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捨て猫が安らぐ日
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美鈴が真白の為に用意したのは、孝一とは別の部屋だった。
しかも、孝一は二階、彼女は一階――両親の部屋の隣、だ。
(もう一緒に住んでるってのに)
母親にもそれは伝えてあるのだが、けじめだから、と問答無用で部屋を分けられた。
その美鈴ももう寝室に引き取り、居間から引き上げた真白と孝一は彼が子どもの頃から過ごしてきた部屋にいる。
真白は本棚に並んだ本のタイトルを興味深そうに一つ一つ確かめながら、何を考えているのか、時折小さく首を傾げていた。ベッドに座ってその背中を眺める孝一は、何がそんなに彼女の興味を引いているのかと考える。
と、不意に、クルリと真白が振り返った。
「コウって、本好きなの?」
唐突な質問だ。
「まあ、それなりに」
「でも、あっちのお家にはほとんど置いてないよね」
「まあ、余分な場所がないし仕事してると読む時間もないしな」
肩をすくめて返すと、真白は「ふぅん」と小さく呟き、また本棚に向き直った。
そうして、細い指で文庫の背表紙を辿りながら、言う。
「わたし、ここの本、読んでみたいなぁ」
棚に置いているのは、ノンフィクション、あるいは洋物のアクションやらミステリーやらサスペンスやらが主だ。あまり、真白の年頃の少女が好むジャンルではないのではないだろうか。
そう思ったが、考えてみたら彼女が教科書や参考書以外の物を読んでいる場面は見たことがなかった気がする。
「そういうのが好きなのか?」
尋ねてみれば、真白は肩越しに彼を振り返りながらかぶりを振った。
「ううん。あんまり読んだことない」
「なら、帰ってから好きなヤツを買ったらいいだろう」
ここに置いてあるものは、孝一が学生だった頃のもの――つまりどれも十年以上前に出版されたものだ。個人的な趣味がどうの以前に、真白の年代とは合わないだろう。
しかし彼女はまた首を振った。
「ここにあるのがいい。だって、これってコウがわたしくらいの年の時に読んでたんでしょ?」
「ああ、まあ、そうなるかな」
「だから、ここにあるのを読みたいの。そうしたら、その頃のコウに逢ってる気持ちになれるかなって」
小さく首をかしげて窺うように言われたそのセリフを聴かされた時、孝一は思わず膝の上で頭を抱えた。
(くそまたこいつは可愛いことを)
正直、今はマズい。
すぐ下の階に両親が寝ているというのに、ナニができるというのか。
「コウ……? だいじょうぶ? 頭でも痛い?」
名前を呼ばれて目を上げると、真白は眉をひそめて彼を見ていた。
孝一は、指先でチョイチョイと真白を招いた。彼女は無防備にものこのこと近付いてくる。
目の前まで来た真白の手首を掴んで引っ張りながら、膝裏に腕を回してすくい上げた。
「きゃ!?」
孝一の膝の上に仰向けに寝転がされ、真白は一瞬ポカンと彼を見上げてくる。我に返って転げ落ちようとするより先に、左腕を回して彼女の両腕ごと抱きすくめた。
「コウ――」
彼の名前を呼んだ隙にすかさず唇を奪う。じらすこともせず、閉じかけていたそれを半ばこじ開けるようにして舌を挿し入れた。
真白の口内の柔らかなところを丹念に舐れば、緊張して強張っていた彼女の唇はすぐにいつものような柔らかさを取り戻す。孝一は、奥に逃げようとしていた小さな舌を捕らえて自分のそれと絡ませた。
「んんっ」
裏側の滑らかな部分を撫でるようにこすると、真白の喉の奥が鳴る。身体から力が抜けて、彼女の背中に回した孝一の腕に柔らかな重みが加わった。
すっかり身を預けてきた真白の唇に、軽い、ついばむようなキスを続けながら、右手を彼女の腿の内側に滑らせる。途端、ビクンと腕の中の身体が跳ねた。
「コウ、ダメ――」
孝一は慌てて身をよじる真白をギュッと腕の中に封じ込め、唇を触れ合わせたままで囁く。
「最後まではしない」
「そうじゃなくて、だって、下にご両親が……」
「大丈夫。口は塞いでおいてやるから」
「でも――っ!」
