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捨て猫が安らぐ日
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孝一の実家を出た二人はいったんマンションに帰り、彼がずっと引き出しの中に寝かせていた婚姻届けを持って役所へ向かった。書類は本当に真白のサインの欄以外は全て埋められている。
「ねえ、コウ、ここって……」
役所に向かうタクシーの中で自分の欄にサインをしようと書類を眺めた真白は、その一部を指さして首を傾げた。孝一は彼女の手元を覗き込んで頷く。
「ああ、『証人』のところか? 相原さんたちならお前の家族のようなものだろう?」
確かに、拾われた時から過ごした養護施設の人たちなら真白にとって家族に等しい。
けれど。
「コウのお母さんたちじゃなくて良かったの?」
「まあ、帰る暇がないと思ってたからな」
「でも……」
「母さんたちなら、俺がお前を選んだってことだけで全部帳消しにするさ。これからサインもらいに行くとか、無理だしな」
「明日だったら――」
「待てない。これまで俺がどれまで待ったと思ってるんだ? 待つ必要なんか微塵もなかったと判った以上、もう一秒たりとも待たないからな」
そう言われると、無駄に待たせてしまった真白としては何も言えなくなる。
孝一が差し出すボールペンを受け取って、彼女はそこに自分の名前を記入し、判を押す。
役所に届を提出して家に辿り着いた頃には、もう真夜中も過ぎていた。
孝一が鍵を開けた部屋のドアを開こうとして、真白は手を押さえられる。
「コウ? ――!?」
肩越しに振り返ったところをふわりと横抱きにされて、真白は思わず孝一の首にしがみついた。彼は少し腰を屈めてドアノブを握り、真白を抱えたままでドアを開ける。
玄関に入った孝一は真白をシューズボックスに座らせ靴を脱がせた。そしてまた抱き上げると無造作に自分の靴を脱ぎ捨てリビングに向かう。
孝一の腕の中で揺られながら、真白は間近にある彼の顔をじっと見つめていた。
今の孝一は、とても近くにいる。
けれど真白にはそれでも何か物足りない気がした。
二人の距離が縮まるほどに、孝一の実家の前で彼に抱き締められていた時と同じように、もっと彼に近付きたいという気持ちが胸の奥から込み上げてくる。
もっと、近く。もっと、深く。
(だけど、どうしたらいいんだろう)
考える時間は、玄関からリビングまでの、ほんの数歩分しかなかった。
それしかないから、真白は焦る。
だから、リビングに着いてソファの上に下ろされそうになった時、彼の首に腕を回して引き寄せ唇を重ねたのは衝動に駆られてのことだった。
触れて、離れて、また触れる。
触れると、また触れたくなった。
「シロ?」
無心にキスを繰り返していた真白は、名前を呼ばれて我に返る。
「あ……」
パッと顔を離そうとしたけれど、頬を大きな手で包まれて引き止められた。
孝一は、鼻の先が触れ合いそうなほどの距離で彼女の目を覗き込んでくる。束の間そうしていてから、問うてきた。
「俺が欲しいのか?」
反射的にかぶりを振りそうになった真白は、寸でのところでとどまった。そうして、ほんの少し迷って、答えの代わりにまた唇を寄せる。
しばらく、孝一は真白のキスを受け取るだけだった。目を開けて彼女を見つめ、彼女が与えるものを受け取るだけ。
それが、唐突に一変する。
指一本動かそうとしない孝一にもどかしくなって離れようとした真白を、彼はグイと引き寄せた。そうして、真白がしていたようなものとは全く違う、貪るようなキスで彼女の息を奪う。
