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王宮編

74の1.強過ぎ!

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 カシャーン、カシャーーン……

 ゆっくりとハサミが交差する音が響く度、自分の命が削られていくみたいで、全身から嫌な汗が流れてくる。

 ツツーっと冷たい汗が背筋を流れたと感じた瞬間だった。サソリがグッと沈んでから尻尾を振り上げ、迷いもなく私たちの頭の上から振り下ろしてきた。

 ミリィちゃんの防御陣にマトモに突き刺さり、そのままそれを突き抜けて地面に刺さっている。
 陣に当たった衝撃で、わずかに私たちのカラダから外れたようだった。

「きゃあっ……」

 攻撃をマトモに食らったのと、防御陣が破られた衝撃で、ミリィちゃんは尻もちをついたまま動けないでいる。

「うん、その防御もいい感じだよ。ただ、正面だけ強化してるから、上の方の守りがイマイチだったかな?   次は頑張って。もっとも次があればの話しだけど」

 シンはまるで戦闘を教える先生のように、ハルとミリィちゃんを評価しながらその場に佇んでいる。
 私は、必死にハイハイしながらミリィちゃんの側まで近寄って、自分の背中にミリィちゃんを隠して敵を睨んだ。

 その間も、ハルが援護のために第二、第三波の光の矢を仕掛けるが、ほとんどが堅い表面に当たって弾かれてしまう。運良く隙間に数本刺さっていても、深刻なダメージを与える程には至らない。

 シンの様子からは、自分の方が『完全に格上です』というオーラをバンバン出していて、私たちが抵抗する気力を全て奪っていくかのようだ。
 事実、ミリィちゃんは攻撃を受けたショックで、呆然としたまま固まっている。このままでは一番最初に餌食になるのはミリィちゃんになってしまう。

 今日たまたま散歩に付き合ったせいで、彼女が殺されるなんてことは、絶対にあってはならない。シンとサソリの標的を私に絞ってもらう必要があった。

 もともとこの世界に居なかった自分だ。この私が消えたとしても、今まで通りの、私がいなかった時の生活に戻るだけだろう。
 その考えにたどり着いたら、気分的に吹っ切れたのか、今この場で殺されてしまうかも、というパニックからは脱出できたみたいだった。

 私は震える足をバンバン叩きながら、頑張って立ち上がり、シンに向かって言い返す。

「いたぶることなんかしないで、正々堂々と勝負しにくればいいじゃん。さっさと私を殺したら二人には生きててもらってもいいでしょ?」
「うーん、どうしよっかなぁ。君、魔力ないよね?   むしろ他の人の魔力が入り混じってるような……面白いよね、殺すのも惜しい気がしてきたし……」

 シンは闘うことをそっちのけで真剣に考え始めている。
 こちらは、いつ死への一撃を食らうのかと生きた心地もしないでいるのに、シンの方は殺気のカケラも見せずに、腕組みして悩んでいる。

「ケンのために、サーラちゃんの首を持って行ってあげようと思ってたんだけど。もう少し知りたくなってきたなぁ。予定変更したら怒られるかなぁ」

 ブツブツと独り言のように喋り続けるシン。
 サソリはシンからの指示があれば、すぐにでも尻尾を振り下ろせるように、油断なく身構えている。

 ヒュンーーと耳元で風を感じたと思ったら、黒ヒョウがサソリの左側面、ヘビが右側面から次々に体当たりを仕掛けていく。しかし堅い表面にぶつかるだけで、傷ひとつ負わせることすら叶わない。
 チマチマした体当たりをうるさがったのか、サソリが尻尾を大きく回して一回転する。その動きにヒョウもヘビも見事なくらい吹っ飛ばされ、しばらく動けない程にダメージを受けている。

 いつも大事なところで守ってくれていたヒョウとヘビが、いとも簡単に吹っ飛ばされてしまったことに、衝撃を受け言葉を失ってしまった。
 サソリの圧倒的な強さに、ただ萎縮して呆然とするしかないことを思いしらされる。

 たぶん、次のサソリの攻撃で毒を受けるよね。
 あ、でもさっき綺麗に死ねるって言ってた。ということは『眠りの森のーー』的な感じで逝っちゃうのかしらん?   え?   美人薄命だって?   やっぱ若くて美しい人は早く亡くなるとかって、自分で証明しちゃう?
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