宣言通りに唇を奪い、抱き締めた腕に力を込めて抵抗を封じると、孝一は手を更に奥へと進ませた。
薄い布越しに触れるその場所は、キスだけでもじわりと潤い始めている。微かに膨らんだ敏感な芯を指の腹でこすると、彼の唇の下で真白がハッと息を呑むのが感じられた。
腿をきつくすり合わせた真白のささやかな抵抗に、孝一はひっそりと笑みを漏らす。器用に自分の脚を彼女のそれに絡ませて、完全には脚を閉じられなくしてやった。
孝一は、平らだがだいぶ柔らかくなってきた真白の下腹の感触を手のひらで味わってから、下着の中へと指先を滑り込ませる。和毛をくすぐるようにしながら探り、そこに隠れている真珠を探し当てた。
「ん、ふ、ぅ」
さっきは布越しに愛撫したそれを下から上へ撫で上げると、その動きに合わせて真白の背中が引きつる。軽くつまんで揉み解したり、そっとしごいたりしてやると、その度に白く細い喉が震える。漏れそうになる声は、舌と一緒に吸い上げた。
蕾を丹念に構ってやった後に花弁を開けば、奥から蜜が溢れ出してくる。
その蜜が孝一の指に絡んでクチュリと音を立てた。はっきりと聞こえた湿った音に、まるで叱られた子どものように真白は身をすくませる。
その反応が可愛くて、そして愉しい。
静かな室内にわざとそれを響かせてやると、羞恥と――多分期待で、彼女の唇がわなないた。
相変わらず素直な彼女の反応に、孝一は喉の奥で笑う。
キスを深めながら、孝一は彼を待ち受けるその深みへとそっと指を潜らせた。充血し、潤みきった真白の中は、呑み込むように彼の指を受け入れる。
孝一はしばらく浅いところで出し入れしてから、少し進んだ先にあるざらつくしこりをグリグリと指の腹で揉みしだいた。こうすると、いつも真白はあっという間にグズグズになる。
期待通り、彼女はピンと脚を跳ね上げ彼に縋り付いてきた。
「ッ! ん、んんッ」
真白の中から一層溢れ出してくる蜜は、孝一を欲しがっている証だ。まだ浅い所にいる彼の指を、もっと奥に来てくれと言わんばかりにキュウキュウと食い締めてくる。
真っ赤に染まった耳たぶを美味そうだと思ったが、キスをやめれば声が漏れてしまうだろう。耳たぶの代わりに舌を捕らえてしごくようにしゃぶってやると、飲み込み切れなかった唾液が一筋口角から零れ落ちる。
悶え身をよじる真白をきつく抱き締め、二本に増やした指を充分に解れた奥深くへと挿し入れた。その指に、彼女の中はまるでしゃぶっているかのように絡み付いてくる。
「ふ、ぁ……ッ」
追い込みをかける前に孝一は一度真白の唇を解放し、束の間の休息を与えた。
荒い息に合わせて、彼女の内側がヒクヒクと孝一の指を締め付けてくる。それに応えて動かしてしまいたくなるのを我慢して、つむじのあたりに唇を押し当てて彼女の息が整うのを待った。
「コ、ウ……?」
熱を帯び、潤みを湛えた目が、彼を見上げてくる。
それがねだっているように見えていることに、真白は気付いていないのだろう。
(ああ、やばいな、これは)
愛らし過ぎて、やばい。
本能という名の欲望に理性という名の縄をかけ、彼女の中に留めたままの指を動かさないように注意しつつ、孝一は、目蓋、こめかみ、耳の際にいくつもキスを落とした。
そうしているうちに、真白の息が次第に落ち着いてくる。
「は……ぁ」
ため息のような吐息をついて、力が抜けた細い身体がまたぐったりと孝一の腕にもたれてきた。その唇に唇を重ね、囁く。
「もう少し、だ」
「え……」
ぼんやりと彼を見つめてきた真白に小さく笑い、柔らかく綻びた唇をまた貪った。同時に、凍り付かせていた指の呪縛を解く。
奥の一点を突いた刹那、真白の全身がビクリと跳ねた。
「ひ、ぅ」
塞いだ口から微かに漏れた声を、舌で掬い取る。そうして、真白本人よりも知り尽くした彼女の中を弄び、一番感じるその場所を擦り上げた。
「ふ、ぁん」
喘いでのけぞる真白を引き戻して指と同じリズムで舌を動かす。
次第に孝一の指を包み込む真白の温もりがひくつき、蠕動を始めた。頂点を迎えようとしている前兆だ。もっともっととねだるように腰が揺らいでいるのは、無意識のものなのだろう。
孝一は緩急を付けて真白の快楽を煽る。
