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魔術師団編
42の2.むっちゃヤバいっす!
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やっと普通の呼吸ができるようになった私も、上半身からだを起こして、ミリィちゃんの話しに聞き入った。
「ロックウェル家にはジュノー様の勧めもあって、お世話になることにしたわ。お嬢様も旦那様も優しくしてくれたけど、ジュノー様の居ない世界で過ごすなんてただ虚しいだけだった。諦めることが私の運命、そう思っていた矢先よ。アンタを見つけたの」
ミリィちゃんはハルを指差して憎々しげに口を開く。
「本当にアンタが死んでいたなら、まだ納得もできたわ。なのに死んでるどころか元気に笑って楽しそうにしてるじゃない。これじゃあ何のためにジュノー様は幽閉されたの? あの方から全てを奪っておいて自分は幸せいっぱい? 笑わせないでよ。アンタこそ地獄へ落ちな」
カン……乾いた音が響いて、そちらを振り返ると、持っていたサーベルを取り落とし、うなだれて立ち尽くすハルがいた。
先ほどまではドールに対して、身構える態勢にあったのだが、話しを聞くうちにどんどん気迫が薄れていき、もはや戦う気力すらほぼない状態まで落ちてしまったようだ。
「俺の事故がいろんな人の人生を狂わせたのは知っている。だけど、どうすれば良かったのさ。俺だってあの時死んでればって後悔は何度もしたよ。本当に何度も何度も。今だって後悔しない日なんてない。君が俺の命で満足するなら遠慮なんかいらない、くれてやるっ」
ハルは俯いたままギュッと目を閉じ、握りこぶしを握りしめてミリィちゃんに向かってそう叫んだ。
「ハ……ハハ、アハハハ。お望みどおりに殺してあげるわ。これで私もアンタも苦しまずに済むじゃない、なんて素敵なんでしょう。アンタはどっちを選ぶ? 一瞬で死を迎えるか、それともジワジワ後悔と懺悔をしながらの死か。最後くらい選ばせてあげる」
「後悔なら目が覚めてからずっとしてきた。もうたくさんだ。いっそのことひと思いに殺してくれ。俺が死ぬならアンタもそれで満足するんだろう?」
ガクンと片膝をついて、地面に拳を何度か打ち付けて、ハルは自身のやりきれない思いを吐き出してるようだ。最後の言葉を言った後にあげた顔には、彼女にすがるような、泣き出す寸前の表情になっていた。
「へえ……アンタのその表情を見ることができて嬉しいわ。直ぐに死にたいってワケね。なら、ドールにジワジワと絞め殺されなさいな。行き場のない苦しみを、自分のコト切れるまで味わいなさい。一瞬で死を迎えるなんて許さないっ。最後まで苦しめっ! ドールっ!」
命令されたドールは、一瞬でハルに詰め寄り仰向けに押し倒すと、その首をグッと絞めにかかった。
「なっ、卑怯者っ! ミリィちゃん、アンタはハルに選ばせるって言ってたじゃない。なんで裏切るのっ。そもそもハルを殺すなんて、私が許さないわっ!」
立ち上がってハルの許へ駆け寄ろうとした時、右腕に激痛が走った。
「あ、うう……痛い……何?」
「アンタはそこで見ていなさい。動くと今度は腕じゃなく急所を狙う」
痛みのある右腕を見ると、鋭利な刃物で切り裂かれ、血がダラダラと垂れてる。かなり深めに切られたみたいで、酷い痛みに腕を押さえて蹲る。
私の斜め前には、今、腕を掠めたと思われる小ぶりのナイフが地面に刺さっていた。
久しぶりに見る大量の出血と、ナイフで刺されたという衝撃で、ガクガク震えが止まらなくなり、ペタンと地べたに座る。下半身に力が全く入らず、ハルの危機だというのに助けに入ることさえままならない。
ああ、どうしよう。
ハルの顔色がどんどん悪くなっていき、血の気の失せた、真っ白な色に変わっていく。口元はハクハクと入ってこない酸素を求めて微かに動く程度。
嫌だ、嫌だ。
目の前で人が死ぬなんて、あってはならないことだわ。なんとかしてハルを助けなきゃ……でも力が入らない……どうすればいいのっ!
