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世界編

昔語り その2.後編

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「よかろう、私にも時間がないのでな。腹の子が成長するまでは、貴女に役割を肩代わりしてもらう」

 そう言って、彼女の条件を受け入れることにした。
 この発言には皆驚いて、ケンをマジマジと見つめた。

 でも誰も異論は唱えなかったよ。だってケンの言うことには逆らうことはできない。絶対的存在なのだから。

 ケンは我々を使って世界を安定に導く者。つまり、我々が蟲を使役するのと同じように、ケンは我々七人を使役して世の中の調整を行うんだ。

 さらにケンはその女に向かって言った。

「確かに貴女の魔力は強い。次代を産み落とすことができるくらいに。しかしその魔力の容量では、『ケンの容れ物』として生きることだけしかできないだろう。貴女がケンとして、調整者として皆に指示をするのは難しい。実権はシンとソンに託す。だから貴女は、世界を乱す者を見つけたら二人に連絡しなさい」

 こうして、次のケンは暫定的にこの女が務め、僕とソンが彼女の補佐をすることになったんだ。

 子供が生まれ、一年経たないうちにケンは死んだ。

 当然女が役を引き継いだんだけど、彼女は膨大な知識と責務に耐え切れず、その半年後、深い眠りに落ちてしまった。

 眠っていれば、容れ物としての役割だけは果たすことができるからね。彼女は我が子が成長するまで、その負荷に耐えきるために眠るという手段を選択したんだ。

 我々はすぐに次代を引き取ることを申し出た。
 だって、眠ったままの彼女に次代を育てることはできないから。
 一族が生まれた子供をケンとして、その資質と役割を覚えさせながら育てていくのが当然だと思っていた。いわゆる英才教育というやつだ。

 しかし彼女の考えは我々とは違った。

『息子は自分に代わって、自分の伴侶となる人が育てる。子供が成人するまでは、次代のケンとしてではなく、私たちの子供として育てる。これは自分からの命令だ』と。

 ズルい、っておもった。この命令には従わないわけにはいかなかったから。
 いくら中継ぎとはいえ、今の『ケン』は彼女なのだから。
 ケンの命令は絶対だし、例外はない。

 なぜなら、彼女はそれを伝えるためだけに、負荷のかかる体を無理やり覚醒させて一族の者全員を集めて、そう宣言したのだから。

 それが世の中の為だったのか、我が子の為だったのか。

 彼女はその時、初めて命令という形で我々に指示を出した。これだけは絶対に譲らない決定事項だと言わんばかりに。

 残念ながら我々は、その絶対的命令のため、次代が成人を迎えるまで指をくわえて見守るほか手段がなかった。

 こうして再び眠りについた彼女は、その状態のままでケンの代行者として生きることを始めた。

 世の中の動きに問題があれば、僕かソンの意識を通じて連絡が来るようになった。
 それが、この中継ぎのケンが選んだ調整方法だった。

 最初の頃は皆、そのイレギュラーな方法にも必死でついていこうとしたよ。だって中継ぎとはいえ、ケンからの命令であることに変わりなかったから。

 でも、今自分が仕えているのは、本来のケンではないという不満が僕とソン以外の者の心には溜まっていたらしい。

 ある程度の年月が過ぎて、いつのまにか僕とソン以外は既に世代交代を済ませて、皆若い世代になっていた。
 だからなのか……いくらケンからの指示と伝えても、すぐには従わない者が出てきた。一人、また一人と。

 本来、ケンとは圧倒的存在であって、その指示は絶対遂行されなければならないものだった。
 直接の指示がない上に、中途半端な存在ーー果たして従うべき存在なのか、と自問自答した結果なのだ、と皆言っていた。

 よくない傾向だと思った。
 ケンとしての存在感が薄まりつつある。このままでは一族の崩壊が始まってしまう。いや、管理者の存在がおびやかされているのだ、世界の崩壊に繋がるとも限らない。

 ほんの少しの反発は、いずれ大きな波紋に広がる……その影響を最小限に食い止めようとして、僕とソンは頻繁に中継ぎのケンへ相談しに行った。

 あれからかなりの年月が経つ。貴女の息子もずいぶん成長されたはずだ。そろそろケンの座を譲る時期が来たのではないか、と。

 彼女も自分の魔力制御に限界を感じはじめてきたのだと思う。代替わりの時期は自分が直接本人へ伝えたいと言った。我々は安心して、不安定な今からの脱却を図ることができると胸を撫で下ろしていた時だった。

 綻びは小さな出来事から始まった。
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