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王宮編
76の2.ビミョー!
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矢継ぎ早な質問に、ラッセルが軽く苦笑いしながら、ひと息入れて説明をしてくれた。
「ここはどこか、という質問のようだが、正確にどこにある、とは教え難い」
「え? もったいぶってないでキチンと教えてよ」
中途半端な答えに、すごくモヤモヤする。せっついて答えを求めようとラッセルに近づいて腕を揺する。
「そう慌てるな。説明するから」
そう言って私を椅子に座らせて、お茶でノドを湿らせてからゆっくりと話しだす。
「ここは現実にある空間ではない」
「え? 異空間? 異世界ってこと? 日本のどっかになるのかな?」
もしも日本に繋がってるならばと、期待の眼差しを向けたのだが、軽い苦笑いで返されて、やっぱり無理かという残念感に変わる。
「君の世界とも違う。ここは母上の夢の中なのだ」
ビックリして固まってしまった。
なんでもありの魔法の世界だから、そういうのもアリかと納得すればいい話しだろうが、生まれついての常識が、あり得ないことだと否定してくる。
「実は私も断定はできないから、たぶん、としか言いようがないのだが」
といって説明を続けた。
ラッセルの母親は、ずいぶん前から眠ったまま目を覚まさない状態になっているのだそうだ。
目を覚まさせようにも、彼女の周りに魔力結界のようなものが張り巡らされ、誰も近寄ることができないらしい。唯一、彼女に触れることができるのが、心を許した旦那様、この国の王様なのだが、王の呼びかけにも無反応のまま現在も眠り続けているとのことだ。
「唯一って……アンタは触れないの? 息子なのに」
「母上が私を認めたくないのだろう。いつかお許しくださって触れられると信じていたのだが……未だに触れることは叶わない」
力なく呟く様は、なんだか切なくて、できるだけ明るい話題にしようと頭を働かせる。
「ごめん、なんか微妙な話ししちゃったよね。あーそうだ、なんでこんなこと聞いたかってね、空を見上げてちょっと違う感じがしたワケよ。ほら、外と違って突き抜ける青さとか雲がないじゃん? 前に寝てる時に夢で感じたことなんだけどね。へへ」
「夢? 普段からここをみるのか?」
「んー、眠りすぎて焦って起こしてもらってる時は大概ここにいるんだよね。まあ居心地いいのもあるんだろうけど」
私の何の気なしの話しに、ラッセルが戸惑いの表情を浮かべている。様子が怪しくて、何か事情があるのか聞いてみた。
「母上が眠りについた時、既に私は魔力反発にあって触れることができないでいた。王と二人で母上の側にいた時、王は私を抱き抱え、自身の手を通して私に触らせてくれた。その時みたのがこの光景だ。一度しかみられなかったが、とても気持ちの安らぐところで、自分だけの力でそこに辿り着きたいと強く願ったら、ここに来ていた」
その時の光景を思い出しているのか、少し遠い目をして話しを続ける。
「ここは母上の夢に無理やり私が通路を作ったような空間だ。だから私以外にここに来ることはあり得んのだ」
「それはおかしいでしょ。現に私は今ここにいるし」
否定的な答えに、思わず身を乗り出してラッセルに抗議する。
「使い魔が道案内してここに呼び寄せたなら、それは納得できる。君に付けている使い魔は、元来母上が従えていた使い魔だからな。私と母上の魔力に感応する力は充分にある。ただ、君の、君だけの力でここに来ることは、本来あり得ないのだ。私たちの魔力を感じとる力のない君に、この道を見つけるのは不可能に近い」
私だけじゃ来れない? 確かに使い魔さんたちが側にいる感覚じゃなかったわよ。でもここでのんびりとした時なんか、風を感じたし、地べたに座る感覚も……
あれ? 本当に感じた?
