捨て猫を拾った日

トウリン

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捨て猫を拾った日

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 真白ましろの身体を包んでいたバスタオルをはだけると、微かに彼女は身震いした。

「寒いか?」
 そう訊いた孝一こういちに、真白は小さく首を振る。

(怖い、のか?)
 胸の内でそう問いかけ、その途端、彼女の中に無理やり押し入った時の感触がよみがえり、孝一は心臓を冷たい手で握られたような心持ちになる。

「悪かった」
 謝る言葉に、真白が不思議そうな顔をする。孝一はその頬を両手で包み、唇にキスを落とした。

 謝罪、あるいは宥めるつもりで始めた口付けは、次第に熱がこもり始める。
「ふぁっ」
 息継ぎに口を開いた真白に、孝一はすかさずキスを深める。舌と舌が触れ合うと一瞬彼女はビクリとそれを奥へと引っ込めたが、追いかけて絡め取ればそれ以上抗うことなく差し出してくる。
 孝一はまだ湿っている真白の髪に片手を挿し入れながら、もう片方の手でシャツを脱ぎ捨てる。触れ合う素肌の温かさに、酔いそうになった。
 空いた手を、細い腰の柔らかな皮膚に置く。

「んんッ」
 そっと撫でると真白の全身がビクビクと震え、くすぐったさに喉を鳴らした彼女は身をよじって逃れようとする。孝一は膝で真白の脚を割ってその間に入り込み、彼自身の身体を使って押さえ込んだ。
 脇腹から手を滑らせ、小振りなふくらみを包み込む。その先端は固く立ち上がっていて、彼の手のひらに確かな感触を伝えてきた。

 強く吸い上げた真白の舌を軽く食みながら、孝一はしこった胸の先端を親指と人差し指で摘まむ。
「ぅんッ」
 背を反らせた真白の下腹が、彼の腹部に強く押し付けられた。柔らかな茂みにくすぐられ、ぞくぞくと腰があわ立つ。一点に血液が集まり痛いほどに身体が張り詰めていくのが判ったが、己の欲望を充足させるのは、まだまだ先のことだった。

 深く口付けたまま薄紅色に染まった突起を指先で転がすと、真白が喉の奥でしゃくり上げるのが感じられた。その震えが愛おしくてたまらない。
 ふ、と口を解放してやると、真白は堪えていたかのように、何度も荒い息を繰り返した。

「……苦しかったか?」
 孝一の問いに、真白は息を切らしつつ無言で何度も頷いた。
 あれだけキスをしてきたというのに、いまだに息継ぎのタイミングがつかめないらしい。
 苦笑混じりに孝一は彼女の唇を諦める。代わりに耳のすぐ下の柔らかい場所からトクトクと拍動するラインを舌で辿った。

「やっ……」
 真白が生きている、その徴候を感じながら痕が残るほどに強く吸うと、彼女はヒクリと首を竦ませる。構わず、孝一は首筋、喉のくぼみ、胸のふくらみ……と紅い花を散らしていく。次へと移る前に紅く染まった場所へと舌を這わせると、その都度彼女は甘いすすり泣きと共に身体を震わせた。
「も、だめ……そんなに、吸わないで……」
 か細い声に目を上げれば、真白はいつものように両手で口を覆って涙目で彼を見下ろしていた。
「痛いか?」
「痛くはない、けど……何か、ジンジンする……」
 そう言いながら、真白は微かに腰をもぞもぞと動かした。
「へえ?」
 苦痛でないのならば、止める理由はない。

 孝一は再び胸のふくらみに手を伸ばし、爪の先でその頂きをコリコリとひっかく。
「あ、や……」
 震える啼き声を耳にしながら、彼はもう片方を口に含んだ。軽く歯で挟みながら、舌先でねぶる。
「ぁあん、んっ」
 声を堪えるのと同じ強さで、孝一の胴を肉の薄い真白の太ももがきつく締め上げてくる。彼が小さな突起をなぶるのに合わせて、真白の下腹がひくひくとうごめくのが感じられた。

