212 / 249
世界編
昔語り その2.前編
しおりを挟む
僕を育ててくれたケンは、僕が十歳になった時に死んだ。
ある日ケンは、一族の者を集めてこう言ったんだ。
「次のケンはまだ、ある女の腹の中にいる。自分は後継を育てることができないから、シンと同じように、一族の者たちで育てていくことになるだろう」
僕は嬉しかった。だって僕は育てられただけで、僕が育てるなんてこと、やったことがなかったから。
ケンの助けになることなら、僕は一生懸命に頑張ろうと思ったよ。
僕がただ手を叩いて喜んでいる時、トカゲ使いのソンはある質問をした。ケンの次代はどうやって決まるのか、なぜ後継を育てることができないのか、と。
さっき話した、一族の世代交代はケンがその引き継ぎを行う。しかしケンは、というと若干の違いがあるんだ。
ケンはこの世界の要。ケンの消失は世界の消失にあたる。だからケンの引き継ぎは、ケン自身が生きてる間に行われるのが常なんだ。
『後継を育てる』
これはケンの死期が近づいたために、次の世代のケンを見いだして速やかに引き継ぎを行うーー後継を育てる、とはそういうこと。
そして次にケンから聞かされた言葉は、自分の耳を疑うくらいの衝撃だった。
『自分は病に侵されている。おそらく長くて一年、いや半年だろう』
なんてことだ。僕を育ててくれたケンが居なくなる……目の前が真っ暗になったよ。
両親を、自分の不手際で殺した僕を、見捨てずに根気強く導いてくれたケンがこの世から消えてしまうなんて。
目の前で両親が死んだ時も涙を流さなかった僕が、この時初めて泣いたよ。子供のように大声でわんわんと。後にも先にも、僕が声を我慢せずに涙を流したのはこの時一度きりだ。
……ごめんね、ちょっとばかり感傷的になっちゃったね。話を元に戻そうか。
我々は全員で次代のケンに会いに行った。
どんな女が次代を産むのか、興味もあったし、生まれたら即座に引き渡しをお願いするために。
その女は、ちょうど輿入れの時期に当たってたらしく、我々は話し合いのために一時彼女を足留めすることにした。
びっくりしたよ。普通の貴族のお姫様だったら、我々が目の前に現れたら気を失うか泣き叫ぶかでしょ?
ところが彼女は違った。
凛として背筋を伸ばし、真っ直ぐにケンを見つめていた。誰も声を発していないのに、誰がトップの人間か、自分の交渉相手が誰なのか、既にわかっていたみたいだった。
そして彼女から溢れ出る魔力の大きさ。
それが彼女のものなのか、彼女の子が発しているものなのか。
あの場にいた者ならば、どちらの魔力にせよ、そこに次代が存在するってことを実感しただろう。
その場はやはりケンが仕切った。
我々一族の役割を説明して、腹の子の魔力の高さを説明して。欠けたら困る存在なのだからと説明して。
ところが女はケンの引き渡しの話を聞いてもどうしても首を縦に振らなかった。
腹の子は、自分と愛する人との間に出来た子だから、手離すわけにはいかない。
そう言って、頑として譲らなかった。
ふふふ、サーラちゃんってさ、初めて会った時、彼女に似てるなって思ったんだ。
容姿がって訳じゃないよ? 雰囲気かな、君から感じられるオーラみたいなのが似てるんだろうね。不思議だよ、彼女とは正反対で、サーラちゃんからは魔力のカケラも感じられないのに。
でも二人とも同じものを持っているんだ。僕らの魔力に触れても怯まない、その根性。そしてバイタリティ。
僕が惹かれたと同じようにエーデル、君もそこに惹かれたのかねぇ。
さて、また脇道に逸れちゃった。元に戻すね。
彼女への説得は何日も続いた。
この世界は『ケン』という存在を欠いてはいけないからね。何としても首を縦に振ってもらわなければならなくて、脅したり、宥めたり。
何度交渉しても彼女は納得せず、話し合いは決裂、腹の子が生まれた瞬間に奪いにくると宣言して立ち去ろうとした時だった。
彼女の方から、ひとつの提案がなされた。
『この子が『ケン』としての役割を理解して受け入れる時がくるまで、自分が『ケン』としての役割を果たす』
みんな唖然としていたよ。
ふざけるな、と恫喝する者、鼻で笑う者、呆れて天を仰ぐ者、様々だった。
しかしケンはその提案に真剣に向き合って考えていた。
ある日ケンは、一族の者を集めてこう言ったんだ。
