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世界編
118の2.詰み!
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「ごめん、私が彼女に引導渡すから。恨み言は後でたっぷり聞くわ」
ホントは恨み言聞く前に、めいっぱい詰られてサヨナラするんだろうけどね。
ヤバ……考えてたら涙が出てきた。でも絶対泣き顔なんてしない。気持ちが弱くなるから。
落ちていた短剣を拾い上げると、私はシャドウへ向けてそれをグッと構え直した。
一撃で仕留められる場所は知っている。ルディとレイニーさんから嫌っていうほど叩き込まれたもの。
あの時、なんで私がそんな練習しなきゃいけないのって不満たらたらだった。だって人の急所を狙うことなんて、日本じゃ考えられない出来事だったから。
でも、今ならこの練習が無駄なことではなかったんだ、と実感している。二人とも本当にありがとう、あなたたちの教えは無駄にしないわ。
ひざを軽く曲げ、短剣を相手の急所に向けてから、呼吸を整える。
さあ、足を動かして!
急所に上手く短剣が吸い込まれていく様子が見えた……というのは私の頭の中で描いたシミュレーションであって、実際には自分の足は一ミリたりとも動いていなかった。
ダメ……怖くて足が動かない……
心臓の音が痛いほど響き、浅い呼吸を何度も繰り返す。
落ち着いて確実に仕留めなければ。
あとどれだけ時間が残されているのかわからないのに、こんな大事なところでビビってどうするの。
その時、彼女がケモノじみた咆哮を放った。
ハッとして彼女を見つめると、体をダランと弛緩させ俯き、そこからユラリと顔をあげて頭を軽く振った。ニヤリと歪んだ表情は、もう理性のある人の顔つきではなくなっていた。
同時にシャドウの中から黒い霧のようなものがいくつも飛び出して、シュンシュンと風切り音を放っている。
『ハ、ハハ。やっと大人しくなったか。この私を押さこもうなど百年、いや千年早いわ。全くこの女も余計なことをしてくれたものだ。ククッ、その分、絶望や恐怖が少しは増えたか?』
マズい、マズいよ、これ。
私が変なところでビビっちゃったモンだから、みすみすチャンスを逃したのかも……
『おい、女。その短剣は私に向けているようだが? なぁに、遠慮はいらないよ、思いっきり刺してくればいい』
シャドウは両手を広げて迎えいれるような態勢をして立っている。
『刺せないだろう? 君が大事に思っている人が大切にしている人、つまりは彼の母だ。それを刺せるわけがないよなあ? フフ、君の負け。ゲームオーバーだ』
余裕の表情、しかも嘲りを含む顔つきで喋られると、ムカついて地団駄を踏みたくなる。
シャドウは気を良くしたのか、黒い霧を一族の連中にけしかけて、自分に向かってくる相手の足どめを図る。
全てが自分の思い通りに展開してるようで、ニヤニヤ嗤いながらこちらに近づいてくると、とうとう私の握っていた短剣をゆっくりと奪いとってしまった。
逆にその短剣をノドにピタリと当てられて、身動きすら取れなくなってしまう始末。
詰んだ……頭の中には最早真っ暗な未来しか見えなくなった。
「やめ、ろ。彼女に、手をだすな……」
弱々しい声でラッセルが制止してるのが聞こえる。ずっと下を向いたままの剣先が、ようやく持ち上がり始めた。彼はしっかりと構えたのだが、私が危険に晒されているために、やはり身動きが取れないようだ。
『おお? 可愛い息子よ。何をムキになっている? なんども言っているがこの女は異物なんだろう? 私に引導を渡すと言っていたが、逆に私がこの女に引導を渡してやろう。エーデル、君が手を下さずともこの女は消える』
「ダメだ。彼女は……」
『おいおい、虫が良すぎると思わないか? 私、いや、君の母親とでも言おうか、を殺すのもダメ、この女を殺すのもダメ。それじゃあ取引きできないなあ。どっちかを道連れなら私は消えると言っているのに』
シャドウは余裕の笑みを見せながら、ラッセルに交渉を持ちかける。
『そうだ、ならば私にその命、エーデルの命を預けてくれるかな? 君の体と魔力を貸してくれれば、彼女たち二人ともを残してあげよう。それに……この世界をもっと刺激的なものにしてあげられるよ?』
ホントは恨み言聞く前に、めいっぱい詰られてサヨナラするんだろうけどね。
ヤバ……考えてたら涙が出てきた。でも絶対泣き顔なんてしない。気持ちが弱くなるから。
落ちていた短剣を拾い上げると、私はシャドウへ向けてそれをグッと構え直した。
一撃で仕留められる場所は知っている。ルディとレイニーさんから嫌っていうほど叩き込まれたもの。
あの時、なんで私がそんな練習しなきゃいけないのって不満たらたらだった。だって人の急所を狙うことなんて、日本じゃ考えられない出来事だったから。
でも、今ならこの練習が無駄なことではなかったんだ、と実感している。二人とも本当にありがとう、あなたたちの教えは無駄にしないわ。
ひざを軽く曲げ、短剣を相手の急所に向けてから、呼吸を整える。
さあ、足を動かして!