酸素が欲しくて真白が大きく喘いだ瞬間、飢えた舌が彼女の奥深くへと滑り込んできた。柔らかなそれが真白の上顎を、頬を、舌を撫でるたび、彼女の背筋にぞくぞくと甘い戦慄が走る。
深いキスにどっぷりと溺れていた真白は、ひやりとしたシーツの上に下ろされるまで、いつの間にか再び抱き上げられ運ばれていたことに気付かなかった。
巧みに真白の唇を貪り彼女の中の熱を掻き立てながら、孝一はどんどん真白の、そして自分の服を剥いでいく。真白はほとんどされるがままだったのに、あっという間に二人の素肌が直接触れ合うようになっていた。
露わになった真白の胸を、孝一が下からすくい上げるようにして包み込む。そこにほんの少し力が込められた時、彼女は思わず身じろぎした。
それに気付いた孝一が、眉をひそめる。
「どうした?」
「少し、痛いの……ちょっと前から」
「! 悪い」
パッと離れた彼の手を、真白は捉まえる。そうして、またそこへと導いた。
「痛い、けど、触って欲しいの」
赤らんでしまう顔を上げ、真白は孝一と目を合わせてそう伝えた。
束の間ためらって、孝一は彼女の膨らみをそっと包み込んだ。彼はほとんど撫でるだけというぐらいの力でやわやわとそれを揉み、親指で先端を刺激する。すぐにプクリと立ち上がったそこを親指と人差し指で摘ままれ、真白はとっさに唇を噛み締めた。
硬く尖った頂を優しく捻られるたび、そこからお腹の底まで電撃のような快感が走る。
「ふッ、ぅ」
下唇に、キリ、と歯が食い込んだ。
「シロ、噛むなといつも言っているだろう」
そう言って、孝一は唇を重ねてくる。噛んでいた下唇を舌でなぞられると、自然とそれを受け入れようとして顎が緩んだ。
最近いっそう敏感になっている胸の蕾を優しいけれども執拗にもてあそばれ、真白は身をよじる。すでに最高の快楽を覚えこまされている身体は、そこをいじられればより多くを求めてしまうようになっていた。
(もっと、欲しい)
唇を塞がれているから、言葉には出せない。
けれど、声には出ていない真白の懇願が重ね合わせた唇から伝わったのか、孝一の右手が胸から離れ、下へ、下へと彼女の身体のラインを辿っていく。
腰の丸みまで行くとそれは横へと動きを変えて、柔らかな茂みへと行き着いた。
孝一の指先が、焦らすように和毛を探る。
(触れて欲しい、のに)
もどかしくて無意識のうちに腰が揺れてしまう。
と、不意に、孝一が真白の唇を解放して、額と額を重ねて彼女の目を覗き込んできた。
「触れて欲しいか?」
まるで真白の心を読んだように、彼はそう問いかけてくる。
嘘は、つけなかった。
頬に血が上るのを感じながら、真白は彼を一心に見上げてこくりと頷く。
その密やかな懇願に、孝一が微かに笑みを浮かべた。そうして、止めていた手をまた動かし始める。
巧みな彼の指先は、胸への愛撫ですでに膨らみ始めていた茂みの奥の花芯をすぐに探し当てた。指の腹でゆっくりと円を描かれると、その動きに伴って真白の身体の奥でキリキリと快感のネジが巻かれていく。
「ここは、痛くないか?」
火照った真白の耳たぶを舌先でもてあそびながら、孝一が囁きかける。
「ん、ぅ、……ぁ、気持、ち、いい」
真白はどんどん膨らんでいく快楽にのどを詰まらせながら答えようとするけれど、まともな言葉にならない。
「いいならいいよ。溺れとけ」
そう囁いて、孝一は真白の首筋の脈打つところをキスで辿っていく。鎖骨の付け根を甘噛みし、チュクリと音を立てて吸った後、更に下へと進んだ。
胸の膨らみが始まるところまで行き着くと、彼の動きが一瞬止まる。
そうして、それまで数ミリ刻みでの移動だったものが一気に飛び、先ほど指での刺激を受けてから固くしこったままの蕾を包み込んだ。
「んぁッ」
