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世界編
113の2.顔!
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「えぇっ? あれ、糸で作られた顔なの? だって、どこから見ても王子の顔……」
てっきり魔法か何かを使って変身してるんだと思ってた。想像と違った事実に、まじまじとダーの顔を覗きみる。
「な、なんだよ、気持ち悪い。覗き込むんじゃねぇよ」
「え? あ、ごめん。見事に作り込まれてるなぁって思ったら……つい」
自分でも気づかないうちにダーの側まで来てたらしい。声を聞いてハッとする。
でも言われなきゃわかんなかった。誰も疑わないわよ、このかが作り物なんて……なんだか触ってみたいな……
そろりとダーに向けて手を伸ばす。
「ねぇ、ちょっとだけ触らせてくんない?」
「はあ? 何言ってんだお前、ウザい」
「兄さん、お嬢さまに失礼でしょ?」
ダーの暴言を諌めるように、リーがダーの手をペチペチと叩く。
「お嬢さま、遠慮なく触ってやってください。今回は王子様のお顔ってことで、私も結構気合が入ったんですよ。自信作です」
「そ、そう? なら遠慮なく」
おっかなびっくり触ってみると、程よい弾力があり、自分の顔の触り心地とほとんど変わりない。
「……おい、いい加減にしろ。オモチャじゃねぇんだ」
「あ……えへへへ。なんか不思議でさ」
いつの間にか、両頬を縮めたり伸ばしたり、アゴやら耳を引っ張ってみたり、と好き勝手にいじくりまわしてた。
いじられた当人はかなり苛立ってるのを無理やり我慢してるようで、声が荒くなる寸前だ。
ここは笑って誤魔化しながら退散するのが得策だぁね。
「すごいでしょ? この質感、この手ざわりっ! 滑らかな中に男性特有のゴツゴツした感覚も忘れずに、と思ったんです。いやぁ、私の蜘蛛たちはいつもいい仕事してくれるんですよ。あ、知ってました? お嬢さまにお渡しした刺繍の品々も、この子たちの作品です。自分たちの糸以外での作業だったんで最初は失敗してたんですけどね、学習能力が高くって。すぐに習得しましたよ」
いつになく饒舌なリーに圧倒され、私はただ頷くしかなかった。
まさか、ボランティアの刺繍まで蜘蛛たちの作品だとは。嬉しそうに顔をキラキラさせて喋る様子は、彼女の蜘蛛愛のすごさを感じさせた。
「自慢の逸品なのは僕がみてもわかったよ。だけどね、リー。彼女、サーラちゃんは、このアンドリュー王子の顔は良くないって言ってるんだ」
シンに横ヤリをいれられ、リーの顔が少し曇る。
「どういうことですか?」
「これはアンドリュー王子の顔であって、ダーの顔じゃないもの。アンドリュー王子の顔はアンドリュー王子のものだわ。だからダーにはダーにふさわしい顔を作ってあげて?」
シンの指摘に不満そうなリーに向かって、私は私自身が納得できない理由を説明した。
「顔を変える、ということは、今回のミッションは終了ということでよろしいので?」
彼女がシンに確認をとると、彼はふむ、と頷いた。
「また必要な時が来たらケンから指示がくるはずだよ? 今回は僕が代わりにミッション終了を言い渡すよ。お疲れさま」
そう言いながらシンは、リー、ダー、私、そしてラッセルをひと通り見回した。
「これでいいかい?」
私にシンが声をかけたので、いいわ、と答えた。
「ところで、兄さんの顔、次はどのように仕上げればよろしいでしょうか?」
リーは素朴な疑問を口にする。
「ダーと話し合って君が納得できる顔を自由に作ってあげなさい」
シンが優しくリーに向かって声をかけた。
しばらく考えてブツブツと呟くリーの頭の中には、新しい顔の候補がいくつか浮かんでいるらしい。やがてよし、と力強く頷いたリーは、何やらダーへと話しかけ、彼からも承諾をとりつけたようだった。
そうして作った顔に、シンが初めて否定的な意見を出した。
「今までダーの顔など気にもしなかったが、その顔はダメだ」
「え? 兄さんも納得してるんですけど? ダメですか?」