「ここだけでもイきそうだな?」
 笑いながらの孝一の台詞に、真白は半泣きで首を振る。彼は意地悪く目を細めると、真白の目を見つめたまま、片手を下げて為す術もなく開かされている彼女の脚の間へと差し入れた。
 和毛の奥に更に進めた指先に、ヌチュリと感じた潤み。それは、真白自身にも伝わった筈だ。その証拠に、火照っていた頬が、更に紅く染まる。
 孝一は溢れる蜜をこれ見よがしにすくい取り、濡れたままの指先で胸の先端で震える蕾の上に円を描く。そうして、もう片方には再び唇を寄せ、強く吸い上げた。

「や、それ、ダメ……ダメ……」
 赤く色づくしこりを翻弄する度に、真白の全身がビクビクと反応する。それを追い立てるように、孝一は責め続けた。
 次第に真白の息が浅く速くなり、孝一を締め付ける脚に力がこもっていく。

 と。

 彼が、コリ、とそれを甘噛みした時だった。

「ふ、ぅんッ」
 真白の全身を震えが走り抜け、硬直させたかと思うと、やがてぐたりと脱力する。
 時折身体をヒクつかせるのは、強い快感の名残だ。

「やっぱり、イけたじゃないか」
 言いながら孝一は身を乗り出し、彼女の唇に軽くキスをしてから目じりに浮かんだ涙を舌先ですくい取る。真白はと言えばまだ何も言えないらしく、息を切らしながら恨みがましげに見つめてきた。
「悪いな、まだまだ止めてやれないよ」
 もう一度唇に触れるだけの口付けを落として、そう囁いた。

 今日は、真白のあらゆる場所で感じさせて、先日の苦痛の記憶を全て消し去ってしまいたいのだ。叶うことなら、彼の身体で与えた痛みを、彼が与えられる快楽で全て拭ってしまいたい。

 真白には、二度と苦しみを与えたくない。どんな苦しみも。
 真白を、大事にしたい。慈しみたい。愛おしみたい――愛したい。
 今、孝一の中はそんな想いでいっぱいだった。

 と、不意に、ああ、そうか、と孝一は思った。

(多分、俺は真白を愛しているんだ)

 こんなふうに守りたいと思った相手は、今までいなかった。
 自分自身よりも相手のことを優先したいと思う相手に、出逢ったことがなかった。

 何がきっかけなのかは、判らない。
 何故、こんなふうに思うのかも、判らない。

 だが、真白を大事に、愛おしく想う気持ちは確かなものだった。
 こんな想いに気付いてしまっては、もう彼女を放せそうにない。

「俺に会ってしまったことが不運だと、諦めてくれよ」
 栗色の髪を撫でつけ、こめかみにキスをしながらそう言った孝一に、小さな呟きが返る。
「不運……? なんで……?」
 少し身体を離すと、大きな目が見上げてきた。何の濁りもない、心の内をそのまま映し出す、眼差しで。
「お前が嫌だと言っても、俺はお前を手放せないからだ」
 孝一は真白と額を合わせて苦笑混じりにそう告げる。

「お前が出て行こうとしたら、首輪を着けて鎖につないで閉じ込めてしまうかもしれない」
 自分は何ものにも執着しない人間だと、孝一は思っていた。だが、それは間違っていた。執着するに値するものを見い出せていなかっただけなのだ。
 ――見つけてしまったら、もう失くせない。
 自嘲の笑みを浮かべた唇を、不意に柔らかなものがかすめる。それは一瞬で離れていったが、確かな温もりを残していった。
 見下ろせば、腕の中で真白は微かに笑みを浮かべている。そうして、真っ直ぐで単純な言葉を口にした。

「コウ、大好き」
「真白……」
「わたし、コウにいらないって言われるまでは、傍に居たいよ」
「要らないと、言われるまでは――?」
「うん」
 それは即ち離れることはない、ということになるのだろうが、孝一には少々物足りない。
「そこは、要らないと言われても傍に居る、と言って欲しいところだけどな」
「え……」
 真白の困り顔に、孝一は小さく笑う。
 彼女にその我の強さがないことは、解かっている。だが、いずれ、何が何でも彼が欲しいと、言わせたい。何があっても傍に居る、と。

「まあ、おいおいな」
 そう囁いて、再びその口を言葉ではなく快楽を与える為に使い始める。手近な肩についばむようなキスをして、拾い上げた手の指先を唇に寄せた。
「コウ?」
 唐突に始まったいらいに、真白が戸惑ったような声で彼の名前を呼んだ。それに、ニッと笑って見せる。
「取り敢えず、俺がどれだけお前を『要る』と思っているかを、教えておくよ」
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