捨て猫を拾った日

トウリン

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捨て猫が懐いた日

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 使いの者が、その家人から聞いた御話によると、いつものように通い渡らせようとした矢先、俄に卒倒してそのまま帰らぬ人になったそうです。
 お疲れを隠せなかったそうです。
 思い詰めた御貌だったそうです。
 もしそうなら、それは、わたしが殺したようなものです。
 あのような過酷な仕打ちを、都の優男が、堪えられる筈などなかったのです。わたしはそれを承知のうえで、無理難題を押し通したのです。だから、このような結果を招いたのだ、と。

 ああ、わたしは鬼だ。

 天魔の所業を犯してしもうた。

 人の生命を玩んでおきながら、何が美貌か、何が花か。もはや人の世の幸せを望むことなど許されるものではござりません。

 ああ……見よ、この鏡に写る素顔を。

 苦悶に歪むわたしの顔は、断じて美しくはない。

 例えようもなく醜悪なその顔。

 これを美貌という者など、断じて世になどおるものか。

 もうわたしは、男に持て囃される存在ではありません。
 そうであってはならないのです。
 決して許されぬ罪を背負って、わたしは花の仮面を散り捨てなければなりません。そして、残された枯れ果てる刻を、独りで彷徨うことになるのです。

 この日、わたしは人知れず山科の屋敷を出で、二度と戻ることはござりませんでした。
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