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愛猫日記
彼と彼女と彼④
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夕食を終えた憩いのひと時、テレビのチャンネルを適当に変えていた孝一は、視線を感じてその手を止めた。そうして、リモコンを放り出すと隣へと目を移す。
「何か言いたいことでもあるのか?」
見つめてきていたのは、当然真白だ。今日の彼女はもともと少ない口数を更に減らして、その目で何かを訴えてきていた。
問い掛けた孝一に、彼女はぱちりと瞬きをする。何でわかったの、と言わんばかりに。
「気付かないわけないだろう? 何なんだ?」
「その……」
再度問い掛けた孝一に、真白は言い淀む。
真白が『おねだり』することは滅多にない。物を欲しがるとしたら、必要最低限の日用品がせいぜいだ。物でなければしたいことでもあるのだろうが、前回のそれはアルバイトだった。
(まさか、他にバイトを増やしたいとかじゃないよな?)
内心で呟き渋面になった孝一に、真白は少し困ったような顔になった。そうして、ようやく切り出す。
「えっと……バイトで、ね、来週の金曜日、ちょっと時間をずらして出て欲しいんだって」
(ずらして?)
孝一は眉をひそめて確認する。
「延長というわけじゃないのか?」
「あ、うん。来週の金曜日の一日だけ、昼の十二時から夕方の六時までできないかって、店長さんが」
「六時……」
渋い顔で繰り返した孝一を、真白がすがるような眼差しで覗き込んでくる。
「ダメ?」
六時という時間は、気に入らない。だが、真白も小学生ではないのだ。ここは不満を呑み込んで許してやるのが大人の対応というものだろう。
不承不承、心底から不承不承、孝一はそう自分を納得させる。
「その日だけなんだな?」
「うん」
コクリと頷く真白。並んで座れば、当然彼女の方が孝一を見上げる形になる。
(そのアングルは、卑怯だ)
決して真白が企んだわけではないのは解かっているが、好きな女に上目遣いでねだるような眼差しを注がれて拒める男がいるものか。
「――わかった」
「いいの?」
一度目は、若干疑っている声音で返ってくる。
「いいよ。その日だけなら」
二度目は、パッと彼女の顔が笑顔になった。
「良かった!」
心の底から嬉しそうなその笑みに、孝一の胸中は少々複雑だった。真白がこれほどあけすけに喜びを見せることは、あまりないからだ。微妙に面白くない気持ちで両腕を開くと、彼女はすぐに彼の胸に飛び込んできた。
「絶対、ダメって言われると思ってた」
ほぼ断定する真白のその台詞には応えずに、孝一は無言で彼女の背中に回した両手を組んだ。そんな彼の胸に頬をすり寄せて、真白が言う。
「お夕飯はちゃんと作るから。だいじょうぶ、コウには迷惑かけないよ」
「そういう理由で駄目出しするわけじゃないんだけどな」
「え?」
孝一のボヤキに、彼の胸元から顔を上げた真白が目を丸くする。
(何というか、イマイチ、自分自身が求められてるってことが解かってないんだよな、こいつは)
孝一は真白の腰の辺りに置いていた手を彼女の頬に移す。彼が顔を寄せれば真白は自然と目を閉じ柔らかな唇を開くけれど、時折、こうやって触れることを彼女が喜んでいるのかどうか、彼の自信が揺らぐことがある。
抱けば真白に快楽を与えることができているのは、判る。だが、それで彼女を本当に満ち足りさせてやれているのだろうか。
繰り返し触れるだけのキスから唇を離して、少しトロンとした彼女の目を覗き込む。