とたんビリリと走った快感に、真白は小さな声とともにびくりと背を反らす。
孝一は先端だけをそっと歯で挟み、舌先で舐り、吸う。
右でそうして、今度は左に。
「あ、ぁ、ひ、や、ぁあん」
彼の頭が動くたび、真白の喉から声が漏れ、身体が勝手にヒクンと跳ねる。
その間も孝一の手は一瞬たりとも休むことなく彼女の熱を掻き立てた。
膨らみきった花芯を親指で撫でながら、彼は中指を彼女の中へと忍ばせる。とたんに、そこに湛えられていた蜜がトプリと溢れ出すのが真白にも感じられた。
外で疼く快楽の芽を絶え間なく刺激し続けながら、内側の良いところを的確に暴き出す。浅いところにある感じる場所を、彼の指先がグリグリと抉った。
「ぁ……あ、ん」
外と内から責め立てられて、もうぎりぎりのところまで引き絞られていた快感が一気に弾ける。
「ふぁ、ぁ、……ん、んん!」
真白の身体の中心がギュウと縮まり、快感の放出とともに全身がふわりと浮いた。身体中の力が抜けてしまったのに、内腿はガクガクと震える。勝手にヒクつく彼女の内部を味わうように孝一が指を出し入れするから、そのたびにビクンと背中が跳ねてしまう。
完全にそれが鎮まった頃、孝一の手はそっと離れていった。代わりに、もっと硬くて質量のあるものがそこに触れる。
いったん頭をもたげた孝一が、真白の目を見つめながらそっと唇を重ねてきた。チュ、チュ、と微かな音を立てながら何度もついばむようなキスを落とす。そうして、ゆっくりと彼女の中に分け入ってきた。
その動きはあまりに緩慢で、真白は自分の中に侵入してくる彼の存在をいつもよりもはっきりと感じてしまう。
もどかしいほどにジリジリと進んでようやく最奥まで辿り着くと、孝一はギュッと真白を抱き締め深々とため息をついた。
真白の身体の中心で、彼がドクンドクンと脈打っている。ぴたりと重ね合わせた胸からも、まるきり同じリズムが伝わってきた。彼女を抱き締めたきり彼が身じろぎ一つしないから、いっそうそれがはっきりと感じられる。
「シロ、口開けて」
唇を触れ合わせたままでの孝一のその言葉で、真白は自分が奥歯を食い締めていたことに気付く。
言われたように口を開くと、するりと彼の舌が忍び込んできた。
柔らかな舌が真白のそれと絡まり、口の中で密やかな水音が響く。
撫でる――愛撫するようなその動きに、彼を受け入れているもう一つの場所がキュッと縮まるのが判る。
とたん、孝一が低く呻いた。そうして、何かをこらえているかのように、ピタリと全ての動きを止める。
彼のいる最奥がなんだか疼いて、真白はもそもそと身じろぎした。けれどそれも、大きな両手で腰を掴まれて止められてしまう。
しばらくそうしていた後、孝一は重ねた唇の間からゆるゆると深い息を吐き出した。その息と一緒に彼女には聞き取れないほどの小さな呟きを漏らして、ようやく、動き出してくれる。
彼はゆっくりと真白の中から引いていき、いなくなってしまう寸前で、また戻ってくる――ゆっくりと。
何度も、何度も。
力強く突き上げてくることはなく、一番奥までそっと行き着くたびに孝一は優しく腰を揺らして、まだヒトの形を取っていない二人の子どもが眠る場所を愛撫する。
それは、真白の中から快感を引き出そうとするいつもの動きとは違っていた。
まるで、そうすることで、真白と、真白の中の存在を慈しんでいるようだった。
そうやって孝一が真白の奥深くに近づくたびに、性的な快楽だけではない、また別の何かを含んだ心地良さが彼女を隅々まで満たしていく。
(なんなのだろう、これは)
胸の奥から込み上げてくる何かに駆られて、真白は全身で孝一にしがみついた。その拍子にグッとつながりが深くなる。彼女が彼を求める気持ちに応じて、自分の中が彼に絡みつこうとするのが、判る。