強くこすれば全身を突っ張り、そっと撫でればもどかし気に腰を揺らす。
何度となくそれを繰り返すうち、終わりは、不意に訪れた。
「は、ん、んぅ」
真白の全身が強張り、ピンと張り詰める。にも拘らず彼女の中は激しくうごめき、孝一の指をきつく食い締めてきた。うねる粘膜は孝一の指をもっと奥に引き込もうとしているかのようだった。最後の快楽を目一杯引き延ばしてやろうと指の動きを激しくすれば、真白の細い内腿がワナワナと震える。キュッと閉じられた眦からは涙が零れ落ち、火照った頬を転がっていった。
やがて真白は孝一の腕の中でグッタリと脱力したが、ほんの少し彼がその指を動かすだけで、まるで電気が走ったかのようにヒクリと痙攣する。
孝一は真白の中からゆっくりと指を引き抜いて、そっとその背を抱き寄せた。こめかみに唇を押し当て彼女の荒い息と震えが鎮まるのを待つ。
十分ほどが過ぎた頃だろうか。
「――って言ったのに……」
胸元から、恨めし気な声が聞こえてくる。
「え?」
少し身体を離すと、真白がジトリと睨んできた。
「ダメって、言ったのに」
まだ若干涙目だ。
「悪いな、つい」
「つい、じゃないよ、もう」
ちょっと本気で怒らせたかもしれない。
孝一は彼女の耳にキスをして、もう一度謝る。
「ごめん。お前が可愛いこと言うから」
「わたしが? 何?」
「ほら、昔の俺に会ってる気になる、とか」
「なんでそれでそうなるの」
真白は怒り半分、呆れ半分、という感じだ。膨れた頬にまたキスを落とし、孝一は付け加える。
「いや、俺がお前と同じくらいの年で出逢ってれば、こうやってここで色々してたんだよなぁ、と」
そう言って、彼はふと気付いた。
同じくらいの年の男と付き合っていれば経験できている筈の多くのことを、真白は手に入れ損なっているのだということに。
いくら孝一でも、学生の頃は女性と付き合うのに一定の手順を踏んでいた。
相手からのアプローチばかりではあったが、一応、付き合い始めてしばらくはキス止まり、数回のデートを経てベッドに至る、という、それなりの手間を掛けたのだ。
だが、真白とは、初っ端っからベッドで始めてしまった。
恋人同士となってからでも、仕事があるからろくにデートもしてやれていない。食事に連れて行ってやるのではなく、日々、食事を作ってもらっているのだ。
今更だ。
今更だが――
「お前さ、もっと友達と遊びに行けよ。ほら、バイト先の、誰だっけ?」
「五十嵐君と篠原さん?」
五十嵐の名前が出てきて一瞬怯んだが、孝一は何とか頷く。
「ああ、そう、その子」
「何で急に?」
訝し気に眉間にしわを寄せて、真白が首を傾げた。
「お前はあんまり子ども時代ってのがなかっただろう? 今からでもいいから、もっと好きなこととか楽しいこととか、しろよ」
何なら、その篠原とやらとどこかに泊りにでも――と頭の中をよぎったが、すぐにそれは打ち消した。仕事から帰ってきて真白の出迎えがないなど、耐えられない。出張で帰れない時などは一緒に連れて行ってしまいたいくらいなのだから。
(どうしようもないな、俺は)
我が身の狭量さを胸中で罵る孝一に、真白が口を尖らせた。
「わたし、孝一のことやるの好きだし楽しいよ?」
そう言ってから、ふと不安げに眉根を寄せる。
「でも……もしかして、うっとうしい?」
「はあ?」
「わたし、ベタベタし過ぎる?」
思わず、マジマジとその真顔を見つめてしまった。
真白との日常で、『ベタベタし過ぎ』など有り得ない。むしろ、頼むからもっと甘えてきてくれと言いたい。
孝一は真白を抱き寄せ、彼女の丸い頭に顎をのせ、思い切りため息をつく。
「……コウ?」
心配そうな、けれども何も解かっていないらしい彼女の呼び掛けに、答える言葉がなかった。
もう少し、日々の対応を見直さなければいけないかもしれない。
外で待ち合わせて食事や映画に行ったりとか、ちょっと遠出をしてみたりとか。
その為には――
「子どもはまだいいや」
真白とのつながりを確かなものにする為にも早く子どもができればいいと思っていたが、その前にごく普通の『恋人』気分をもっと味合わせてやるべきなのだろう。