「次のケンはまだ、ある女の腹の中にいる。自分は後継を育てることができないから、シンと同じように、一族の者たちで育てていくことになるだろう」
僕は嬉しかった。だって僕は育てられただけで、僕が育てるなんてこと、やったことがなかったから。
ケンの助けになることなら、僕は一生懸命に頑張ろうと思ったよ。
僕がただ手を叩いて喜んでいる時、トカゲ使いのソンはある質問をした。ケンの次代はどうやって決まるのか、なぜ後継を育てることができないのか、と。
さっき話した、一族の世代交代はケンがその引き継ぎを行う。しかしケンは、というと若干の違いがあるんだ。
ケンはこの世界の要。ケンの消失は世界の消失にあたる。だからケンの引き継ぎは、ケン自身が生きてる間に行われるのが常なんだ。
『後継を育てる』
これはケンの死期が近づいたために、次の世代のケンを見いだして速やかに引き継ぎを行うーー後継を育てる、とはそういうこと。
そして次にケンから聞かされた言葉は、自分の耳を疑うくらいの衝撃だった。
『自分は病に侵されている。おそらく長くて一年、いや半年だろう』
なんてことだ。僕を育ててくれたケンが居なくなる……目の前が真っ暗になったよ。
両親を、自分の不手際で殺した僕を、見捨てずに根気強く導いてくれたケンがこの世から消えてしまうなんて。
目の前で両親が死んだ時も涙を流さなかった僕が、この時初めて泣いたよ。子供のように大声でわんわんと。後にも先にも、僕が声を我慢せずに涙を流したのはこの時一度きりだ。
……ごめんね、ちょっとばかり感傷的になっちゃったね。話を元に戻そうか。
我々は全員で次代のケンに会いに行った。
どんな女が次代を産むのか、興味もあったし、生まれたら即座に引き渡しをお願いするために。
その女は、ちょうど輿入れの時期に当たってたらしく、我々は話し合いのために一時彼女を足留めすることにした。
びっくりしたよ。普通の貴族のお姫様だったら、我々が目の前に現れたら気を失うか泣き叫ぶかでしょ?
ところが彼女は違った。
凛として背筋を伸ばし、真っ直ぐにケンを見つめていた。誰も声を発していないのに、誰がトップの人間か、自分の交渉相手が誰なのか、既にわかっていたみたいだった。
そして彼女から溢れ出る魔力の大きさ。
それが彼女のものなのか、彼女の子が発しているものなのか。
あの場にいた者ならば、どちらの魔力にせよ、そこに次代が存在するってことを実感しただろう。
その場はやはりケンが仕切った。
我々一族の役割を説明して、腹の子の魔力の高さを説明して。欠けたら困る存在なのだからと説明して。
ところが女はケンの引き渡しの話を聞いてもどうしても首を縦に振らなかった。
腹の子は、自分と愛する人との間に出来た子だから、手離すわけにはいかない。
そう言って、頑として譲らなかった。
ふふふ、サーラちゃんってさ、初めて会った時、彼女に似てるなって思ったんだ。
容姿がって訳じゃないよ? 雰囲気かな、君から感じられるオーラみたいなのが似てるんだろうね。不思議だよ、彼女とは正反対で、サーラちゃんからは魔力のカケラも感じられないのに。
でも二人とも同じものを持っているんだ。僕らの魔力に触れても怯まない、その根性。そしてバイタリティ。
僕が惹かれたと同じようにエーデル、君もそこに惹かれたのかねぇ。
さて、また脇道に逸れちゃった。元に戻すね。
彼女への説得は何日も続いた。
この世界は『ケン』という存在を欠いてはいけないからね。何としても首を縦に振ってもらわなければならなくて、脅したり、宥めたり。
何度交渉しても彼女は納得せず、話し合いは決裂、腹の子が生まれた瞬間に奪いにくると宣言して立ち去ろうとした時だった。
彼女の方から、ひとつの提案がなされた。
『この子が『ケン』としての役割を理解して受け入れる時がくるまで、自分が『ケン』としての役割を果たす』
みんな唖然としていたよ。
ふざけるな、と恫喝する者、鼻で笑う者、呆れて天を仰ぐ者、様々だった。
しかしケンはその提案に真剣に向き合って考えていた。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい
三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです
無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す!
