上 下
189 / 249
王宮編

95の2.やった!

しおりを挟む

「ところでミリィちゃんはどうしてる?   ハルのところの専属侍女でしょ?   気を遣ってあげて」

 最初こそ私の侍女としてお世話してくれていたミリィちゃんだったが、ハルと戦闘訓練を繰り返しているうちに、ハルの専属侍女とした方が効率が良いということで、だいぶ前から移動はしている。

「ああ、直接ソンを倒したのは彼女だからな。多少の衝撃はあったらしいが、平気だと言っていた。小さい頃の方がもっと凄惨だったらしい」

 返事をするハルは、あまり浮かない表情をしていたので、どうしたことかと尋ねた。

「俺は貴族社会で暮らしていたから何とも思わなかったが、貧困層の民は未だに苦しんでる状況を知ったからな。父上にも何らかの対策が取れないか進言してみようと思ってるんだ」

 へえ、ちょっと前だと甘ったれのヘナちょこハルだったのに……このくらいの男の子って、いろんなことを吸収して成長するんだなぁ。

 パッと見は全く変わらないが、顔つきや考えがずいぶん大人になった彼を見て、頼もしく感じる。成長の一因がミリィちゃんってところもプラスポイントだね。
 微笑ましさも相まって、小さな笑いが溢れた。

「それはそうと、今日はこれから兄上たちが帰って来られるだろう?   サーラも出迎えの準備をするのか?   行くなら一緒に行こうぜ」

 ん?   兄上たち?   ああ、第一王子とその奥さんたちのことだな、たぶん。

 王子たちとは直接面識ないし、あえて会う必要性もないと思うけど……一番上は一応まだ王太子の看板は降ろしてなかったよね。それなら形式だけでも挨拶すするかな。

 昔の大奥の例えで言うと、貴族女性社会では、第一王子の正妻が一番の権力者になるはず。次いで二番、三番の奥さんかな?   下手したら、専属侍女さんとかが裏で牛耳ることだってあるわ。

 初見は大事。まずは当たり障りのない挨拶をして、害のない人間と認識してもらおう。周囲の人たちに紛れていれば、変に注目されたりもしないよね?

「確か第一王子は療養中だったよね?   もう全快したの?   みなさんとも会ったことないけど、私が顔出したりして平気なん?」
「アンドリュー第一王子は確かに面識ないよな。アンディ兄上は俺が事故起こす前、ずいぶん可愛がってくれてたんだ。実はブラン兄上より……ラムダスに行ったブランドール兄上よりも仲良かったんだぜ?   紹介するよ」
「うーん、でもさぁ……」

 小さかった頃を思い出しているのか、顔が上気して目までキラキラしている。
 本当に仲のいい兄弟だったんだろうな、私は一人っ子だったから、兄弟の良さがわからないが、ハルを見ていると、少し羨ましい。

「ハルがそう言うなら、優しいお兄さんなのね。ハルと同じ顔してるの?   兄弟だから似てるんでしょ?」
「ああ、兄上は母上似かな。髪は金髪で顔は……」

 ハルが言いかけたタイミングで、メガネ侍女さんが、王家の家族肖像画をスッと差し出してくれた。

 王様の隣に座っているのが亡くなった正王妃様。間にチョコンと座ってるのはハルだ。後ろに並んでいる二人の若者が兄たちかな。

「こっちがアンディ兄上、こっちがブラン兄上だ」

 指差した先を見ると、キリリと精悍な顔立ちをしているのがジョフリー、若干垂れ目気味で優しく笑っているのがブランドールのようだ。二人とも金色の髪の毛が眩く、かなりハイランクの男性だ。

 ほお、やっぱりイケメンよねぇ、二人とも。これだったら兄の話しをするのも誇らしいさ。
 相手がイケメンとみるや、ちょっと会って見たくなった。現金なもので、目の保養と刺激を求めて脳が活性化してくる。

 メガネ侍女さんにお願いして、身支度を整えてからよそ行きのドレスでバッチリと決めこんだ。

 あまり乗り気でなかったクセに、自らハルの背中を押して、早く場所へ連れて行けと急き立てて自室を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~

みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。 生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。 夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。 なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。 きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。 お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。 やっと、私は『私』をやり直せる。 死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。

婚約破棄から始まるジョブチェンジ〜私、悪役令嬢を卒業します!〜

空飛ぶパンダ
恋愛
この物語の主人公は悪役令嬢ローゼリア。彼女は悪役令嬢らしく他者を虐げ、婚約破棄からの断罪で、ショックを受けて気絶。目が覚めたら、前世の価値観だけが蘇りました。自らの行いを悔いるも時すでに遅し。彼女は罰として、隣国へ嫁ぐよう命じられます。彼女は悪役令嬢を卒業し、隣国で幸せになれるのでしょうか? ※R15は保険です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

怒れるおせっかい奥様

asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。 可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。 日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。 そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。 コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。 そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。 それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。 父も一緒になって虐げてくるクズ。 そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。 相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。 子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない! あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。 そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。 白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。 良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。 前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね? ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。 どうして転生したのが私だったのかしら? でもそんなこと言ってる場合じゃないわ! あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ! 子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。 私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ! 無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ! 前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる! 無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。 他の人たちのざまあはアリ。 ユルユル設定です。 ご了承下さい。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

この魔術師様、地雷系につき取り扱い注意

甘寧
恋愛
「まったく…貴女はいつになったら俺の言う事を聞いてくれるのやら」 瞳孔が開きっぱなしの男に押し倒され、首にはいつでも絞めれるようにと手を置かれた状態で迫られる。首に添えられた手を外し顎を持ち上げると、強引に唇を奪ってくる。唇を奪われた衝撃よりも、獰猛な瞳で妖艶に微笑む男に冷や汗が止まらない… そんな歪んだ愛を持つ男…魔術師団長であり婚約者のダリウス。 主人公のアンネリリーは、悪女として有名な令嬢だったが、それも今日まで─ 前世を思い出したアンネリリーは、自身の婚約者が地雷系男子だと言うことを知る。 悪女から足を洗い、人生矯正しつつ、ダリウスの地雷を踏み抜かないように生きていくことを決めた。 そんな矢先、仮面舞踏会が行なわれ、その先で出会った男のことが気になってしまうアンネリリー。

ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ
ファンタジー
 地球では無い、何処か不思議な世界。  そこには、『ゴミスキル』とけなされる、役に立たないスキルが幾つかありました。  主人公は、一人暮らしの少女マロン。  彼女は、不味くてどうしょうもない『ゴミスキルの実』の美味しい食べ方に気付きます。  以来、巷の人々が見向きもしない『ゴミスキルの実』を食べ続けると…。  何の役にも立たないと思われていた『ゴミスキル』がなんと。  唯我独尊の妖精アルト、日本からの残念な転移者タロウに振り回されつつ。  マイペース少女マロンの冒険が始まります。  はて、さて、どうなる事やらww  毎日、20時30分に投稿する予定ですが。  最初の導入部は、1日2回、12時10分に追加で1話投稿します。

処理中です...