そんなふうに決意を新たにした孝一の腕の中で、何も解かっていないだろう真白が小さく身じろぎをした。
しかも、孝一は二階、彼女は一階――両親の部屋の隣、だ。
(もう一緒に住んでるってのに)
母親にもそれは伝えてあるのだが、けじめだから、と問答無用で部屋を分けられた。
その美鈴ももう寝室に引き取り、居間から引き上げた真白と孝一は彼が子どもの頃から過ごしてきた部屋にいる。
真白は本棚に並んだ本のタイトルを興味深そうに一つ一つ確かめながら、何を考えているのか、時折小さく首を傾げていた。ベッドに座ってその背中を眺める孝一は、何がそんなに彼女の興味を引いているのかと考える。
と、不意に、クルリと真白が振り返った。
「コウって、本好きなの?」
唐突な質問だ。
「まあ、それなりに」
「でも、あっちのお家にはほとんど置いてないよね」
「まあ、余分な場所がないし仕事してると読む時間もないしな」
肩をすくめて返すと、真白は「ふぅん」と小さく呟き、また本棚に向き直った。
そうして、細い指で文庫の背表紙を辿りながら、言う。
「わたし、ここの本、読んでみたいなぁ」
棚に置いているのは、ノンフィクション、あるいは洋物のアクションやらミステリーやらサスペンスやらが主だ。あまり、真白の年頃の少女が好むジャンルではないのではないだろうか。
そう思ったが、考えてみたら彼女が教科書や参考書以外の物を読んでいる場面は見たことがなかった気がする。
「そういうのが好きなのか?」
尋ねてみれば、真白は肩越しに彼を振り返りながらかぶりを振った。
「ううん。あんまり読んだことない」
「なら、帰ってから好きなヤツを買ったらいいだろう」
ここに置いてあるものは、孝一が学生だった頃のもの――つまりどれも十年以上前に出版されたものだ。個人的な趣味がどうの以前に、真白の年代とは合わないだろう。
しかし彼女はまた首を振った。
「ここにあるのがいい。だって、これってコウがわたしくらいの年の時に読んでたんでしょ?」
「ああ、まあ、そうなるかな」
「だから、ここにあるのを読みたいの。そうしたら、その頃のコウに逢ってる気持ちになれるかなって」
小さく首をかしげて窺うように言われたそのセリフを聴かされた時、孝一は思わず膝の上で頭を抱えた。
(くそまたこいつは可愛いことを)
正直、今はマズい。
すぐ下の階に両親が寝ているというのに、ナニができるというのか。
「コウ……? だいじょうぶ? 頭でも痛い?」
名前を呼ばれて目を上げると、真白は眉をひそめて彼を見ていた。
孝一は、指先でチョイチョイと真白を招いた。彼女は無防備にものこのこと近付いてくる。
目の前まで来た真白の手首を掴んで引っ張りながら、膝裏に腕を回してすくい上げた。
「きゃ!?」
孝一の膝の上に仰向けに寝転がされ、真白は一瞬ポカンと彼を見上げてくる。我に返って転げ落ちようとするより先に、左腕を回して彼女の両腕ごと抱きすくめた。
「コウ――」
彼の名前を呼んだ隙にすかさず唇を奪う。じらすこともせず、閉じかけていたそれを半ばこじ開けるようにして舌を挿し入れた。
真白の口内の柔らかなところを丹念に舐れば、緊張して強張っていた彼女の唇はすぐにいつものような柔らかさを取り戻す。孝一は、奥に逃げようとしていた小さな舌を捕らえて自分のそれと絡ませた。
「んんっ」
裏側の滑らかな部分を撫でるようにこすると、真白の喉の奥が鳴る。身体から力が抜けて、彼女の背中に回した孝一の腕に柔らかな重みが加わった。
すっかり身を預けてきた真白の唇に、軽い、ついばむようなキスを続けながら、右手を彼女の腿の内側に滑らせる。途端、ビクンと腕の中の身体が跳ねた。
「コウ、ダメ――」
孝一は慌てて身をよじる真白をギュッと腕の中に封じ込め、唇を触れ合わせたままで囁く。
「最後まではしない」
「そうじゃなくて、だって、下にご両親が……」
「大丈夫。口は塞いでおいてやるから」
「でも――っ!」
宣言通りに唇を奪い、抱き締めた腕に力を込めて抵抗を封じると、孝一は手を更に奥へと進ませた。
薄い布越しに触れるその場所は、キスだけでもじわりと潤い始めている。微かに膨らんだ敏感な芯を指の腹でこすると、彼の唇の下で真白がハッと息を呑むのが感じられた。