結び付いているその場所から溶け合ってしまうのではないかと、真白は思った。
そうなったらいいのに、と真白は願った。
「コウ、コウ」
浮かされるように孝一を呼び、求める。彼はキスを重ねていた唇で微笑んだ。
「真白……真白、愛してる」
孝一の声で耳に届けられる自分の名前は、いつも特別なものに感じられる。特別な、宝物のように。
出逢った時から、彼は真白にたくさんのものを与えてくれた。
名前を呼べば、彼も彼女の名を呼び返してくれる。
抱き締めれば、彼女以上の力で、彼は抱き締め返してくれる。
真白には言い表すことのできない想いも、ちゃんと言葉にして返してくれる。
応えてもらえる、返してもらえる、ということは、こんなにも心地良い。
応えてもらえる、返してもらえる、ということは、心地良くて、満たしてくれて、安らぎを与えてくれる。
孝一は、それを教えてくれた。
「コウ、わたしも……わたしも――」
自分の胸の中にある想いを伝えようとしても、表す言葉が見つからない。
これも、『愛している』でいいのだろうか。
どうしようもなく求めてしまって何よりも大事で一緒にいるだけで安らげるこれが、『愛している』ということなのだろうか。
「わたしも――」
口ごもる真白の唇を、孝一のそれがそっと塞いだ。そうやって触れ合わせたまま、囁く。
「無理に言葉にしなくてもいい。俺にはちゃんと伝わっているから」
「ほんとう?」
本当に、全部伝わってくれているのだろうか。
(コウと逢えて、どれほどわたしが幸せになれたのかっていうことも、全部……?)
見上げれば、微笑みが返ってくる。
その微笑みに、またキュッと胸が締め付けられた。
そんな真白の顔に何を見たのか、孝一は小さく笑って動き出す。
初めのうちは、やっぱりゆっくりと、穏やかに。
それは次第に強く速くなっていって、やがて真白は身体の奥から溢れてくる快楽の波に呑まれ、孝一が与えてくれる全てのものに溺れていった。
「ねえ、コウ、ここって……」
役所に向かうタクシーの中で自分の欄にサインをしようと書類を眺めた真白は、その一部を指さして首を傾げた。孝一は彼女の手元を覗き込んで頷く。
「ああ、『証人』のところか? 相原さんたちならお前の家族のようなものだろう?」
確かに、拾われた時から過ごした養護施設の人たちなら真白にとって家族に等しい。
けれど。
「コウのお母さんたちじゃなくて良かったの?」
「まあ、帰る暇がないと思ってたからな」
「でも……」
「母さんたちなら、俺がお前を選んだってことだけで全部帳消しにするさ。これからサインもらいに行くとか、無理だしな」
「明日だったら――」
「待てない。これまで俺がどれまで待ったと思ってるんだ? 待つ必要なんか微塵もなかったと判った以上、もう一秒たりとも待たないからな」
そう言われると、無駄に待たせてしまった真白としては何も言えなくなる。
孝一が差し出すボールペンを受け取って、彼女はそこに自分の名前を記入し、判を押す。
役所に届を提出して家に辿り着いた頃には、もう真夜中も過ぎていた。
孝一が鍵を開けた部屋のドアを開こうとして、真白は手を押さえられる。
「コウ? ――!?」
肩越しに振り返ったところをふわりと横抱きにされて、真白は思わず孝一の首にしがみついた。彼は少し腰を屈めてドアノブを握り、真白を抱えたままでドアを開ける。
玄関に入った孝一は真白をシューズボックスに座らせ靴を脱がせた。そしてまた抱き上げると無造作に自分の靴を脱ぎ捨てリビングに向かう。
孝一の腕の中で揺られながら、真白は間近にある彼の顔をじっと見つめていた。
今の孝一は、とても近くにいる。