無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!
レディース異世界満喫禄
日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。
その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。
その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!
【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました
鹿乃目めの
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。
ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。
失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。
主人公が本当の愛を手に入れる話。
独自設定のファンタジーです。実際の歴史や常識とは異なります。
さくっと読める短編です。
※完結しました。ありがとうございました。
閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。
(次作執筆に集中するため、現在感想の受付は停止しております。感想を下さった方々、ありがとうございました)
虚弱高校生が世界最強となるまでの異世界武者修行日誌
力水
ファンタジー
楠恭弥は優秀な兄の凍夜、お転婆だが体が弱い妹の沙耶、寡黙な父の利徳と何気ない日常を送ってきたが、兄の婚約者であり幼馴染の倖月朱花に裏切られ、兄は失踪し、父は心労で急死する。
妹の沙耶と共にひっそり暮そうとするが、倖月朱花の父、竜弦の戯れである条件を飲まされる。それは竜弦が理事長を務める高校で卒業までに首席をとること。
倖月家は世界でも有数の財閥であり、日本では圧倒的な権勢を誇る。沙耶の将来の件まで仄めかされれば断ることなどできようもない。
こうして学園生活が始まるが日常的に生徒、教師から過激ないびりにあう。
ついに《体術》の実習の参加の拒否を宣告され途方に暮れていたところ、自宅の地下にある門を発見する。その門は異世界アリウスと地球とをつなぐ門だった。
恭弥はこの異世界アリウスで鍛錬することを決意し冒険の門をくぐる。
主人公は高い技術の地球と資源の豊富な異世界アリウスを往来し力と資本を蓄えて世界一を目指します。
不幸のどん底にある人達を仲間に引き入れて世界でも最強クラスの存在にしたり、会社を立ち上げて地球で荒稼ぎしたりする内政パートが結構出てきます。ハーレム話も大好きなので頑張って書きたいと思います。また最強タグはマジなので嫌いな人はご注意を!
書籍化のため1~19話に該当する箇所は試し読みに差し換えております。ご了承いただければ幸いです。
一人でも読んでいただければ嬉しいです。
異世界悪霊譚 ~無能な兄に殺され悪霊になってしまったけど、『吸収』で魔力とスキルを集めていたら世界が畏怖しているようです~
テツみン
ファンタジー
**救国編完結!**
『鑑定——』
エリオット・ラングレー
種族 悪霊
HP 測定不能
MP 測定不能
スキル 「鑑定」、「無限収納」、「全属性魔法」、「思念伝達」、「幻影」、「念動力」……他、多数
アビリティ 「吸収」、「咆哮」、「誘眠」、「脱兎」、「猪突」、「貪食」……他、多数
次々と襲ってくる悪霊を『吸収』し、魔力とスキルを獲得した結果、エリオットは各国が恐れるほどの強大なチカラを持つ存在となっていた!
だけど、ステータス表をよーーーーっく見てほしい! そう、種族のところを!
彼も悪霊――つまり「死んでいた」のだ!
これは、無念の死を遂げたエリオット少年が悪霊となり、復讐を果たす――つもりが、なぜか王国の大惨事に巻き込まれ、救国の英雄となる話………悪霊なんだけどね。
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~
乃神レンガ
ファンタジー
謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。
二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。
更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。
それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。
異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。
しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。
国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。
果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。
現在毎日更新中。
※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる