため、再び玄関へと顔をだす。

 ニッコリ笑って「行ってらっしゃい」と明るく手を振って送り出した。パタンと扉を閉めた途端、私は嬉し過ぎて大きな声を上げてしまった。

「やったあ、行ってらっしゃい、お父様。申請は明日、私が一日だけ警護のお仕事させてもらった後に出してくるわ。たっのしみ~」

 あ、でも制服をどうするかなぁ。きっとニコラスのを借りてもダブダブで違和感あるよねぇ。

「ニコルお嬢様、近衛の制服は前回、第六騎士団の制服と一緒に、ニコル様専用のものをお作りしておりますのでご安心ください。ウイッグも、今回は、すぐには外れないよう、バージョンアップしております。名付けて『ニコラスヘア二号』」

 小躍りしている私の横から、サーラがツツツと側に寄ってきて、かしこまった風に腰を折る。
 何事かと振り返ると、明日の変装準備について、待ってましたとばかりに流暢な説明をし始めた。

 目の前に出された制服とウイッグに、思わずタジタジっとしてしまった。
 しかしなぁ、『ニコラスヘア二号』って……まんまやないかい。
 前回ウイッグが簡単に外れたのがよほど不納得だったのか、何点かの改良を加えたことを、こと細やかに説明してくれた。

 もう、私がいつニコラスに変装しても全然動揺しないみたい。というより、早く変装して欲しかったように思うんだが。まあ、それは気のせいだとして。さすがサーラよね、だてにお母様とタッグを組んでるワケじゃないのね。

 今回は一日だけだし、ジェイクと鉢合わせにならなければ、絶対にバレない自信がある。
 私はニコラスの書類をもう一度読み、明日の日程を頭に叩き込みながら、気を引き締めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

【完結】欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

処理中です...