けれど真白にはそれでも何か物足りない気がした。
二人の距離が縮まるほどに、孝一の実家の前で彼に抱き締められていた時と同じように、もっと彼に近付きたいという気持ちが胸の奥から込み上げてくる。
もっと、近く。もっと、深く。
(だけど、どうしたらいいんだろう)
考える時間は、玄関からリビングまでの、ほんの数歩分しかなかった。
それしかないから、真白は焦る。
だから、リビングに着いてソファの上に下ろされそうになった時、彼の首に腕を回して引き寄せ唇を重ねたのは衝動に駆られてのことだった。
触れて、離れて、また触れる。
触れると、また触れたくなった。
「シロ?」
無心にキスを繰り返していた真白は、名前を呼ばれて我に返る。
「あ……」
パッと顔を離そうとしたけれど、頬を大きな手で包まれて引き止められた。
孝一は、鼻の先が触れ合いそうなほどの距離で彼女の目を覗き込んでくる。束の間そうしていてから、問うてきた。
「俺が欲しいのか?」
反射的にかぶりを振りそうになった真白は、寸でのところでとどまった。そうして、ほんの少し迷って、答えの代わりにまた唇を寄せる。
しばらく、孝一は真白のキスを受け取るだけだった。目を開けて彼女を見つめ、彼女が与えるものを受け取るだけ。
それが、唐突に一変する。
指一本動かそうとしない孝一にもどかしくなって離れようとした真白を、彼はグイと引き寄せた。そうして、真白がしていたようなものとは全く違う、貪るようなキスで彼女の息を奪う。
酸素が欲しくて真白が大きく喘いだ瞬間、飢えた舌が彼女の奥深くへと滑り込んできた。柔らかなそれが真白の上顎を、頬を、舌を撫でるたび、彼女の背筋にぞくぞくと甘い戦慄が走る。
深いキスにどっぷりと溺れていた真白は、ひやりとしたシーツの上に下ろされるまで、いつの間にか再び抱き上げられ運ばれていたことに気付かなかった。
巧みに真白の唇を貪り彼女の中の熱を掻き立てながら、孝一はどんどん真白の、そして自分の服を剥いでいく。真白はほとんどされるがままだったのに、あっという間に二人の素肌が直接触れ合うようになっていた。
露わになった真白の胸を、孝一が下からすくい上げるようにして包み込む。そこにほんの少し力が込められた時、彼女は思わず身じろぎした。
それに気付いた孝一が、眉をひそめる。
「どうした?」
「少し、痛いの……ちょっと前から」
「! 悪い」
パッと離れた彼の手を、真白は捉まえる。そうして、またそこへと導いた。
「痛い、けど、触って欲しいの」
赤らんでしまう顔を上げ、真白は孝一と目を合わせてそう伝えた。
束の間ためらって、孝一は彼女の膨らみをそっと包み込んだ。彼はほとんど撫でるだけというぐらいの力でやわやわとそれを揉み、親指で先端を刺激する。すぐにプクリと立ち上がったそこを親指と人差し指で摘ままれ、真白はとっさに唇を噛み締めた。
硬く尖った頂を優しく捻られるたび、そこからお腹の底まで電撃のような快感が走る。
「ふッ、ぅ」
下唇に、キリ、と歯が食い込んだ。
「シロ、噛むなといつも言っているだろう」
そう言って、孝一は唇を重ねてくる。噛んでいた下唇を舌でなぞられると、自然とそれを受け入れようとして顎が緩んだ。
最近いっそう敏感になっている胸の蕾を優しいけれども執拗にもてあそばれ、真白は身をよじる。すでに最高の快楽を覚えこまされている身体は、そこをいじられればより多くを求めてしまうようになっていた。
(もっと、欲しい)
唇を塞がれているから、言葉には出せない。
けれど、声には出ていない真白の懇願が重ね合わせた唇から伝わったのか、孝一の右手が胸から離れ、下へ、下へと彼女の身体のラインを辿っていく。