腿をきつくすり合わせた真白のささやかな抵抗に、孝一はひっそりと笑みを漏らす。器用に自分の脚を彼女のそれに絡ませて、完全には脚を閉じられなくしてやった。
孝一は、平らだがだいぶ柔らかくなってきた真白の下腹の感触を手のひらで味わってから、下着の中へと指先を滑り込ませる。和毛をくすぐるようにしながら探り、そこに隠れている真珠を探し当てた。
「ん、ふ、ぅ」
さっきは布越しに愛撫したそれを下から上へ撫で上げると、その動きに合わせて真白の背中が引きつる。軽くつまんで揉み解したり、そっとしごいたりしてやると、その度に白く細い喉が震える。漏れそうになる声は、舌と一緒に吸い上げた。
蕾を丹念に構ってやった後に花弁を開けば、奥から蜜が溢れ出してくる。
その蜜が孝一の指に絡んでクチュリと音を立てた。はっきりと聞こえた湿った音に、まるで叱られた子どものように真白は身をすくませる。
その反応が可愛くて、そして愉しい。
静かな室内にわざとそれを響かせてやると、羞恥と――多分期待で、彼女の唇がわなないた。
相変わらず素直な彼女の反応に、孝一は喉の奥で笑う。
キスを深めながら、孝一は彼を待ち受けるその深みへとそっと指を潜らせた。充血し、潤みきった真白の中は、呑み込むように彼の指を受け入れる。
孝一はしばらく浅いところで出し入れしてから、少し進んだ先にあるざらつくしこりをグリグリと指の腹で揉みしだいた。こうすると、いつも真白はあっという間にグズグズになる。
期待通り、彼女はピンと脚を跳ね上げ彼に縋り付いてきた。
「ッ! ん、んんッ」
真白の中から一層溢れ出してくる蜜は、孝一を欲しがっている証だ。まだ浅い所にいる彼の指を、もっと奥に来てくれと言わんばかりにキュウキュウと食い締めてくる。
真っ赤に染まった耳たぶを美味そうだと思ったが、キスをやめれば声が漏れてしまうだろう。耳たぶの代わりに舌を捕らえてしごくようにしゃぶってやると、飲み込み切れなかった唾液が一筋口角から零れ落ちる。
悶え身をよじる真白をきつく抱き締め、二本に増やした指を充分に解れた奥深くへと挿し入れた。その指に、彼女の中はまるでしゃぶっているかのように絡み付いてくる。
「ふ、ぁ……ッ」
追い込みをかける前に孝一は一度真白の唇を解放し、束の間の休息を与えた。
荒い息に合わせて、彼女の内側がヒクヒクと孝一の指を締め付けてくる。それに応えて動かしてしまいたくなるのを我慢して、つむじのあたりに唇を押し当てて彼女の息が整うのを待った。
「コ、ウ……?」
熱を帯び、潤みを湛えた目が、彼を見上げてくる。
それがねだっているように見えていることに、真白は気付いていないのだろう。
(ああ、やばいな、これは)
愛らし過ぎて、やばい。
本能という名の欲望に理性という名の縄をかけ、彼女の中に留めたままの指を動かさないように注意しつつ、孝一は、目蓋、こめかみ、耳の際にいくつもキスを落とした。
そうしているうちに、真白の息が次第に落ち着いてくる。
「は……ぁ」
ため息のような吐息をついて、力が抜けた細い身体がまたぐったりと孝一の腕にもたれてきた。その唇に唇を重ね、囁く。
「もう少し、だ」
「え……」
ぼんやりと彼を見つめてきた真白に小さく笑い、柔らかく綻びた唇をまた貪った。同時に、凍り付かせていた指の呪縛を解く。
奥の一点を突いた刹那、真白の全身がビクリと跳ねた。
「ひ、ぅ」
塞いだ口から微かに漏れた声を、舌で掬い取る。そうして、真白本人よりも知り尽くした彼女の中を弄び、一番感じるその場所を擦り上げた。
「ふ、ぁん」
喘いでのけぞる真白を引き戻して指と同じリズムで舌を動かす。
次第に孝一の指を包み込む真白の温もりがひくつき、蠕動を始めた。頂点を迎えようとしている前兆だ。もっともっととねだるように腰が揺らいでいるのは、無意識のものなのだろう。
孝一は緩急を付けて真白の快楽を煽る。
強くこすれば全身を突っ張り、そっと撫でればもどかし気に腰を揺らす。
何度となくそれを繰り返すうち、終わりは、不意に訪れた。
「は、ん、んぅ」