リーが小首を傾げながらシンに問いかけると、シンはため息をつき、呆れた声で彼女に言った。
「当然だ、だってそれは僕の顔じゃないか」
てっきり魔法か何かを使って変身してるんだと思ってた。想像と違った事実に、まじまじとダーの顔を覗きみる。
「な、なんだよ、気持ち悪い。覗き込むんじゃねぇよ」
「え? あ、ごめん。見事に作り込まれてるなぁって思ったら……つい」
自分でも気づかないうちにダーの側まで来てたらしい。声を聞いてハッとする。
でも言われなきゃわかんなかった。誰も疑わないわよ、このかが作り物なんて……なんだか触ってみたいな……
そろりとダーに向けて手を伸ばす。
「ねぇ、ちょっとだけ触らせてくんない?」
「はあ? 何言ってんだお前、ウザい」
「兄さん、お嬢さまに失礼でしょ?」
ダーの暴言を諌めるように、リーがダーの手をペチペチと叩く。
「お嬢さま、遠慮なく触ってやってください。今回は王子様のお顔ってことで、私も結構気合が入ったんですよ。自信作です」
「そ、そう? なら遠慮なく」
おっかなびっくり触ってみると、程よい弾力があり、自分の顔の触り心地とほとんど変わりない。
「……おい、いい加減にしろ。オモチャじゃねぇんだ」
「あ……えへへへ。なんか不思議でさ」
いつの間にか、両頬を縮めたり伸ばしたり、アゴやら耳を引っ張ってみたり、と好き勝手にいじくりまわしてた。
いじられた当人はかなり苛立ってるのを無理やり我慢してるようで、声が荒くなる寸前だ。
ここは笑って誤魔化しながら退散するのが得策だぁね。
「すごいでしょ? この質感、この手ざわりっ! 滑らかな中に男性特有のゴツゴツした感覚も忘れずに、と思ったんです。いやぁ、私の蜘蛛たちはいつもいい仕事してくれるんですよ。あ、知ってました? お嬢さまにお渡しした刺繍の品々も、この子たちの作品です。自分たちの糸以外での作業だったんで最初は失敗してたんですけどね、学習能力が高くって。すぐに習得しましたよ」
いつになく饒舌なリーに圧倒され、私はただ頷くしかなかった。
まさか、ボランティアの刺繍まで蜘蛛たちの作品だとは。嬉しそうに顔をキラキラさせて喋る様子は、彼女の蜘蛛愛のすごさを感じさせた。
「自慢の逸品なのは僕がみてもわかったよ。だけどね、リー。彼女、サーラちゃんは、このアンドリュー王子の顔は良くないって言ってるんだ」
シンに横ヤリをいれられ、リーの顔が少し曇る。
「どういうことですか?」
「これはアンドリュー王子の顔であって、ダーの顔じゃないもの。アンドリュー王子の顔はアンドリュー王子のものだわ。だからダーにはダーにふさわしい顔を作ってあげて?」
シンの指摘に不満そうなリーに向かって、私は私自身が納得できない理由を説明した。
「顔を変える、ということは、今回のミッションは終了ということでよろしいので?」
彼女がシンに確認をとると、彼はふむ、と頷いた。
「また必要な時が来たらケンから指示がくるはずだよ? 今回は僕が代わりにミッション終了を言い渡すよ。お疲れさま」
そう言いながらシンは、リー、ダー、私、そしてラッセルをひと通り見回した。
「これでいいかい?」
私にシンが声をかけたので、いいわ、と答えた。
「ところで、兄さんの顔、次はどのように仕上げればよろしいでしょうか?」
リーは素朴な疑問を口にする。
「ダーと話し合って君が納得できる顔を自由に作ってあげなさい」
シンが優しくリーに向かって声をかけた。
しばらく考えてブツブツと呟くリーの頭の中には、新しい顔の候補がいくつか浮かんでいるらしい。やがてよし、と力強く頷いたリーは、何やらダーへと話しかけ、彼からも承諾をとりつけたようだった。
そうして作った顔に、シンが初めて否定的な意見を出した。
「今までダーの顔など気にもしなかったが、その顔はダメだ」
「え? 兄さんも納得してるんですけど? ダメですか?」
リーが小首を傾げながらシンに問いかけると、シンはため息をつき、呆れた声で彼女に言った。
「当然だ、だってそれは僕の顔じゃないか」
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