急所に上手く短剣が吸い込まれていく様子が見えた……というのは私の頭の中で描いたシミュレーションであって、実際には自分の足は一ミリたりとも動いていなかった。
ダメ……怖くて足が動かない……
心臓の音が痛いほど響き、浅い呼吸を何度も繰り返す。
落ち着いて確実に仕留めなければ。
あとどれだけ時間が残されているのかわからないのに、こんな大事なところでビビってどうするの。
その時、彼女がケモノじみた咆哮を放った。
ハッとして彼女を見つめると、体をダランと弛緩させ俯き、そこからユラリと顔をあげて頭を軽く振った。ニヤリと歪んだ表情は、もう理性のある人の顔つきではなくなっていた。
同時にシャドウの中から黒い霧のようなものがいくつも飛び出して、シュンシュンと風切り音を放っている。
『ハ、ハハ。やっと大人しくなったか。この私を押さこもうなど百年、いや千年早いわ。全くこの女も余計なことをしてくれたものだ。ククッ、その分、絶望や恐怖が少しは増えたか?』
マズい、マズいよ、これ。
私が変なところでビビっちゃったモンだから、みすみすチャンスを逃したのかも……
『おい、女。その短剣は私に向けているようだが? なぁに、遠慮はいらないよ、思いっきり刺してくればいい』
シャドウは両手を広げて迎えいれるような態勢をして立っている。
『刺せないだろう? 君が大事に思っている人が大切にしている人、つまりは彼の母だ。それを刺せるわけがないよなあ? フフ、君の負け。ゲームオーバーだ』
余裕の表情、しかも嘲りを含む顔つきで喋られると、ムカついて地団駄を踏みたくなる。
シャドウは気を良くしたのか、黒い霧を一族の連中にけしかけて、自分に向かってくる相手の足どめを図る。
全てが自分の思い通りに展開してるようで、ニヤニヤ嗤いながらこちらに近づいてくると、とうとう私の握っていた短剣をゆっくりと奪いとってしまった。
逆にその短剣をノドにピタリと当てられて、身動きすら取れなくなってしまう始末。
詰んだ……頭の中には最早真っ暗な未来しか見えなくなった。
「やめ、ろ。彼女に、手をだすな……」
弱々しい声でラッセルが制止してるのが聞こえる。ずっと下を向いたままの剣先が、ようやく持ち上がり始めた。彼はしっかりと構えたのだが、私が危険に晒されているために、やはり身動きが取れないようだ。
『おお? 可愛い息子よ。何をムキになっている? なんども言っているがこの女は異物なんだろう? 私に引導を渡すと言っていたが、逆に私がこの女に引導を渡してやろう。エーデル、君が手を下さずともこの女は消える』
「ダメだ。彼女は……」
『おいおい、虫が良すぎると思わないか? 私、いや、君の母親とでも言おうか、を殺すのもダメ、この女を殺すのもダメ。それじゃあ取引きできないなあ。どっちかを道連れなら私は消えると言っているのに』
シャドウは余裕の笑みを見せながら、ラッセルに交渉を持ちかける。
『そうだ、ならば私にその命、エーデルの命を預けてくれるかな? 君の体と魔力を貸してくれれば、彼女たち二人ともを残してあげよう。それに……この世界をもっと刺激的なものにしてあげられるよ?』
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