考えてみたら、ボーっと眺めていたような気がしてきた。実際に花を触ったとか、小川の水に触れたとかもない。
「なら意識だけがここに飛んできてるってこと?」
「それもわからん。ただ君の夢と母上の夢が同調する可能性はかなり高いのだろう……そういえば……いや無理か……いやもしかしたら……」
ぶつぶつと独り言のように呟くラッセルは、先ほどまでの不安な感情にとらわれているのではなく、何かの打開策を考えて無心になっているようだ。
その様子から、お母さんから拒否られた絶望感からはたぶん解放されているかもね、と感じ、ひとまず胸を撫で下ろした。
「ここはどこか、という質問のようだが、正確にどこにある、とは教え難い」
「え? もったいぶってないでキチンと教えてよ」
中途半端な答えに、すごくモヤモヤする。せっついて答えを求めようとラッセルに近づいて腕を揺する。
「そう慌てるな。説明するから」
そう言って私を椅子に座らせて、お茶でノドを湿らせてからゆっくりと話しだす。
「ここは現実にある空間ではない」
「え? 異空間? 異世界ってこと? 日本のどっかになるのかな?」
もしも日本に繋がってるならばと、期待の眼差しを向けたのだが、軽い苦笑いで返されて、やっぱり無理かという残念感に変わる。
「君の世界とも違う。ここは母上の夢の中なのだ」
ビックリして固まってしまった。
なんでもありの魔法の世界だから、そういうのもアリかと納得すればいい話しだろうが、生まれついての常識が、あり得ないことだと否定してくる。
「実は私も断定はできないから、たぶん、としか言いようがないのだが」
といって説明を続けた。
ラッセルの母親は、ずいぶん前から眠ったまま目を覚まさない状態になっているのだそうだ。
目を覚まさせようにも、彼女の周りに魔力結界のようなものが張り巡らされ、誰も近寄ることができないらしい。唯一、彼女に触れることができるのが、心を許した旦那様、この国の王様なのだが、王の呼びかけにも無反応のまま現在も眠り続けているとのことだ。
「唯一って……アンタは触れないの? 息子なのに」
「母上が私を認めたくないのだろう。いつかお許しくださって触れられると信じていたのだが……未だに触れることは叶わない」
力なく呟く様は、なんだか切なくて、できるだけ明るい話題にしようと頭を働かせる。
「ごめん、なんか微妙な話ししちゃったよね。あーそうだ、なんでこんなこと聞いたかってね、空を見上げてちょっと違う感じがしたワケよ。ほら、外と違って突き抜ける青さとか雲がないじゃん? 前に寝てる時に夢で感じたことなんだけどね。へへ」
「夢? 普段からここをみるのか?」
「んー、眠りすぎて焦って起こしてもらってる時は大概ここにいるんだよね。まあ居心地いいのもあるんだろうけど」
私の何の気なしの話しに、ラッセルが戸惑いの表情を浮かべている。様子が怪しくて、何か事情があるのか聞いてみた。
「母上が眠りについた時、既に私は魔力反発にあって触れることができないでいた。王と二人で母上の側にいた時、王は私を抱き抱え、自身の手を通して私に触らせてくれた。その時みたのがこの光景だ。一度しかみられなかったが、とても気持ちの安らぐところで、自分だけの力でそこに辿り着きたいと強く願ったら、ここに来ていた」
その時の光景を思い出しているのか、少し遠い目をして話しを続ける。
「ここは母上の夢に無理やり私が通路を作ったような空間だ。だから私以外にここに来ることはあり得んのだ」
「それはおかしいでしょ。現に私は今ここにいるし」
否定的な答えに、思わず身を乗り出してラッセルに抗議する。
「使い魔が道案内してここに呼び寄せたなら、それは納得できる。君に付けている使い魔は、元来母上が従えていた使い魔だからな。私と母上の魔力に感応する力は充分にある。ただ、君の、君だけの力でここに来ることは、本来あり得ないのだ。私たちの魔力を感じとる力のない君に、この道を見つけるのは不可能に近い」
私だけじゃ来れない? 確かに使い魔さんたちが側にいる感覚じゃなかったわよ。でもここでのんびりとした時なんか、風を感じたし、地べたに座る感覚も……
あれ? 本当に感じた?
考えてみたら、ボーっと眺めていたような気がしてきた。実際に花を触ったとか、小川の水に触れたとかもない。
「なら意識だけがここに飛んできてるってこと?」
「それもわからん。ただ君の夢と母上の夢が同調する可能性はかなり高いのだろう……そういえば……いや無理か……いやもしかしたら……」
ぶつぶつと独り言のように呟くラッセルは、先ほどまでの不安な感情にとらわれているのではなく、何かの打開策を考えて無心になっているようだ。
その様子から、お母さんから拒否られた絶望感からはたぶん解放されているかもね、と感じ、ひとまず胸を撫で下ろした。
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