「お前は、俺のことが好きだよな?」
「うん、好き。大好き」
打てば響くように返ってくる言葉は迷いが無さ過ぎて、孝一は逆に不安になる。ただ、彼が発した言葉をおうむ返しにしているだけではなかろうかと思ってしまって。
弱気な自分は、まるで知らない別人のようだ。
無意識に苦笑を漏らした孝一に、真白が首をかしげる。
「コウ?」
「何でもないよ」
そう告げて、孝一は彼女の疑問を払拭するように深々と口づけた。真白の柔らかで滑らかな舌を絡め取り、その裏をなぞる。
「ん、ふぅっ」
鼻から洩れるような吐息をこぼし、真白の背筋がビクビクと震えた。シャツの中に手を挿し入れて触れた素肌は、しっとりと汗ばんでいる。
「んんッ」
背骨に沿って撫で上げると、彼女は身をよじって逃げそうになった。孝一は、腰に回したもう一方の手で、それを阻止する。
ふと、少し真白をいじめてやりたくなった。
「舌、伸ばしてみろよ」
ほんの少し唇を浮かせてその隙間で囁くと、ボウッとした眼差しで真白が見返してくる。
「え?」
わずかな戸惑いと共に問い返してきた彼女の上気した頬は、思わず齧りたくなってしまう艶やかさだ。
「舌、伸ばして。お前の望みを聞いてやったんだから、今度は俺の望みを聞いてくれよ」
真白が恥ずかしがるのは、わかっている。恥ずかしがりながらも彼の言葉に従う姿を見たいと思うのは、悪趣味が過ぎるだろうか。
待たされたのは、そう長いことではなかった。
真白が目を伏せ、おずおずと唇の間から舌を覗かせる。
「口も開けて」
耳に吐息を吹き込むように囁くと、彼女の頬は更に赤みを増した。そうして、孝一が命じたとおりにする。
「上出来」
小さく笑って、控えめに差し出されたそれを甘噛みした。次の瞬間ビクリと顎を引いた真白に、わざと眉をしかめて見せる。
「駄目だろう?」
「あ……ごめんなさ……」
真っ赤な顔で謝ろうとする真白の頬に、孝一は背中をなぞっていた手を添える。そうして親指でゆっくりと下唇を辿ってから、そっと唇の間に、そしてさらにその奥に差し入れた。
「ん……」
親指の腹で舌を弄ぶと、真白の喉から甘い声が漏れる。彼女の腰の上に置いたままの孝一の手に、もどかしげに身じろぎするのが感じられた。
「物足りないか?」
そう問うと、恥ずかしげに目を伏せる。
「答えないなら、何もやらないよ。……俺が欲しい?」
真白の口の中のやわらかさを味わうように指を動かしながら、額を触れ合わせて孝一はもう一度問う。その額が、微かに上下した。
彼は立ち上がりながら片手を真白の腿の後ろに滑らせて、殆ど肩に担ぐようにして抱き上げる。そうしてリビングの灯りを消すと、寝室へと向かった。
「何か言いたいことでもあるのか?」
見つめてきていたのは、当然真白だ。今日の彼女はもともと少ない口数を更に減らして、その目で何かを訴えてきていた。
問い掛けた孝一に、彼女はぱちりと瞬きをする。何でわかったの、と言わんばかりに。
「気付かないわけないだろう? 何なんだ?」
「その……」
再度問い掛けた孝一に、真白は言い淀む。
真白が『おねだり』することは滅多にない。物を欲しがるとしたら、必要最低限の日用品がせいぜいだ。物でなければしたいことでもあるのだろうが、前回のそれはアルバイトだった。
(まさか、他にバイトを増やしたいとかじゃないよな?)
内心で呟き渋面になった孝一に、真白は少し困ったような顔になった。そうして、ようやく切り出す。
「えっと……バイトで、ね、来週の金曜日、ちょっと時間をずらして出て欲しいんだって」
(ずらして?)