真白の全身が強張り、ピンと張り詰める。にも拘らず彼女の中は激しくうごめき、孝一の指をきつく食い締めてきた。うねる粘膜は孝一の指をもっと奥に引き込もうとしているかのようだった。最後の快楽を目一杯引き延ばしてやろうと指の動きを激しくすれば、真白の細い内腿がワナワナと震える。キュッと閉じられた眦からは涙が零れ落ち、火照った頬を転がっていった。
やがて真白は孝一の腕の中でグッタリと脱力したが、ほんの少し彼がその指を動かすだけで、まるで電気が走ったかのようにヒクリと痙攣する。
孝一は真白の中からゆっくりと指を引き抜いて、そっとその背を抱き寄せた。こめかみに唇を押し当て彼女の荒い息と震えが鎮まるのを待つ。
十分ほどが過ぎた頃だろうか。
「――って言ったのに……」
胸元から、恨めし気な声が聞こえてくる。
「え?」
少し身体を離すと、真白がジトリと睨んできた。
「ダメって、言ったのに」
まだ若干涙目だ。
「悪いな、つい」
「つい、じゃないよ、もう」
ちょっと本気で怒らせたかもしれない。
孝一は彼女の耳にキスをして、もう一度謝る。
「ごめん。お前が可愛いこと言うから」
「わたしが? 何?」
「ほら、昔の俺に会ってる気になる、とか」
「なんでそれでそうなるの」
真白は怒り半分、呆れ半分、という感じだ。膨れた頬にまたキスを落とし、孝一は付け加える。
「いや、俺がお前と同じくらいの年で出逢ってれば、こうやってここで色々してたんだよなぁ、と」
そう言って、彼はふと気付いた。
同じくらいの年の男と付き合っていれば経験できている筈の多くのことを、真白は手に入れ損なっているのだということに。
いくら孝一でも、学生の頃は女性と付き合うのに一定の手順を踏んでいた。
相手からのアプローチばかりではあったが、一応、付き合い始めてしばらくはキス止まり、数回のデートを経てベッドに至る、という、それなりの手間を掛けたのだ。
だが、真白とは、初っ端っからベッドで始めてしまった。
恋人同士となってからでも、仕事があるからろくにデートもしてやれていない。食事に連れて行ってやるのではなく、日々、食事を作ってもらっているのだ。
今更だ。
今更だが――
「お前さ、もっと友達と遊びに行けよ。ほら、バイト先の、誰だっけ?」
「五十嵐君と篠原さん?」
五十嵐の名前が出てきて一瞬怯んだが、孝一は何とか頷く。
「ああ、そう、その子」
「何で急に?」
訝し気に眉間にしわを寄せて、真白が首を傾げた。
「お前はあんまり子ども時代ってのがなかっただろう? 今からでもいいから、もっと好きなこととか楽しいこととか、しろよ」
何なら、その篠原とやらとどこかに泊りにでも――と頭の中をよぎったが、すぐにそれは打ち消した。仕事から帰ってきて真白の出迎えがないなど、耐えられない。出張で帰れない時などは一緒に連れて行ってしまいたいくらいなのだから。
(どうしようもないな、俺は)
我が身の狭量さを胸中で罵る孝一に、真白が口を尖らせた。
「わたし、孝一のことやるの好きだし楽しいよ?」
そう言ってから、ふと不安げに眉根を寄せる。
「でも……もしかして、うっとうしい?」
「はあ?」
「わたし、ベタベタし過ぎる?」
思わず、マジマジとその真顔を見つめてしまった。
真白との日常で、『ベタベタし過ぎ』など有り得ない。むしろ、頼むからもっと甘えてきてくれと言いたい。
孝一は真白を抱き寄せ、彼女の丸い頭に顎をのせ、思い切りため息をつく。
「……コウ?」
心配そうな、けれども何も解かっていないらしい彼女の呼び掛けに、答える言葉がなかった。
もう少し、日々の対応を見直さなければいけないかもしれない。
外で待ち合わせて食事や映画に行ったりとか、ちょっと遠出をしてみたりとか。
その為には――
「子どもはまだいいや」
真白とのつながりを確かなものにする為にも早く子どもができればいいと思っていたが、その前にごく普通の『恋人』気分をもっと味合わせてやるべきなのだろう。
そんなふうに決意を新たにした孝一の腕の中で、何も解かっていないだろう真白が小さく身じろぎをした。
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