「ロックウェル家にはジュノー様の勧めもあって、お世話になることにしたわ。お嬢様も旦那様も優しくしてくれたけど、ジュノー様の居ない世界で過ごすなんてただ虚しいだけだった。諦めることが私の運命、そう思っていた矢先よ。アンタを見つけたの」
ミリィちゃんはハルを指差して憎々しげに口を開く。
「本当にアンタが死んでいたなら、まだ納得もできたわ。なのに死んでるどころか元気に笑って楽しそうにしてるじゃない。これじゃあ何のためにジュノー様は幽閉されたの? あの方から全てを奪っておいて自分は幸せいっぱい? 笑わせないでよ。アンタこそ地獄へ落ちな」
カン……乾いた音が響いて、そちらを振り返ると、持っていたサーベルを取り落とし、うなだれて立ち尽くすハルがいた。
先ほどまではドールに対して、身構える態勢にあったのだが、話しを聞くうちにどんどん気迫が薄れていき、もはや戦う気力すらほぼない状態まで落ちてしまったようだ。
「俺の事故がいろんな人の人生を狂わせたのは知っている。だけど、どうすれば良かったのさ。俺だってあの時死んでればって後悔は何度もしたよ。本当に何度も何度も。今だって後悔しない日なんてない。君が俺の命で満足するなら遠慮なんかいらない、くれてやるっ」
ハルは俯いたままギュッと目を閉じ、握りこぶしを握りしめてミリィちゃんに向かってそう叫んだ。
「ハ……ハハ、アハハハ。お望みどおりに殺してあげるわ。これで私もアンタも苦しまずに済むじゃない、なんて素敵なんでしょう。アンタはどっちを選ぶ? 一瞬で死を迎えるか、それともジワジワ後悔と懺悔をしながらの死か。最後くらい選ばせてあげる」
「後悔なら目が覚めてからずっとしてきた。もうたくさんだ。いっそのことひと思いに殺してくれ。俺が死ぬならアンタもそれで満足するんだろう?」
ガクンと片膝をついて、地面に拳を何度か打ち付けて、ハルは自身のやりきれない思いを吐き出してるようだ。最後の言葉を言った後にあげた顔には、彼女にすがるような、泣き出す寸前の表情になっていた。
「へえ……アンタのその表情を見ることができて嬉しいわ。直ぐに死にたいってワケね。なら、ドールにジワジワと絞め殺されなさいな。行き場のない苦しみを、自分のコト切れるまで味わいなさい。一瞬で死を迎えるなんて許さないっ。最後まで苦しめっ! ドールっ!」
命令されたドールは、一瞬でハルに詰め寄り仰向けに押し倒すと、その首をグッと絞めにかかった。
「なっ、卑怯者っ! ミリィちゃん、アンタはハルに選ばせるって言ってたじゃない。なんで裏切るのっ。そもそもハルを殺すなんて、私が許さないわっ!」
立ち上がってハルの許へ駆け寄ろうとした時、右腕に激痛が走った。
「あ、うう……痛い……何?」
「アンタはそこで見ていなさい。動くと今度は腕じゃなく急所を狙う」
痛みのある右腕を見ると、鋭利な刃物で切り裂かれ、血がダラダラと垂れてる。かなり深めに切られたみたいで、酷い痛みに腕を押さえて蹲る。
私の斜め前には、今、腕を掠めたと思われる小ぶりのナイフが地面に刺さっていた。
久しぶりに見る大量の出血と、ナイフで刺されたという衝撃で、ガクガク震えが止まらなくなり、ペタンと地べたに座る。下半身に力が全く入らず、ハルの危機だというのに助けに入ることさえままならない。
ああ、どうしよう。
ハルの顔色がどんどん悪くなっていき、血の気の失せた、真っ白な色に変わっていく。口元はハクハクと入ってこない酸素を求めて微かに動く程度。
嫌だ、嫌だ。
目の前で人が死ぬなんて、あってはならないことだわ。なんとかしてハルを助けなきゃ……でも力が入らない……どうすればいいのっ!
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