孝一は眉をひそめて確認する。
「延長というわけじゃないのか?」
「あ、うん。来週の金曜日の一日だけ、昼の十二時から夕方の六時までできないかって、店長さんが」
「六時……」
渋い顔で繰り返した孝一を、真白がすがるような眼差しで覗き込んでくる。
「ダメ?」
六時という時間は、気に入らない。だが、真白も小学生ではないのだ。ここは不満を呑み込んで許してやるのが大人の対応というものだろう。
不承不承、心底から不承不承、孝一はそう自分を納得させる。
「その日だけなんだな?」
「うん」
コクリと頷く真白。並んで座れば、当然彼女の方が孝一を見上げる形になる。
(そのアングルは、卑怯だ)
決して真白が企んだわけではないのは解かっているが、好きな女に上目遣いでねだるような眼差しを注がれて拒める男がいるものか。
「――わかった」
「いいの?」
一度目は、若干疑っている声音で返ってくる。
「いいよ。その日だけなら」
二度目は、パッと彼女の顔が笑顔になった。
「良かった!」
心の底から嬉しそうなその笑みに、孝一の胸中は少々複雑だった。真白がこれほどあけすけに喜びを見せることは、あまりないからだ。微妙に面白くない気持ちで両腕を開くと、彼女はすぐに彼の胸に飛び込んできた。
「絶対、ダメって言われると思ってた」
ほぼ断定する真白のその台詞には応えずに、孝一は無言で彼女の背中に回した両手を組んだ。そんな彼の胸に頬をすり寄せて、真白が言う。
「お夕飯はちゃんと作るから。だいじょうぶ、コウには迷惑かけないよ」
「そういう理由で駄目出しするわけじゃないんだけどな」
「え?」
孝一のボヤキに、彼の胸元から顔を上げた真白が目を丸くする。
(何というか、イマイチ、自分自身が求められてるってことが解かってないんだよな、こいつは)
孝一は真白の腰の辺りに置いていた手を彼女の頬に移す。彼が顔を寄せれば真白は自然と目を閉じ柔らかな唇を開くけれど、時折、こうやって触れることを彼女が喜んでいるのかどうか、彼の自信が揺らぐことがある。
抱けば真白に快楽を与えることができているのは、判る。だが、それで彼女を本当に満ち足りさせてやれているのだろうか。
繰り返し触れるだけのキスから唇を離して、少しトロンとした彼女の目を覗き込む。
「お前は、俺のことが好きだよな?」
「うん、好き。大好き」
打てば響くように返ってくる言葉は迷いが無さ過ぎて、孝一は逆に不安になる。ただ、彼が発した言葉をおうむ返しにしているだけではなかろうかと思ってしまって。
弱気な自分は、まるで知らない別人のようだ。
無意識に苦笑を漏らした孝一に、真白が首をかしげる。
「コウ?」
「何でもないよ」
そう告げて、孝一は彼女の疑問を払拭するように深々と口づけた。真白の柔らかで滑らかな舌を絡め取り、その裏をなぞる。
「ん、ふぅっ」
鼻から洩れるような吐息をこぼし、真白の背筋がビクビクと震えた。シャツの中に手を挿し入れて触れた素肌は、しっとりと汗ばんでいる。
「んんッ」
背骨に沿って撫で上げると、彼女は身をよじって逃げそうになった。孝一は、腰に回したもう一方の手で、それを阻止する。
ふと、少し真白をいじめてやりたくなった。
「舌、伸ばしてみろよ」
ほんの少し唇を浮かせてその隙間で囁くと、ボウッとした眼差しで真白が見返してくる。
「え?」
わずかな戸惑いと共に問い返してきた彼女の上気した頬は、思わず齧りたくなってしまう艶やかさだ。
「舌、伸ばして。お前の望みを聞いてやったんだから、今度は俺の望みを聞いてくれよ」
真白が恥ずかしがるのは、わかっている。恥ずかしがりながらも彼の言葉に従う姿を見たいと思うのは、悪趣味が過ぎるだろうか。
待たされたのは、そう長いことではなかった。
真白が目を伏せ、おずおずと唇の間から舌を覗かせる。
「口も開けて」
耳に吐息を吹き込むように囁くと、彼女の頬は更に赤みを増した。そうして、孝一が命じたとおりにする。
「上出来」
小さく笑って、控えめに差し出されたそれを甘噛みした。次の瞬間ビクリと顎を引いた真白に、わざと眉をしかめて見せる。
「駄目だろう?」
「あ……ごめんなさ……」
真っ赤な顔で謝ろうとする真白の頬に、孝一は背中をなぞっていた手を添える。そうして親指でゆっくりと下唇を辿ってから、そっと唇の間に、そしてさらにその奥に差し入れた。
「ん……」
親指の腹で舌を弄ぶと、真白の喉から甘い声が漏れる。彼女の腰の上に置いたままの孝一の手に、もどかしげに身じろぎするのが感じられた。
「物足りないか?」
そう問うと、恥ずかしげに目を伏せる。
「答えないなら、何もやらないよ。……俺が欲しい?」
真白の口の中のやわらかさを味わうように指を動かしながら、額を触れ合わせて孝一はもう一度問う。その額が、微かに上下した。
彼は立ち上がりながら片手を真白の腿の後ろに滑らせて、殆ど肩に担ぐようにして抱き上げる。そうしてリビングの灯りを消すと、寝室へと向かった。
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