腰の丸みまで行くとそれは横へと動きを変えて、柔らかな茂みへと行き着いた。
孝一の指先が、焦らすように和毛を探る。
(触れて欲しい、のに)
もどかしくて無意識のうちに腰が揺れてしまう。
と、不意に、孝一が真白の唇を解放して、額と額を重ねて彼女の目を覗き込んできた。
「触れて欲しいか?」
まるで真白の心を読んだように、彼はそう問いかけてくる。
嘘は、つけなかった。
頬に血が上るのを感じながら、真白は彼を一心に見上げてこくりと頷く。
その密やかな懇願に、孝一が微かに笑みを浮かべた。そうして、止めていた手をまた動かし始める。
巧みな彼の指先は、胸への愛撫ですでに膨らみ始めていた茂みの奥の花芯をすぐに探し当てた。指の腹でゆっくりと円を描かれると、その動きに伴って真白の身体の奥でキリキリと快感のネジが巻かれていく。
「ここは、痛くないか?」
火照った真白の耳たぶを舌先でもてあそびながら、孝一が囁きかける。
「ん、ぅ、……ぁ、気持、ち、いい」
真白はどんどん膨らんでいく快楽にのどを詰まらせながら答えようとするけれど、まともな言葉にならない。
「いいならいいよ。溺れとけ」
そう囁いて、孝一は真白の首筋の脈打つところをキスで辿っていく。鎖骨の付け根を甘噛みし、チュクリと音を立てて吸った後、更に下へと進んだ。
胸の膨らみが始まるところまで行き着くと、彼の動きが一瞬止まる。
そうして、それまで数ミリ刻みでの移動だったものが一気に飛び、先ほど指での刺激を受けてから固くしこったままの蕾を包み込んだ。
「んぁッ」
とたんビリリと走った快感に、真白は小さな声とともにびくりと背を反らす。
孝一は先端だけをそっと歯で挟み、舌先で舐り、吸う。
右でそうして、今度は左に。
「あ、ぁ、ひ、や、ぁあん」
彼の頭が動くたび、真白の喉から声が漏れ、身体が勝手にヒクンと跳ねる。
その間も孝一の手は一瞬たりとも休むことなく彼女の熱を掻き立てた。
膨らみきった花芯を親指で撫でながら、彼は中指を彼女の中へと忍ばせる。とたんに、そこに湛えられていた蜜がトプリと溢れ出すのが真白にも感じられた。
外で疼く快楽の芽を絶え間なく刺激し続けながら、内側の良いところを的確に暴き出す。浅いところにある感じる場所を、彼の指先がグリグリと抉った。
「ぁ……あ、ん」
外と内から責め立てられて、もうぎりぎりのところまで引き絞られていた快感が一気に弾ける。
「ふぁ、ぁ、……ん、んん!」
真白の身体の中心がギュウと縮まり、快感の放出とともに全身がふわりと浮いた。身体中の力が抜けてしまったのに、内腿はガクガクと震える。勝手にヒクつく彼女の内部を味わうように孝一が指を出し入れするから、そのたびにビクンと背中が跳ねてしまう。
完全にそれが鎮まった頃、孝一の手はそっと離れていった。代わりに、もっと硬くて質量のあるものがそこに触れる。
いったん頭をもたげた孝一が、真白の目を見つめながらそっと唇を重ねてきた。チュ、チュ、と微かな音を立てながら何度もついばむようなキスを落とす。そうして、ゆっくりと彼女の中に分け入ってきた。
その動きはあまりに緩慢で、真白は自分の中に侵入してくる彼の存在をいつもよりもはっきりと感じてしまう。
もどかしいほどにジリジリと進んでようやく最奥まで辿り着くと、孝一はギュッと真白を抱き締め深々とため息をついた。
真白の身体の中心で、彼がドクンドクンと脈打っている。ぴたりと重ね合わせた胸からも、まるきり同じリズムが伝わってきた。彼女を抱き締めたきり彼が身じろぎ一つしないから、いっそうそれがはっきりと感じられる。
「シロ、口開けて」
唇を触れ合わせたままでの孝一のその言葉で、真白は自分が奥歯を食い締めていたことに気付く。
言われたように口を開くと、するりと彼の舌が忍び込んできた。
柔らかな舌が真白のそれと絡まり、口の中で密やかな水音が響く。
撫でる――愛撫するようなその動きに、彼を受け入れているもう一つの場所がキュッと縮まるのが判る。
とたん、孝一が低く呻いた。そうして、何かをこらえているかのように、ピタリと全ての動きを止める。
彼のいる最奥がなんだか疼いて、真白はもそもそと身じろぎした。けれどそれも、大きな両手で腰を掴まれて止められてしまう。
しばらくそうしていた後、孝一は重ねた唇の間からゆるゆると深い息を吐き出した。その息と一緒に彼女には聞き取れないほどの小さな呟きを漏らして、ようやく、動き出してくれる。
彼はゆっくりと真白の中から引いていき、いなくなってしまう寸前で、また戻ってくる――ゆっくりと。
何度も、何度も。
力強く突き上げてくることはなく、一番奥までそっと行き着くたびに孝一は優しく腰を揺らして、まだヒトの形を取っていない二人の子どもが眠る場所を愛撫する。
それは、真白の中から快感を引き出そうとするいつもの動きとは違っていた。
まるで、そうすることで、真白と、真白の中の存在を慈しんでいるようだった。
そうやって孝一が真白の奥深くに近づくたびに、性的な快楽だけではない、また別の何かを含んだ心地良さが彼女を隅々まで満たしていく。
(なんなのだろう、これは)
胸の奥から込み上げてくる何かに駆られて、真白は全身で孝一にしがみついた。その拍子にグッとつながりが深くなる。彼女が彼を求める気持ちに応じて、自分の中が彼に絡みつこうとするのが、判る。
結び付いているその場所から溶け合ってしまうのではないかと、真白は思った。
そうなったらいいのに、と真白は願った。
「コウ、コウ」
浮かされるように孝一を呼び、求める。彼はキスを重ねていた唇で微笑んだ。
「真白……真白、愛してる」
孝一の声で耳に届けられる自分の名前は、いつも特別なものに感じられる。特別な、宝物のように。
出逢った時から、彼は真白にたくさんのものを与えてくれた。
名前を呼べば、彼も彼女の名を呼び返してくれる。
抱き締めれば、彼女以上の力で、彼は抱き締め返してくれる。
真白には言い表すことのできない想いも、ちゃんと言葉にして返してくれる。
応えてもらえる、返してもらえる、ということは、こんなにも心地良い。
応えてもらえる、返してもらえる、ということは、心地良くて、満たしてくれて、安らぎを与えてくれる。
孝一は、それを教えてくれた。
「コウ、わたしも……わたしも――」
自分の胸の中にある想いを伝えようとしても、表す言葉が見つからない。
これも、『愛している』でいいのだろうか。
どうしようもなく求めてしまって何よりも大事で一緒にいるだけで安らげるこれが、『愛している』ということなのだろうか。
「わたしも――」
口ごもる真白の唇を、孝一のそれがそっと塞いだ。そうやって触れ合わせたまま、囁く。
「無理に言葉にしなくてもいい。俺にはちゃんと伝わっているから」
「ほんとう?」
本当に、全部伝わってくれているのだろうか。
(コウと逢えて、どれほどわたしが幸せになれたのかっていうことも、全部……?)
見上げれば、微笑みが返ってくる。
その微笑みに、またキュッと胸が締め付けられた。
そんな真白の顔に何を見たのか、孝一は小さく笑って動き出す。
初めのうちは、やっぱりゆっくりと、穏やかに。
それは次第に強く速くなっていって、やがて真白は身体の奥から溢れてくる快楽の波に呑まれ、孝一が与えてくれる全てのものに溺れていった。
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